第11話 長込谷のサンタ劇②
「家達くん、2人に何を渡したの?」
「さあ?後のお楽しみですよ。それより、見てください!結構足跡が残ってますよ。」
「ほんとね。地面がじめじめしてるためね。」
赤いテントについた俺たちは地面を見ながらそう会話した。そして足跡を見つつテントの裏側へ歩いた。
「裏からも真っ直ぐ整備された道があるのね。足跡がいくつかある…劇団の人はここを通ってるのかしら。」
「そうでしょうね。ただ、そっちよりあっちの足跡の方が気になりますね。道が整備されていないのに、森の中へ続く足跡がたくさんあります。」
「確かに気になるわね。」
「おそらく、あの足跡の方に例の池があるんでしょう。純くんが劇団の人たちを呼び、最短ルートで現場へ向かった。」
「そうね…じゃあ、私たちも直接池に向かう?」
「いや、整備された道の方を行こう。口論を目撃したという少女は、きっとこの道から目撃しただろうからね。」
俺たちは整備された通り道を歩き、時おり左右を確認した。左右は共に木が並んでいるだけで景色はあまり変わらない。ここでは分かりやすくするために左側の森と右側の森と呼ぶことにしよう。
「あっあれが池かしら?ここからだと、はっきり見えづらいわね。少女が口論している2人の顔をはっきり見えないのも無理ないわ。」
米良さんは左手側を見て、そう言った。
「ええ、生えている木が所々視界を遮りますしね。とりあえず現場の方へ向かいましょう!」
俺たちは左側の森にある池の方へむかい、調査を始めた。
「あっ、ここが死体のあったところね。」
池の近くに警察が死体の跡をかたどった目印があった。まあ、仮になくても死体の会った地面はやや凹んでいるから一目で分かる。
「純くんが劇団の人を呼んだお陰で足跡がぐちゃぐちゃね。」
「まあ、良く見れば分かりますよ。優秀なことに警察は、なるべく現場の足跡と自分達の足跡が混ざらないよう調査してくれたようですし。」
俺は地面をじっくりと観察した。
「ありました!純くんの足跡です!」
純くんの足跡の特定は簡単だった。純くんは、通り道を散歩している途中にお父さんの死体を見つけ、近づいた。そして、劇団の人を呼ぶためテントと現場を往復した。つまり、通り道から現場までと、テントから現場までの2つのルートに共に残っている足跡が純くんのものだ。
「それとこっちの足跡も気になりますね。近くに平行な4つの線がありますし。」
「確かに、なんの跡かしら。うち2つは薄いようだし…」
「この4つの線…消そうとした跡がありますが、所々に残っています。この小太家達をごまかすことは出来ません!」
俺はその途切れ途切れな平行線を注意深く観察した。
「どうやら、テントの方へ続いているようですね。劇団の人たちの足跡でかなり見えづらくなってますが…」
「テントに?いったいなにかしら。」
「……ははは!」
「どっどうしたの?」
米良さんはどこか心配そうな声を俺にかけた。
「いやなに、やっぱり、自分の推理の方向が間違ってないと分かったときは気持ちいいものですね!」
「推理の方向?」
「ええ、少女が見た口論は純くんと被害者のものではなかったと言うことです。いわば、偽物の口論ーー小さな劇のようなものですよ!」
「偽物の口論…?ってことは誰かが変装していたってことかしら?」
「そういうことです。純くんに罪を擦り付けるために口論劇をし、少女に目撃させたのです。」
「筋は通らなくもないけど…偽の口論だなんて、少し無理矢理にも感じるわ。って言っても家達くんが証拠もなしに言わないわね。」
「さすが!よく分かってますね!その証拠こそがまさにこの4本の平行線です!」
俺は地面にうっすら残っている平行線を指差した。
「これは、ある乗り物の存在を表しているんです!」
「乗り物?」
「ええ!死体を運んだね!」
「死体を…!ってことはまさか!本当の現場はここじゃないってことかしら!?……待って、確かにそれなら口論劇をした理由もできるわね…ここで口論をした後、純くんが死体を発見すれば、間違えなく彼が疑われる…!」
「その通りです!米良さんならば、その乗り物も分かるのでは?」
「乗り物…」
米良さんは手を顎に当てて考え始めた。
「この4本線はテントの方に繋がってました。つまり!テントから死体を運んできて、その乗り物を戻すためにまたテントへ向かったんです!」
「ということは、乗り物は往復しているから……本来は2本線が残る乗り物ってことね。それでいてテントにあるもの……テント…劇団…クリスマス…サンタ……まさかっ……そり!!」
「はい!おそらく!サンタクロースにまつわる劇なら、そりがあってもおかしくないでしょう!」
「なるほど…つまり、家達くんの推理を整理すると……まずテント内で殺人が起き、死体をここまで運んだ。そして、口論劇を行い、少女に目撃させた。その後に純くんに死体を発見させた…ってことね。今思えば平行線のうち2本が薄いのは、死体を置いて軽くなったからなのね。」
「まあ、1つ訂正するならば、テント内では殺しきれなかったことですかね。被害者は木の棒で2発殴られてしますし、純くんは被害者の言葉を聞いています。」
「要するに、テント内で1発殴り、被害者は気絶した。次にこの池まで運んで口論劇をした後に、被害者が目を覚ますなりなんなりして、犯人がまだ生きていることに気づいた。そこでもう1発殴った…」
「純くんが聞いた鈍い音はそれでしょう。犯人はすぐさま身を隠し、純くんは死体の方へやって来た。即死に至らなかった彼の父親は最後の力を振り絞って、純くんに言葉を遺した。」
「『うし』…っやつね。」
「では、テントに行きましょうか。いろんな証拠が見つかるでしょうし。」
「そうね。………家達くんの考えでは犯人は2人いるってことよね。口論劇には純くん役と、彼の父親役が必要でしょうし。」
「そうですね。ただ2人とも既に捕まえたようなものです。」
「!」
「1人は簡単です。この犯行ではそりや、純くんと被害者の衣装、劇で使う木の棒が用いられています。恐らく、劇の予備かなにかを使ったんでしょうが…これらを怪しまれずに持ち運びできるのは数が限られます。」
「劇団でも特に、備品整理担当の人ってことね。」
「俺は、2人のうちサンタの格好をした方が主犯だと思っています。赤い服装は返り血を多少浴びても分かりづらいですしね。備品整理の人はその手伝いで、純くんの格好をした方だと予想します。つまり、純くんと体格が似かよっている人です。」
「なるほどね…じゃあ、もう1人ーーサンタの格好をした主犯は誰かしら。」
「まあ、それも既に分かっています…が、とりあえずテントに行き、殺人の証拠がないか確かめましょう!」
「!……ええ。」
俺たちはテントの方へ戻り、話を聞いた。結果、満足した答えを得られた。思っていた通り、劇ではそりを使っているし、衣装や道具はいくつか予備があることが分かった。特に、サンタの衣装は1つ失くなっていた。恐らく返り血がついたため戻さなかったのだろう。また、それらの予備品の保管室で僅かながら血痕を確認した。ここで殺人をし、そりで運んだわけだ。そして、予備のそりの内の1つに森の中にある葉っぱがついており、それを犯人が使ったと言うことも確認した。
「1ついいかしら?家達くんの推理通り口論が犯人によるものだとすると、どうして純くんは口論をしたって言ったのかしら?」
「そのことについては…安見刑事からメールが着ています。」
「メール?」
「俺が先ほどメモの内容を純くんに聞くよう頼んでいたでしょう?あの返事です。「純が口論をしたのはお前の予想通り、事件より前…当日の朝だった。」とメールに書かれています。」
「朝?」
「安見刑事は取り調べの際、「口論をしたか?」とだけ聞きました。いつしたかは聞いてないんです。」
「なるほど…だから純くんは当日にしたか?と聞かれたと思って、「した。」と答えたのね。安見刑事は事件直前にしたと思い込んでるから…見事なすれ違いが起きたのね。」
「そう言うことです。初歩的なミスでしょう?」
「そうね。じゃあ、これであとはもう1人の犯人を見つけるだけね。もう既に分かっているって言ってたけど…。」
「そうですね。犯人は当然、被害者に恨みをもっている…つまり、身内や友人の可能性が高い。そして、オーストラリア出身です。」
「ちょっと待って!その情報はどこで手に入れたの?」
「純くんが、被害者が最後に『うし』と言ったのを聞いたと言ってましたよね。亡くなった今、確実な答えを出すことはできませんが…俺はあれが『豪州』…つまり、オーストラリアのことだと思ったんです。豪州の2文字目と3文字目だけを純くんは聞いたのです。」
「!」
「犯人はサンタの格好ーつまり、被害者の衣装を着てました。」
「じゃあ、被害者に体型が近しい人…」
「………この続きは飯屋でしましょうか!」
「飯屋?」
「はい。電車のなかで調べたところ長込村には美味しい飯屋があるらしいです。なので、そこで話しましょう!真犯人と共にね!」
「!!」
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