第6話 紅葉狩り事件③
次の日、僕たちは再び公園に来た…あれ?何か人が集まっている。それに…パトカー?
「和斗!行こ!」
そう言って駆け足で近づいた。警察の人が公園の中に入らないよう声をかけている。いったい何が…
「お前らじゃないか。どうしたんだ?」
聞き覚えのある声がする。振り向くとそこには、いつもの深緑色の服を羽織った鳥羽刑事がいた。
「えっいや、僕たちは依頼で昨日から…」
「依頼?誰からだ。」
「大焼さんです。大焼円治さん。」
「…そうか。それは残念だったな。」
「えっ、どういう………もしかして…!」
「ああ、先ほど死体で発見された。」
「!!?」
「どっどーゆーこと!鳥羽けーじ!」
イエも動揺している。
「今詳しく捜査しているところだ。分かっていることは、何者かに殺されたと言うことだ。」
僕たちは息を飲んだ。
「殺人…ですか。」
「今朝の7時頃、ここの従業員…といっても昨日から来ているなら知っているだろうが、木葉さんという女性によって発見された。」
「木葉さんが…」
「どうやら、休憩所として使っているまんじゅう屋に行く途中に、背を上にして倒れている被害者を見つけたらしい。知ってるか?」
「ん…大焼さんの奥さん…萌美さんがいるとこ。」
「そうだ。今その2人ともう1人少し遅れてここにやってきた赤井さんから話を聞いている。」
「なるほど…それで、死体の様子は?」
「近くに血のついた重い石が置いてあった。それで、後頭部を2発殴ったらしい。1発目で被害者は倒れ、もう1発でトドメを差した、と考えている。…というか、それを聞くということは手伝ってくれるのか?」
コクッとイエは頷いた。
「ん…依頼者が死んだって聞いて、このまま帰っても嫌な気持ちになるし…」
「そうか…。なら、これも伝えないとな。実は被害者に一つおかしなところがあったのだ。」
「おかしなところ…ですか?」
「ああ、被害者の口の中に、紅葉が入っていたのだ。」
「紅葉が?どゆこと?」
「さあな。数枚ならまだ、たまたま入ったと言えるかもしれんがあの量は無理だろう。土も混じっていたから、適当につかんで口にいれた…って感じだ。」
「うーん。変ですね。犯人が窒息させようとしたのかなあ。」
「だったら石で殴んないでしょ。何か他の理由があるんじゃない?とばっちはどう思うの?」
「変な呼び方をするな…まだなにも思い浮かばないな。だが、怪しい証言があった。被害者の奥さんの証言だ。」
「萌美さんの…!」
「後で行って聞いてみるといい。……それと…」
「なんですか?」
「………現場から森亜のカードが見つかった。」
「!」
森亜が、この事件に!どういうことだ!?
「今回の事件も関わってるらしいな。…………とりあえず、話せることはこのくらいだ。俺は他にもすることがある。被害者の奥さん…萌美さんならあっちにいる。」
そう言って鳥羽刑事は、指をさした。その先には昨日も見た、萌美さんの姿があった。
「ありがと。……1つ頼んでもいい?」
「なんだ。」
イエはなにかをごそごそと鳥羽刑事に伝えた。
「…分かった。調べておく。」
「さんくす!じゃあ和斗、行こっか!」
何を話したのか気になるけど、とにかく僕たちは萌美さんのもとへ向かった。
萌美さんは焦げ茶色のベンチに座っていた。今は警察の人とは話をしていない。僕たちが話しかけようとしたとき、気づいたのか先に口を開いた。
「あら、上水さんと斜錠さんじゃないですか!本日もお越しに?でももう大丈夫ですよ。何てったって依頼主がなくなられたので…って不謹慎ですかね。」
萌美さんはふふっと微笑んだ。何だろう、すごく…変だ。何か全然昨日とは違う。昨日より声がハキハキしていて、どこか清々しい。それに…夫がなくなったのにこのテンション…
「どうしました?」
「えっいや、話を聞きたくて…」
「ああ、はい。全然いいですよ。でも、すみませんね。今まんじゅうを持ってなくて、あとでお持ちしますわ。」
萌美さんはイエをチラリと見た。イエは小さく頷いた。
「それで、何をお話しましょう?昨日のことですか?」
「いや、あの、この殺人事件の解明を手伝うことになりまして…」
「ああ、そうなの。大変ね。亡くなって尚迷惑をかけるなんて、うちの夫がすみませんね。」
そう軽く頭を下げた。どう反応すればいいんだ…。
「うーん。何を話そうかしら。先ほど、警察のかたから聞かれたことでも言いましょうか?」
「聞かれたことですか?」
「ええ、色々聞かれたんですが、特に気になっていたのは、口いっぱいの紅葉のことでした。」
「何か知ってるんですか!」
「いえ、単なる推測をのべさせてもらったまでですよ。夫は自分の紅葉が大好きなんです…金集めの道具として。言わば、あの人は、金に…紅葉に溺れた人なんですよ。そんな彼を、犯人は文字通り紅葉で溺れさせたってことじゃないかと、私は考えたんです。」
「そうですか…。」
萌美さんはそう言うと再びふふっと微笑んだ。
「何が…面白いんですか?」
「ああ、すみません。紅葉狩りの次は彼自身が狩られ、これがほんとの親父狩りと思うと滑稽で…」
萌美さんは笑顔でそう言った。僕はその顔を見てなんとも言えない気持ちになった。一種の恐怖のような、少しぞわっとするような気持ちに…。
その後僕らは礼をして、ひとまずその場を去った。
「イエ…どう思う、何か、変というかなんというか、その…昨日までの萌美さんとは別人みたいで…」
「ん…何かこわかった。確かに昨日の話からも大焼さんとはうまくいってなさそうだったけど、亡くなってこんなに喜んでるみたいな…」
「うん。何かすごい怪しいよ。萌美さんが犯人なんじゃないかって思っちゃう。」
「私もすごい引っ掛かってる。話し方が何かわざと自分が犯人だと思われようとしてるみたいで。」
「わざと…確かにねえ。でも、何でだろう。」
「んー、まだわかんない。」
本当に萌美さんが犯人なのか…にしては、わざとらしさもある。誰かをかばおうとしてるとか?うーん……
「あっ、探偵さんたち!」
そんなことを考えていると声をかけられた。この声は…
「木葉さん!…と赤井さんも!赤井さんも来てたんですね。」
そこには、昨日とは違い私服を着た2人が立っていた。
「はい。関係者ということで呼ばれまして。それより、昨日はその……すみません!本当のこと……話さなくて…」
「本当のこと…?ああ、昨日調査していた事件のことですか?…やっぱり、2人が?」
「はい……まさか、袖や靴のちっちゃな汚れすら見られてたなんて。」
赤井さんはうつむきつつそう言った。
「でもでも!殺すほどではないです!確かに、大焼さんはだいっきらいでしたが!私たちは犯人じゃないです!」
木葉さんは焦った様子で言う。
「………服…作業着じゃないんですか?」
その時、イエがぼそりと聞いた。
「えっ、あっはい!あの服は休憩室に置いてて、今朝そこに行く途中に死体を見つけたので……私服のままです。」
「…作業着は1着だけ?」
「?…いいえ、2着あって、それを交互に洗濯して使ってるって感じてす。…2着しかないし、あの服硬くて、袖が全然捲れないから夏は大変なんですよ!」
何か愚痴が始まってしまった…。袖が捲れないか…だから、ペンキが付着しやすかったのかな。それにうまく捲れないからこそペンキをうまく隠せなかったのか。にしても、何でイエは服のことなんか聞いたんだ?
「そう……ありがとうございます。」
イエは軽くお辞儀をした。
「えっ、もういいの?」
「うん。」
「そう…では、そういうことで…お話ありがとうございます。」
「そんなそんな…ホント、すみません。」
木葉さんと赤井さんは再び僕らに謝ったあと、警察のほうへ歩いていった。関係者だし、色々話すことがあるのだろう。
「ん!あれ!槍さんだ!何か情報くれるかもよ!」
イエの声を聞き、周りを見渡すとそこには槍さんの姿があった。
「槍さん!何かじょーほーある?」
「! イエちゃんに和斗くん!…あるよ。新しい情報。2つもね。」
「2つですか?」
「うん。1つ目は…被害者が口に含んでた紅葉についてだね。どうやら、被害者が死ぬ間際に地面からとって口に突っ込んだらしい。」
「大焼さん自身が?」
「手の汚れや地面につかんだ際の跡が残っていたことから分かったんだ。」
「どうしてそんなことを……」
「どうしてだろうね。…2つ目はさっきイエちゃんが鳥羽刑事に頼んだことだよ。イエちゃんが考えた通り、警備員は偽物らしいよ。」
「えっ、どういうこと!?」
僕はイエに尋ねる。
「朝、木葉さんが来たときに死体があったってことは当然昨晩に殺されたってことでしょ。でも、夜は警備員を雇っているからバレるに決まってる……けどバレなかったってことは警備員が犯人、もしくは共犯ってこと……。そこで思ったの、森亜が関わっているなら偽の警備員を用意しとくこともできるんじゃないかって。」
「なるほど……待って!ていうことは前から殺人は考えてたってこと!?」
「そうかもね……そして問題は誰がその警備員を雇ったのかってこと。」
「それは、大焼さんじゃなかったっけ?萌美さんが言ってた気がする…」
「確かに言ってた…けど、本当かな?」
「!」
「萌美さんはこうも言ってた。「あの人は他人を信用してない」と。それなのに警備員を雇うかな?……私は萌美さん自身で頼んだんじゃないかって思ってるよ。」
「じゃあ、やっぱり……」
萌美さんが……犯人…
「とりあえず、鳥羽刑事のとこへ行こう!」
そう言ってイエは駆け出した。イエには分かったんだ…犯人も、口に含んだ紅葉の意味も。
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