第11話 長込谷のサンタ劇②
「あなたが小太家達様ですか!?」
その少女は真っ先に僕の方へ来て、そう尋ねた。
「そうですよ。お嬢さん。あなたは?」
「『田中 アリス』と申します!家達様!どうか、純を助けてください!」
「お嬢さん……もしかしてあなたが僕たちに依頼を?」
「はい!刑事さんはみんな彼を疑っています!でも、そんなわけないんです!彼は虫も殺せないような優しい方なのです!劇団の皆さんもそう言ってくださってます!村のみんなもです!」
彼女は涙ぐみながらそう訴えた。
「お嬢さんにとって純くんは大事な人なんですね。」
「はい!いずれは人生のパートナーとなる予定ですもの!」
「ほう?じゃあ純くんとは長い付き合いなんですか?」
「はい!私のお父様と純くんのお父様は仲が良く、私たちもずっと昔からの付き合いですの。」
「君のお父さんは?君はなかなか裕福な暮らしをしてそうだし、見た感じ純日本人って訳でもなさそうだ。」
俺は彼女の着るきらびやかな服装と、走ってきた方向にある屋敷を照らし合わせて言った。
「はい。お父様はジョンと申し、オーストラリア出身です。私たちはあそこの屋敷に住んでおり、ここらの土地はお父様が所有しています。」
「それはすごいお父さんですね。」
「はい…けれど、そのせいで純との結婚が少し難しいのです。お金のこととか土地のこととか…私はただ純と一緒になりたいだけなのに…。純もよく彼自身のお父様と揉めていたそうです。おそらく今日、口論していたのもそのことです!」
「なるほど…」
「凶器と言われてる棒だって純が使うはずありません!あれは悪者退治に使うもので、父親を殺すためのものではありません!」
「悪者?」
「はい!劇で主役の純が不良に襲われるシーンがあるんです!そこで純が落ちていた棒を手に取り、勇敢に戦うんです!とてもかっこよかったです!」
「かっこよかった…ということはあなたは劇を見たことが?」
「はい!劇は4日連続で行われる予定でしたので、全て見ましたわ!最終日の今日も純の活躍を見たかったです……」
「それは残念なことですね。」
「はい…」
「ちなみにあなたは今朝はどこに?」
「私は買い物に行っておりました。劇が始まる前に他の用事を済ませておこうと思いまして。……それより、家達様!純は助かりますよね!?」
「はい!任せてください!この小太家達、今度お嬢さんに会うときは良い報告ができると約束します!」
「まあ!ありがとうございます!」
「ただ、1つ頼み事がありまして…」
俺は持っていた手帳にあることを書き、破ってお嬢さんに渡した。
「これをあなたのお父さんに渡してほしいのです。」
「これを?分かりました…あっ、すみません!お父様は漢字が苦手で…」
「そうですか!では、ふりがなを振っておきますね。」
「はい、ありがとうございます!よい報告をお待ちしていますわ!」
そう言って彼女は屋敷の方へと走り出した。
「厳しいのはあなたの方ではないですか。」
安見刑事は俺を見て、言った。
「お嬢さんにあんな希望を持たせて…いっそ、はっきりと容疑者が犯人だと伝える方が優しいってもんですよ。私にはあんな酷なことはできません。」
「そうですかね。まあ、安見刑事はまず自分の心配をした方がいいでしょうね。」
「なんですって?」
「とある失態をおかしているんですからね。まあ、恥をかく前にここに書いたことを容疑者に聞いてきてください。」
俺は手帳にあることを書き、安見刑事に渡した。
「……何を考えているのです?」
「そのうち分かりますよ。では、俺たちは現場を調査するので。」
俺たちはその場を離れ、赤いテントの方へ向かった。
「家達くん、2人に何を渡したの?」
「さあ?後のお楽しみですよ。それより、見てください!結構足跡が残ってますよ。」
「ほんとね。地面がじめじめしてるためね。」
赤いテントについた俺たちは地面を見ながらそう会話した。そして足跡を見つつテントの裏側へ歩いた。
「裏からも真っ直ぐ整備された道があるのね。足跡がいくつかある…劇団の人はここを通ってるのかしら。」
「そうでしょうね。ただ、そっちよりあっちの足跡の方が気になりますね。道が整備されていないのに、森の中へ続く足跡がたくさんあります。」
「確かに気になるわね。」
「おそらく、あの足跡の方に例の池があるんでしょう。純くんが劇団の人たちを呼び、最短ルートで現場へ向かった。」
「そうね…じゃあ、私たちも直接池に向かう?」
「いや、整備された道の方を行こう。口論を目撃したという少女は、きっとこの道から目撃しただろうからね。」
俺たちは整備された通り道を歩き、時おり左右を確認した。左右は共に木が並んでいるだけで景色はあまり変わらない。ここでは分かりやすくするために左側の森と右側の森と呼ぶことにしよう。
「あっあれが池かしら?」
米良さんは左手側を見て、そう言った。
「見えづらいですね。」
「ええ、窪地に水がたまってるようね。横からじゃ見にくいわ。」
「思った通りです。」
「?」
「とりあえず現場の方を見ましょう。」
俺たちは左側の森にある池の方へむかい、調査を始めた。
「あっ、ここが死体のあったところね。」
池の近くに警察が死体の跡をかたどった目印があった。まあ、仮になくても死体の会った地面はやや凹んでいるから一目で分かる。
「純くんが劇団の人を呼んだお陰で足跡がぐちゃぐちゃね。」
「まあ、良く見れば分かりますよ。優秀なことに警察は、なるべく現場の足跡と自分達の足跡が混ざらないよう調査してくれたようですし。」
俺は地面をじっくりと観察した。
「ありました!純くんの足跡です!」
純くんの足跡の特定は簡単だった。純くんは、通り道を散歩している途中にお父さんの死体を見つけ、近づいた。そして、劇団の人を呼ぶためテントと現場を往復した。つまり、通り道から現場までと、テントから現場までの2つのルートに共に残っている足跡が純くんのものだ。
「それとこっちの足跡も気になりますね。近くに平行な2つの線がありますし。」
「確かに、なんの跡かしら。」
「この2つの線…消そうとした跡がありますが、所々に残っています。どこかに続いてそうです。追ってみましょう!この小太家達をごまかすことは出来ません!」
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