第12話 長込谷のサンタ劇ー終

飯屋の中は美味しそうな香りで満たされており、実際料理はかなりうまかった。今度、イエちゃんと和斗くんにもご馳走してあげたいぐらいだ。そんなことを思いつつ俺はある人物が来るのを待っていた。そして…

「来ましたよ、米良さん。目的の人物が。」

その人物とは白色の髭が生えた、年の取っている男性だった。肩幅はでかく、顔にはシワが刻まれている。

「あの白色の髭…」

米良さんは何か気づいたように呟いた。

「待っていましたよ、ジョンさん!ちゃんと白髭をつけてきてくれて光栄です!」

そう、その男性はジョンさん…つまり、アリス嬢さんのお父さんだ。

「アリスからメッセージの書いた紙をもらいました。家達さん…あなたの話は聞いておりましたが、まさかここまでとは!」

ジョンさんは白いつけ髭を外しつつ、話した。

「ありがとうございます。ともかく、席にお座りください。」

「ああ、すまんね。」

ジョンさんはゆっくりと椅子を引き、腰を下ろした。

「家達くん…紙っていうのはアリスちゃんに渡してたものよね?何を書いてたの?」

「いやなに、7時頃にこの飯屋に来てほしいと…当然、犯行の際につけていた白髭を身に付けてね!」

「もしかして、この髭が純くんが見たって言う白いもの?」

「はい、そうです。サンタの格好ならば、髭は付き物ですからね。」

俺は落ち着いた調子でそう返事をした。一方でジョンさんはそわそわした様子だ。

「……あなたに変に言い訳しても無駄でしょう。あなたのことです。どうせ証拠もあるでしょう?認めます…私が真柏千也を殺しました。」

ジョンさんは震えた声で罪を認めた。

「よかったです、すぐに自白してくれて。いや、それとももとより自白する予定だったのですか?」

「…確かにその通りです。頃合いがついたら自白しようとしていました。ただ、思ったよりも早くばれてしまいましたがね。まあ、目的は達成されました。」

「目的…ぜひ教えてくれませんか?この事件の全貌を。」

「はい…といってもあなたなら既にある程度分かっていそうですが、話しましょう。まず大前提として、私にとってアリスはとっても大切な娘なんです。」

「はい、分かりました。」

「アリスは真柏純を愛しておりました。当然、父として彼女の恋を応援しておりました。アリスが結婚したいと言えば反対する理由など少しもありません。」

「ですが、結婚が難しいとお嬢さんはおっしゃっていましたよ?」

「ええ!そこなんです!全ては千也が悪いのです!彼と初めて会ったのは故郷オーストラリアでした。それ以降、日本でも長く付き合ってきました。だからこそ彼はいくつか私の弱みを持っていて、時おり脅すのです!お金をよこせだのなんだの言って……あの劇団の資金はほとんど私のものから出されています!」

「だから、殺したと?」

「いや!もとより弱みとなるような行動をした私にも非があります。多少恨みはすれども殺そうだなんて思いません!ただ!彼は私の愛娘をも利用しようと考え始めたのです!自分の息子である純と、私の一人娘であるアリスを結婚させれば、私の遺産は自分のものになると!私は何度も断りました。そんな結婚はさせないと。金や土地など一切関係ない純粋な愛で、アリスには結婚させてあげたかったのです。彼が生きている以上、アリスを利用しようとするでしょうし、なんなら彼は「結婚を認めなければアリスを傷つけることになるぞ」とも言い始めました。私は我慢が出来ませんでした。そんな時にある人物にであったのです!」

「ある人物?」

「これをどうぞ。本当は現場に出来れば置いてほしいと言われたのですが……如何せん人を殺して冷静ではいられなかったので。実際、ついこの髭を落としてしまいました。純くんが劇の皆を呼びに行った隙に、拾いましたが…。」

ジョンさんが差し出したものは…『森亜』と書かれたカードだった。森亜…!

「あなたのことですからもう1人の犯人を知っているでしょう?彼からもらいました。今回の犯行が成功したのも彼のお陰です。」

「そうなんですね…」

備品整理の担当者は2人いて、男性と女性だった。俺は純くんに体格の近かった男性をとらえるよう、ここに来る前に安見刑事に頼んできた。まさか、彼がこのカードを持っていたとは。組織のしたっぱだろうし、情報もさほど得られないだろう…だが確実に、森亜の関わる事件は増えていっている。

「ジョンさん。最後に1つ、質問していいかしら?どうして、純くんを犯人にしたてあげたのですか?森亜は罪のない人を事件に巻き込まないはずですが?」

米良さんはそう聞いた。

「純も1つ罪を犯したのです。彼はよく飲み屋に行くのですが、その際めんどくさい女と酔った勢いで関係を持ってしまったのです。アリスのことを思っておきながら、当然そのような行為は許されません。それに、その女は純を気に入っているようでなかなか離れませんでした。」

「だから、純くんに罪を?」

「はい。アリスを裏切った罰です。ただ、彼自身は反省しているようで、アリスのことを愛しているのは変わらないので、さすがに罪を完全に被せようとは考えていませんでした。」

「だから、いずれは自白しようとしてたんですね。それで、その純くんに付きまとってる女性はどうしたのかしら?」

「その女は薄情なもので、純が捕まったと分かったとたん離れたらしいです。まあ、結果としてよかったですが。…他にご質問は?」

「ありません。家達くんは?」

「あっ、大丈夫です。」

「そうですか。では、私はこれにて。警察に行かねばなりませんから。」

そう言ってジョンさんは店を出ていった。俺たちも食事を取った後、アリス嬢さんに報告をし、家へと帰っていった。アリス嬢さんはお父さんが犯人だったことにショックを受けていたようだが、純くんと人生を歩んでいくことに幸せそうでもあった。




「以上が、俺がクリスマスに解決した事件の全貌だよ。2人とも、何か質問はあるかな?」

家達さんが喋り終わると同時にイエがピンと手を上げた。

「はい、イエちゃん!何かな?」

「お兄ちゃん、アリスって子に紙を渡してたでしょ?ジョンさんを呼び出すための。ってことはあの時点でジョンさんが犯人って分かってたってことだよね?現場を調査する前なのにどうして?」

「あはは、いい質問だね!そこが、さすが小太家達と言ったところだろう!」

「自分で言う?」

「単純な推理さ。アリス嬢さんの話から、ジョンさんは被害者と長い付き合いで、純くんのことも知っていると分かる。この事から、容疑者の1人に考えるのは自明だろう?」

「ん、そだね。」

「ここで俺は被害者が最後に言った『うし』について考えたんだ。当然、牛のことではないだろうし、何かの単語を言って、その一部しか純くんが聞き取れなかったと思ったんだ。死に際に言うぐらいだから、犯人にまつわる情報…つまり名前や出身、性別とかだと思い、頭の中で列挙してみた。そこで、アリス嬢さんから聞いた出身地オーストラリアの別名である豪州が浮かんだ。」

「でもどうして、オーストラリアって直接言わなかったんでしょうか?」

僕は家達さんに疑問を投げ掛けた。

「俺も最初はそう思ったが、ある結論に達した。「犯人に聞かれたくなかった」というね。もし犯人の情報を伝えたとばれたら、伝えられた側の純くんも殺されるかもしれない…そう考えたんだろう。だから豪州と言った。オーストラリア出身ならば、その名を知らない可能性があるしね。実際アリス嬢さんは、お父さんは漢字が苦手と言ってたからね。」

「けど、そもそも純くんの「『うし』って聞いた」って言う発言が嘘の可能性もあるよね?それに、本当だとしてもアリス嬢さんが犯人かもしれないじゃん!」

「そうだね。けど、もし純くんが犯人で、ジョンさんに罪を擦り付けたいなら「『オーストラリア』って聞いた」って言うはずさ。わざわざ分かりにくく言うはずがない。だからこそ、俺は純くんが犯人ではなく本当のことを言っていると考えて推理したんだ。アリス嬢さんについても、彼女は見たところ本当に純くんを愛しているから犯人にしたてあげる理由がない。それに…」

「それに?」

「純くんが本当のことを言っているとなると、偽の口論劇を作ったやつがいると分かる。なんせ純くんは散歩していただけらしいからね。口論を夜にしたとは言ってない。あとは、落ちていた白いもやっとしていたやつもだね。口論の後、純くんが死体発見時に見つけた何か…僕は衣装の一部……サンタのつけ髭を落としたのだと考えたんだ。とすると、白い髭をつけ慣れていない誰かが、成りすまして口論をしたと思ったわけだ。」

「そこで安見刑事のミスに気づいたんですね。」

「うん!「刑事ミスってるぅ!」と心の中で思ったもんだね!」

「うざい言い方……嫌われるよ…刑事に。」

「大丈夫さ。彼は優しいし。何はともあれ、偽の劇で純くんを演じるにはアリス嬢さんは、体格が小さいだろうと推測したのさ。」

「さすが、お兄ちゃん!…けど、やっぱりお兄ちゃんにしては大胆な推理だね。その時点では明確な証拠もないし、純くんが絶対に犯人じゃないとも言いきれないし。」

「その通りだよ、イエちゃん。俺にしてはかなり大胆な推理だ。けど僕は、安見刑事を信じていたのさ。彼が純くんを犯人だと思ったからにはそちらの方向での捜査は十分だろうとね!」

「だから反対に、純くんを犯人じゃない…本当のことを言ってるって仮定した方向で推理したの?」

「うん!それに、アリス嬢さんが言ってたろう?劇団のみんなも純くんが犯人じゃないと思ってるって。俺は思うんだ。そんなみんなに愛されているような人が犯人であってほしくないってね。だからこそ、純くんは犯人でないって前提で、彼の言葉を信じて推理したのさ。」

「お兄ちゃん…」

家達さんは僕らより年上で、当然イエよりも探偵としての歴が長い。いろんな事件を担当し、見てきたからこその考えなのだろう。僕は家達さんのこの言葉がなんだか少し、嬉しく感じた。

「まあ、ともかくこの事件は一件落着さ!他にも話したいことはたくさんあるし、遅めだけどクリスマスケーキにプレゼントも買ってきたから、楽しむとしよう!」

「うん!」

僕とイエは家達さんの呼び掛けに強く返事をした。

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