第16話 過ちのその後

彩葉は目を逸らし、柾人に告げた。


“一夜の過ち“と。


少し近付けたと思った夜の事を。

手馴れていない彩葉を気遣い、荒々しく抱かない様にした夜の事を。

快感に溺れる彩葉のぐちゃぐちゃになった顔を“可愛い“と思った夜の事を。


全て“一夜の過ち“だと言われた。


頭部を何かで殴られたような、“ガンッ“という衝撃があった。


それからは上手く思考が働かない。


柾人は息が詰まり、言葉が吐き出せなかった。

そして思考は否定したい考えを引きずり出す。



デザイナーになりたかった彩葉。

デザイナーとして活躍する桐人。


2人で話す時の彩葉は屈託の無い笑顔を見せる。

片や柾人には、以前は引き攣った笑顔を。そして今は無表情で接する。


彩葉はデザイナーとしての立場を確立した桐人を、デザイナーとしても異性としても好いているのだろう。


自分は二人を引き離す邪魔な存在でしかなく、しかも肉体関係を強制した者。


そしてその肉体関係ですら、“一夜の過ち“として切り捨てられそうになっている。


柾人は奥歯をギリッと噛み締めた。


自分が否定される事に対して、自分はプライドが許さないのだと判断した。


桐人を見ている彩葉との間に、その他の感情があったとしても認める訳にはいかない。自覚無く、柾人は無意識にその他の感情を排他する。


「...なるほど...?“一夜の過ち“...ね。...それで?」


征人の低い声に、彩葉はビクッと体を揺らし、そろっと柾人に顔を向けた。


そこには、昨夜よりも更に獰猛な目をした男がいた。


「...あ...」


「...お前が“一夜の過ち“の始末を、忘れろと?」


柾人が再び彩葉の頤を掴み、今度は彩葉を逃がさない。


「...俺は...“過ち“を辞めるつもりは無い。その気にさせたお前が逃げるなよ」


「...で...でも...。」


小刻みに震える彩葉を、柾人は見つめる。

嗜虐的な感情が高ぶる。


「...なんだ?言ってみろ」


「...ああいった事...は...、やっぱり...好きな人と...」


嫌われている自分が相手では申し訳無いと考える彩葉の思考は、柾人には考えも及ばない。


むしろ今の柾人には更なる加虐心を齎した。


「...なるほど?...だから手っ取り早く“一夜の過ち“で片付けようとしてる訳か。」


「...違いますっ!!...そういう事じゃなくて...」


慌てて訂正しようとする彩葉の口に、柾人は頤にあった親指をねじ込んだ。


「...じゃあ、俺の気が済むまで“過ち“に付き合えよ。別に抱かせろとは言わない。その代わり...咥えろよ。口で逝かせろ。」


彩葉は驚愕で目を見開く。

一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。


しかし理解すると、ジワジワと顔が赤くなって違う意味で震える。


「...昨日と...今の様子じゃ...、男を口で逝かせた事も無いか?」


親指をねじ込まれたまま舌を押さえられている彩葉は、返事すらままならず頷く。


その言葉に、柾人は獰猛な目をしたままニヤリと笑う。


「...覚えろ。」


端的にそう告げると、柾人は親指を彩葉の口から出す。


座っていた彩葉の肩を抱き、ソファまで連れて行く。

そしてやや強引にソファに座らせた。


座った彩葉の目の前に立ち、新たに中指を彩葉の口元に差し出した。


「咥えてみろ」


そう告げられ、彩葉は震える両手を柾人の手に添えた。

そして自分の指より少しゴツゴツした大きな指に唇を付けた。


舌先で舐め、指先の先端を咥えながら挿抜する。

徐々に指は口腔内へ入っていく。


柾人の言葉に言いなりになりながら、彩葉は恍惚とした表情に変わっていく。


不意に柾人の指先が上顎を撫でる。

そしてその指先は更なる喉の奥へ向かう。


指が触れたことも無い奥を、柾人の指先が触れる。


「...喉を開け。少しずつ慣れろ。」


そう言われ、指が引き抜かれた。


指先が口腔内から無くなっても、喉の奥に触れられた後の違和感が甘い疼きとして残った。


ボンヤリとした表情を見せる彩葉の唇に、少し屈んだ柾人の唇が重なった。

既に薄く開いていた唇の間に柾人の舌が滑り込む。


そして舌が濃厚に絡んでいく。


まるでさっき柾人が彩葉に教えた口淫の方法をなぞる様に。

柾人の舌が彩葉の舌に絡み、舐め、吸い上げる。


繰り返されたキスに朦朧となった頃、ようやく唇が離れた。


柾人は再び真っ直ぐに立つと、自分の昂りを示すズボンの上に、彩葉の手を掴んで触らせた。


驚いて手を引こうとする彩葉の手を逃がさず、自分の手で上から押さえ込んだ。


「...あ、社長...?」


「...咥えろって言っただろう?お前が脱がせろ」


柾人の言葉に彩葉は逆らえない。


自分がした事の後ろめたさも多少はあった。

しかし少なくとも、今、彩葉は柾人に性的な意味で求められている。


その事が嬉しかった。

“過ち“であろうと、構わないと思った。


彩葉は初めての事に戸惑いながらも、柾人のズボンに手を掛け、下着ごと下ろした。


「...ちゃんと教えただろう?やってみろ」


戸惑う彩葉に、柾人は強制する。

半勃ちになった柾人のモノの先端に、彩葉の舌先が触れる。


指や舌とは圧倒的に違う質量に苦しさを覚えるが、それでも彩葉は教えられた通りに従順に柾人の昂りを咥えた。


次第に大きさが増し、硬くなってくる。


それでも柾人にはまだ余裕があった。


初めての口淫。当然ながら口技も拙いもの。

このままでは柾人は到底逝く事は無い。


柾人は彩葉の背中に手を滑らせ、彩葉のブラジャーのフォックを服の上から外した。


身動きが取れないまま彩葉は驚くが、喉の奥まで柾人を受け入れている為動けない。


それを良い事に、柾人の手で彩葉の身に着けた薄手のセーターとブラジャーが乳房の上に引き上げられる。


「...んっ」


抗議にもならない彩葉の声は、柾人に聞き入れられることは無い。


そして柾人の両手が彩葉の剥き出しになった乳房を触れた。


「...このままじゃ逝くのも無理だ。お前の声...聞かせろよ。」


そう言うと、柾人の指先が彩葉の両方の胸の尖りに触れた。


指先でかするように動かされ、彩葉はくぐもった声を上げる。


「...ふっ...昨日と同じ顔になってきた。...ほら、もっと咥え込め...」


そう言いながら、柾人の腰が僅かに前後し始める。


その間も柾人の指は彩葉の尖りを責める。

掠めていた指先は、先端を円を描くように擦り付けられ、次第にその尖りは硬くなって存在感を表す。


「...んっ...ふぅ...っ」


彩葉は鼻から抜けるような声を出す。

触れられ、感度が増していくのを止められない。


「...感じて...ぐちゃぐちゃの顔になってる...」


柾人は彩葉の両方の尖りに人差し指の真ん中に添わせると、上から親指で摘み、軽く押し潰すように捏ねあげた。


「んんッ!!...んんん...ふぅっ」


それを続けられ、益々声が止まらなくなる。

その様子を見下ろしながら、柾人の腰の動きも徐々に速度を増す。


「...その...ぐちゃぐちゃの...ブサイクな顔...」


荒い息を吐き出しながら、柾人は彩葉を罵る。


「...それ...他の男に見せれるのか...?」


彩葉の目尻に滲む涙は苦しさからなのか、悲しみからなのか。


「...止めとけよ...」


柾人は彩葉の乳房から手を離し、彩葉の頭を両手で掴んだ。

そして抵抗を許すことも無く、しかし喉の最奥まではいかないように注意しながら腰を振る。


「...くぅ...っ!!...出る...っ」


そして彩葉の喉の奥に柾人の欲望が吐精される。

奥に出された事で、彩葉は否が応でもそれを飲み込む事になった。


柾人はことが済むと、下着とズボンを整える。


「...これからは...お前が望めば逝かせてやるし、更に望むなら入れてやるよ。」


中途半端に煽られた彩葉は呆然としている。


このまま放置されるという事だけは分かった。

しかし自分の欲望を柾人に訴えるには羞恥心があり、今の彩葉には無理だった。


ボンヤリとして動かない彩葉の衣服を柾人は整えてやる。


そして耳元で囁いた。


「...明日からも...よろしく」

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