第36話 困惑
柾人の愛撫は、まるで自分が何者にも変え難い、彼にとって自分が宝物にでもなったかのような気持ちにさせた。
傷付けることを恐れ、万が一の事が無いように、ひたすら丁寧に触れる。
快感の渦に取り込まれながら、彩葉は困惑する。
どうしてこんな風に、柾人は彩葉に触れるのか。
気まぐれでも、単なる生理現象の解消に都合が良いからでも良かったのに。
これでは一生忘れる事など、到底出来なるじゃないか。
彩葉は確信した。
切なげな表情で、彩葉の身体に触れる柾人。
彩葉の反応を一欠片たりとも見逃すまいと、その視線が彩葉の顔から離れる事はあまりない。
こんな姿を見せられたら、好かれていると思いたくなるではないか。
それは余りにも酷い。
柾人に抱かれているこの時間は、きっと一生忘れない。
どれほど時間が経過しても思い出そうとすれば、きっと色鮮やかに一瞬にして蘇る。
きっと、一生柾人への思慕は色褪せない。
なんて酷い人なんだろう。
優しくて、残酷だ。
快感に翻弄されながらも、彩葉もまた切なさで胸が締め付けられた。
柾人が、彩葉の身体をゆっくりベッドに置いた。
そして、ベッドサイドのナイトテーブルに向かって手を伸ばす。
柾人の位置からでは、ナイトテーブルに届かなかったのだろう。
彩葉の身体を跨いだまま、少し前進するかのように柾人の身体が進んできた。
それにより彩葉の眼前に、柾人の屹立した欲望が近付いた。
尖端より、ポトリと糸を引いて彩葉の身体に落ちたのは、柾人の欲望が滲み出た滴。
硬く、怒張した柾人の欲望を表したモノは、ドクドクと血脈が見えるかのように彩葉の前でビクンッと揺れた。
それに。
彩葉は、そっと舌を伸ばした。
「…んっ!!」
そっと柾人の屹立したモノに手を添える。
彩葉は、舌先で先端をほじるように動かす。
そして傷付ける事の無いように、亀頭を咥えた。
「…ちょ…、ちょっと待て…!…クッ…」
焦りを滲ませ、彩葉を止めさせようとする柾人の制止は聞かなかった。
少し顔を上げ、彩葉はもう少し喉の奥まで柾人の陰茎を含んだ。
咥えながら、口腔内で舌を動かす。
器用に、柾人が反応する場所に舌を沿わす。
そして舐めながら、少し頭を動かした。
「…止め…てくれ…。今日は…いいんだ…」
柾人は彩葉の肩を掴むが、その手はあまり力が入っていない。
制止するものの、柾人は彩葉によって齎される愉悦も手放せない。
快感の波に呑み込まれそうになっている柾人から、抱き合う時にしか見せない男の色香を感じた。
荒くなる息遣い。
快感に耐え、時折力の入る身体。
漏れ出る、低く揺れる声。
彩葉の肩に触れる大きな手。
伝わる熱量。
そんな柾人の全てに、彩葉は更に欲情する。
既に、柾人の欲望を口にする事の悦びは知っている。
喉の奥までその熱を取り込む事で、柾人だけではなく自分も快楽を得る。
「…ヤバい…、止めろって…」
柾人の言葉に、彩葉は一度柾人の起立した陰茎を離した。
ホッとした様子の柾人に、彩葉は言った。
「…座って下さい。…し…たいん…です…」
柾人のみが快楽を得る為の手段では無いのだと、彩葉は言葉では言わないまま伝える。
その彩葉の言葉に、柾人はゴクリと溜まった唾液を飲み込む。
彩葉が柾人の身体の下から抜け出そうとする動きに合わせ、柾人も彩葉の横に座った。
大きく足を広げ、その中央に脈打つ欲望に、四つん這いになった彩葉はゆっくり近付いた。
その様子を、柾人は視線を捕らえられたかのように見つめた。
僅かな時間だと言うのに、まるでとてつもなく長い時間のようにも感じた。
ゆっくり彩葉の小さな口が開かれ、濡れた舌が口先から意図を持って出される。
そして彩葉は、柾人の滾る欲望に再び触れた。
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