第12話 長込谷のサンタ劇③

俺たちはその平行な2つの線に沿って歩き始めた。すると、もとの通り道に戻ってきた。線はまだ奥…つまり、右側の森に続いている。

「やはり、思った通りです!」

「どういうこと?」

「俺はずっと気になってたんです。少女は本当に容疑者たちの口論を目撃したのかって。」

「嘘をついてたってこと?」

「いや、嘘ではありません…ただ、その子が見たのは別の口論だったのです。いわば、真犯人が純くんに疑いをかけるために行った小さな劇のようなものです。」

「確かに森の中は同じ景色が続くし、特徴となる池もこの道からじゃうまく見えない。直後に殺人事件があったと聞けば、記憶が混乱してもおかしくないわ。」

「はい。そのため少女はそこの現場で口論があり、そのまま殺人が行われたと勘違い…というより思い込んでしまったのです。」

「なるほど、だから家達くんは安見刑事に別人の可能性を聞いたのね。じゃあ、家達くんの推理が正しいとして、その口論劇はどこで行われたのかしら。」

「それも推測できますよ。さっき話したようにこの森は足跡が残りやすいですからね。きっと口論劇の跡が残っているはずです。真犯人は当然その跡を見られたくない……見られてしまったら、偽の口論がばれてしまうから。だとしたら、最も注意が向かないところで口論劇を行ったはずです。つまり!死体が発見された現場の反対側……この道の右側です!そして、この2つの平行な線もそこへ続いているはずです!」


俺は先導して、右側の森の中に入っていった。森の中に入って5分ほどが経ち、ついに証拠となりそうなものを見つけた。

「ビンゴ!ここです!足跡があります。線もここが終点…いや!始点でしょう!」

「それって…!」

「ええ、ここで真犯人はわざとサンタの格好をした被害者と言い争い、口論の目撃者を作った!そして、そのままここで殺害をし、池の近くまで運んだ!」

「つまり、純くんの格好をしていたのが真犯人なのね。」

「はい、見てください!この足跡を!靴の形は先程の純くんのものと似ていますが、やや深いです。これは純くんより体重が重いことを示しています!これは真犯人の存在を示しています!」

「なるほど……じゃあ、どうやって池まで運んだのかしら?」

「もう1つの足跡を見てください。丸っぽい足跡です。当然これはサンタの格好をした被害者の足跡ですが…現場にこの足跡はありませんでした。」

「!」

「この事から、池の近くに何かで死体が運ばれたと推測でき、それはこの平行な2本線が教えてくれます。」

「いったいそれって?」

「そりですよ!そり!サンタクロースの劇と言えばそりがあるはずです。テントから盗んだんです。衣装もろもろとね。おそらく、スペアかなにかがあったんでしょう。当然そりを使った後はもとのテントへ戻すでしょうから、その跡も残っているはずです!」

「そうね、探しましょうか。…そうだ、家達くん。あなたが現場で地面の跡を調査してたとき、こんなものを見つけたわ。」

そう言って米良さんはスマホで取った写真を見せてくれた。それは、何かで強く殴られたように凹んだ木の写真があった。

「純くんが聞いたって言う鈍い音ってこれなんじゃない?」

「ナイスです!米良さん!犯人が純くんを第一発見者にするために、タイミングを見計らって鈍い音を出したんだ!これで論理の道がほとんど完成しました!」

真犯人は、まず右側の森で被害者と口論をし、少女に目撃させた。次に少女が去った後、そのまま被害者を殺し、そりで左側の森の池まで運んだ。そして、木を殴って純くんを呼び、第一発見者にしたてあげた。当然、殺害の前に口論をしたー実際は偽物だがーのを目撃され、第一発見者である純くんは疑われる。これが今回の事件の大まかな真相だろう。

「後は…テントで劇団の人に話を聞きましょう。そりのこととか、スペアのこととか。」

俺たちはテントの方へ戻り、話を聞いた。結果、満足した答えを得られた。思っていた通り、劇ではそりを使っているし、衣装や道具はいくつか予備があることが分かった。また、それらの予備は基本的にテントの裏側で保管しており、衣装や道具がダメにならない限りあまり確認しないので、少しの間盗まれていても気づかないことも分かった。そして、予備のそりの内の1つに森の中にある葉っぱがついており、それを犯人が使ったと言うことも確認した。


「1ついいかしら?家達くんの推理通り口論が犯人によるものだとすると、どうして純くんは口論をしたって言ったのかしら?」

「そのことについては…安見刑事からメールが着ています。」

「メール?」

「俺が先ほどメモの内容を純くんに聞くよう頼んでいたでしょう?あの返事です。「純が口論をしたのはお前の予想通り、事件より前…早朝だった。」とメールに書かれています。」

「早朝?」

「安見刑事は取り調べの際、「口論をしたか?」とだけ聞きました。いつしたかは聞いてないんです。」

「なるほど…だから純くんは当日にしたか?と聞かれたと思って、「した。」と答えたのね。安見刑事は事件直前にしたと思い込んでるから…見事なすれ違いが起きたのね。」

「そう言うことです。」

「じゃあ、これであとは真犯人を見つけるだけね。」

「いや、それももう完了しています。」

「えっ!」

「犯人は当然、被害者に恨みをもっている…つまり、身内や友人の可能性が高い。そして、オーストラリア出身で漢字があまり得意ではない。」

「ちょっと待って!その情報はどこで手に入れたの?」

「純くんが、被害者が最後に『うし』と言ったのを聞いたと言ってましたよね。亡くなった今、確実な答えを出すことはできませんが…俺はあれが『豪州』…つまり、オーストラリアのことだと思ったんです。豪州の2文字目と3文字目だけを純くんは聞いたのです。」

「!…てことは、犯人はアリスちゃん?」

「いや、口論劇の跡を調べた際に犯人は純くんより体重が重いと分かったはずです。お嬢さんは、可憐な少女ですし、純くんよりも重いとは思いません。つまり………この続きは飯屋でしましょうか!」

「飯屋?」

「はい。電車のなかで調べたところ長込村には美味しい飯屋があるらしいです。なので、そこで話しましょう!真犯人と共にね!」

「!!」


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