第10話 チープな誕生日会
今日は、無愛想な我が秘書殿の『誕生日』だと言う。
普段苛立ちながらも、これ程までに気にしている秘書のプロフィールを把握していなかった自分に舌打ちしたい気分になった。
基本的に人付き合いを大事にしている柾人は、周りの関係者への祝い事の際には、何かしら贈り物をする。
なのにも拘わらず、彩葉へのプレゼントの用意どころか日付すら把握していなかったとは。
せめてと思い、ケーキを購入し手渡した。
そこで、またしても失態を犯す。
予定を確認すれば良かったのに、しなかった為に『ホールケーキ』を用意した。
する事が、全て後手後手になる。
話の流れで、柾人の自宅で購入したケーキを食べるようになった。
「…社長、お食事…本当にコンビニで良かったのですか?」
普段、柾人が一人の時はどのような夕食を摂っているのか知らない彩葉は、一緒にコンビニを訪れた柾人に聞く。
「…別に俺はコンビニでも牛丼でも普通に食べれるが?」
もちろんそうだろう。しかし『社長』である柾人がコンビニの食事や牛丼を食べるという違和感が拭えない。
「ほんの少し前まで、小さな“有島家具“の社員として働いていたんだ。そんな気取った食事なんて、付き合いの時以外はしてない。」
そう言うと、柾人は手にした籠にサラダやパン、それに何故かハンバーグや焼き魚、お浸しなどをドンドン入れていく。
「…社長?何だか統一性が無く、手当り次第な印象を受けますが?」
籠に入れていくスピードに驚きながら、彩葉は柾人に声を掛けた。
「…今週末は、珍しく何も予定が無い。自宅で軽く仕事をするくらいだからな。ついでに自分の食事も買う。」
「…え?」
「…何だ?」
今週末に予定が無いと柾人が言った事に、彩葉は過剰に反応した。
その言葉に、柾人も反応する。
「…いえ、…その…クリスマスなのに…社長の予定が無いと言うことに…少々驚きまして…」
「…別に大した事じゃないだろう?俺に決まった彼女がいない事はお前だって分かっているだろう?なら騒々しい外に出ることもない。」
どうでも良い事のように柾人は言う。
年末の書類関係の中には、クリスマス近くのパーティーの招待のモノもあった。
しかし柾人の指示で、彩葉は全て欠席の連絡を行った。
だからこそ、きっと友人や女性との付き合いがあるのかと思っていた。
業務のスケジュールを立て、その中には個人的な付き合いの返礼品を用意することもあった。
女性物を用意した事は無かったし、スケジュール的にも彼女がいるような動きは無かった。
それでも、プライベート全てを知っているわけではなかった。
だから驚いた。
まさか容姿端麗な柾人が、たった一人でクリスマスを過ごすとは。
「ただの、忙しない年末だ。…そういうお前こそ、…今日はともかく、明日、明後日は予定があるんじゃないのか?」
ふと柾人が振り返り、彩葉を見ながら問う。
その柾人に、彩葉は首を振って否定した。
「…私こそ…一人でゆっくり過ごす予定でした。大掃除…と言っても、一人暮らしのアパートなので一日で終わると思いますが…して…。後は…観葉植物の手入れ…くらいですかね?」
「…俺も仕事だし大概だが、お前の方が…」
「…はい。人の事など言えませんでした。」
無表情で真面目に答える彩葉の言葉に、柾人は「プッ」と吹き出す。
「まぁ、クリスマスイブでもなければ、急な事でかなりチープな誕生日になるが、ケーキも食べるし良いんじゃないか?」
そう言うと、柾人はいっぱいに商品が入った籠をレジに置いた。
「…相手が俺なのが難点だろうが…」
柾人がポツリと、そう呟いた。
その言葉に、彩葉は勢いよく顔を上げた。
「とんでもない!!…ありがとうございます。」
「…そうか…」
二人に何とも微妙な空気が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます