第7話 紅葉狩り事件ー終
「本当ですか?斜錠さん。犯人が分かったって。」
萌美さんがそう尋ねる。イエは刑事さんに頼んで木葉さん、赤井さん、そして萌美さんを集めてもらった。
「はい……あなたが一番知ってるでしょう。」
「!」
「どーいうことですか!萌美さんが犯人だとでも!」
木葉さんは声を荒らげた。
「……落ち着いて、実由ちゃん。…話を聞きましょう。」
萌美さんは落ち着いた様子でイエが話すのを待っている。
「萌美さんに確認したいことがあります…警備員を雇ったのは本当に主人ですか?」
「………さすが探偵さんですね。そうですね。本当は私が雇いました。」
「!…認めるんですか?」
「まあ、主人を騙すために作ってもらった契約書がお店にありますからね。そこに私のサインがあります。調べられればすぐにバレることです。だったら、白状したほうが早いでしょう?」
「……自分が何を言っているのか分かってますか?その警備員は偽物だったんですよ。現場に残されていたカードから考えるに……おそらく森亜が用意したものでしょう。……つまり、あなたが偽の警備員と契約したってことは…」
「そうですね。私が犯人です。」
「!!」
あっさり…認めた!?
「正直、私はあいつを殺せただけで満足です。…すみません。もっと早く自白してれば斜錠さんたちの調査する手間を省けましたのに。」
萌美さんは頭を下げた。
「……」
「どうしました?斜錠さん?」
「あなたは…かばおうとしてますよね。最初から、怪しまれるようなことを言って…」
「?なんのことですか?私が真犯人をかばっていると?」
「いや、どちらかと言うと共犯でしょう。……ずっと気になっていたことがあるんです。昨日、私たちがお店に行った時に大焼さんにこう言われました。「もみじもおるし大丈夫」と。もみじ……この言葉はお店のカレンダーにも書かれてました。」
「……」
「最初は、従業員の誰かのことだと思ってました。しかし、もみじという人はいなかった…そこで、情報を整理して考えてみたんです。」
「……」
「すると、あることに気がつきました。萌美さん…実由さん…順平さん…3人の名前の頭文字をとると、『もみじ』になると!昨日の実由さんの話から大焼さんがしたの名前で従業員を呼ぶことも分かりましたし……おそらく、カレンダーにシフトを書く際にその頭文字だけメモしてたんでしょう。その癖で3人をまとめて呼ぶ時はもみじと言うようになった……合ってますか?」
「……ふふふ。」
「何がおかしいんですか?」
「いえ、何を言い出すのかと思いまして。確かに言う通りですが、共犯の話はどうしたのかと…」
「安心してください。きちんと関係しています。」
「!」
「今回の事件…死体に1つおかしな点がありました。口に含んだ紅葉です。しかもこれは、被害者自身が、死の間際に自ら含んだものです。どうしてでしょう。」
「さっさあ…?」
「ダイイングメッセージです!」
「!!」
「大焼さんは死の直前、犯人を伝えるために紅葉を口に含んだんです。そう、『もみじ』を!」
「!!…私たち…3人が犯人だと言うの!?」
萌美さんは先ほどまでとは打って変わって焦り出した。
「はい。わざわざ口に紅葉を含んだのは、あなたたちが犯人だと知らせるためだった。」
「まっ待ってください!あれがダイイングメッセージだって言うなら、私にも考えがあります!あれは、まんじゅうに描かれた紅葉……つまり!まんじゅうを売っている私が犯人だと、伝えたかったのです!」
「そうでしょうか?……口に含んだ紅葉以外にも、他の二人を疑う根拠はありますよ。」
「なっ!」
「もう一度カレンダーの話に戻りましょう。昨日見た記憶が正しければ、今日の日付には『も』としか書かれてませんでした。…つまり、萌美さんだけがシフトだったということです。それなのになぜか、木葉さんは今朝、公園に来て死体を発見している。」
「あっそれは……!!」
木葉さんは大きく動揺した。
「あの!…萌美さんに会いたくて来ただけです!深い意味とかはなくて…!」
「いや、あなたは第一発見者になるために来たんです。」
「!」
「私は昨日の事件について、バレないために公園の端のほうを汚したと推理しました。しかし、この推理は間違ってました。警備員が偽物である以上、夜中に公園の目立つところを汚したって構わないはずです。けど、そうしなかったのは…あなたたちがこの公園を愛していたからです。そして、この公園に来る人たちを大切に思っていたからです。だからこそその人たちに死体を見せたくなかった……第一に発見して警察に公園を封鎖してもらいたかった……違いますか?」
「そっそれは…!」
木葉さんの声は震えている。イエの予想があたっているのだろう。
「それと、赤井さんも!」
「なっなんですか!?僕は今日家にいて、呼ばれたから来ただけですよ!」
「そうですね。…では、昨晩はどこに?」
「えっ!」
「犯行の凶器は重い石でした……萌美さんがそれを振りかぶって被害者の後頭部を殴れるでしょうか?……赤井さんは力がありそうですよね。」
「!そんな…こじつけですよ!証拠はあるんですか!!」
「今、私の手元にはありませんが…あると思います。」
「おっ思う?」
「もし、赤井さんが犯人だったら当然、作業着を着たまま殺したことになります。そして、その作業着の袖は捲りにくく、実際、昨日はペンキが付着してました。……そこで私は考えました。同じように殺害の際も血が袖に付いたんじゃないかって。」
「!!」
「おそらく洗濯したでしょうが、そう簡単に血のあとは消えません。そうだよね。鳥羽刑事!」
「ああ、見た目では消えていても、検出はできる。」
「だ、そうですよ。赤井さん。」
「ぐっ……!」
「正直に話してください。作業着は休憩所に置いてるんですよね。すぐに、バレますよ。」
「ぐっ…僕は……!」
「待ってください!」
その時、萌美さんが大きな声を上げた。
「私が…私が、殺したんです!作業着を着て、私が殺したんです!2人は関係ありません!」
「萌美さん…」
「私が、私だけが犯人で…!」
「もう、大丈夫です。」
「!」
赤井さんと木葉さんは萌美さんの言葉を遮った。
「ありがとうございます。私たちを庇ってくださって。」
「!!…あなたたち……そんな!私が付き合わせただけで…」
「そんなことはないです。僕たちは自分達の意思で手伝ったんです。」
「………そう……ごめんね…」
「どうして、殺したんですか?」
イエは萌美さんに尋ねた。
「……本当は昨日までの嫌がらせで反省してほしかった…けど、無理でした。ただそれだけです。」
「反省?」
「斜錠さんなら何となく分かるでしょう?あまり、話したくはありません。…終わったことですから。」
そう言って3人は警察に連れていかれた。萌美さんはどこか清々しいような、悲しいような表情を浮かべていた。
「イエ…萌美さんたちの動機分かるの?」
「ん……多少は予想付くよ。チラッと見えたけど萌美さんの首の周りにアザがあったんだ。おそらく…主人から……」
「そんな…!」
「あと昨日、萌美さんはありもしない噂って言葉に引っ掛かってた…多分、萌美さんたちが流した噂はありもしないものじゃなかったんだ。」
「てことは、その噂を調べれば……」
「ん。大焼さんの萌美さんたちへの行いとかが分かるかもね。そして、動機もそこから推測できると思う。……けど、事件は解決したし、本人が話したくないって言ってたことを深掘りするのは趣味じゃないよ。探偵の仕事はあくまで真相を見つけることだからね。」
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