第5話 紅葉狩り事件②

「では、このくらいにして…」

時計を見るとまあまあ時間がたっていた。

「そうですね。おそらく1人は公園の中、1人は道を掃除していると思いますわ。2人でいるかもしれませんが…どちらも緑っぽい色の作業着を着ているので、それをもとにお探しください。」

萌美さんは優しく言った。

「……あの…1つだけいいですか…?」

イエが口を開いた。

「どうしました?」

「あの、その…萌美さんと2人の作業員さんは夜まで働いてるんですか?」

「いいえ。夜になると人が少なくなりますからね。だいたい9時ぐらいに帰ります。…あっでも、今はそれ以降に警備員を雇ってるらしいですね。」

「あっありがとうございます。」

イエは萌美さんに礼をした。僕も続いて感謝をのべ、その店から出た。


「いや~美味しかった~。」

イエはお腹をさすっていった。

「まったく、いくつ食べたんだよ…」

「んーほぼ1個。」

「どこがだよ。」

あの後もいくつか出してくれて、イエはさらに3個ほど食べていた。僕ももう2個食べたけど。

「それより…気づいた?」

イエは僕に尋ねた。

「何に?」

「萌美さんの違和感。なんか、依頼主とは仲が悪そう。」

「えっどうして?」

「初めに、下の名前で呼んでください、って言ってたでしょ?おそらく主人と同じ名前の大焼って呼ばれたくなかったんじゃない?逆に主人のほうも、私たちに依頼しにきたとき、「従業員は3人」って言ってたから萌美さんのことを従業員としか思ってないんだよ。」

「えー、考えすぎだよ。」

「ううん。それに頑なに主人のこと『あの人』って言って、名前で呼ぼうとしなかったし、そして何より…手、見てた?」

「手?」

僕が首をかしげると、イエはため息をついて言った。

「はあ…ゆ、び、わ、してなかったの、どっちも。結婚してるはずなのに。」

「指輪を?うーん。見てなかったなあ。でも、みんながみんなしてるわけでもないし、たまたまじゃ?」

「そう…?まあ、それより和斗もちゃんと観察してよ、、助手として。」

飽きられた目で見られてしまった…うう、あまり観察は得意じゃないんだけどなあ。…そんな会話をしながら歩いていると、掃除をしている人が二人いた。うす緑色の長袖の服を着ている。萌美さんが言っていた作業着を着ている二人だろう。何やら話をしているようだ。

「すみません。」

「はい!どうされました?」

答えたのは元気そうな男性だった。もう1人の女性は笑顔でこちらを見ている。…そうだった、イエにちゃんと観察するよう言われたんだ。と言っても、怪しいところは特に見つからない。二人は手にほうきを持っていて、地面には、落ち葉の入ったちり取りが置かれている。ちょうど掃除したところなのだろう。作業着には胸ポケットがあるが、何かが入ってるような感じはないし…

「えっと…どうしました?」

「あっ、すみません。僕たちこういうものでして、」

じっと見すぎてしまった。怪しんでいる顔をしている。僕はあわてて名刺を渡す。

「たんてい…探偵、ああ!大焼さんが言ってた!」

「あっはい!そうです。」

「僕の名前は『赤井あかい 順平じゅんぺい』です。こっちは…」

「私は『木葉このは 実由みゆ』と申します。それで、何を聞きに?」

「その…事件のことについてお聞きしたくて、」

「事件ねえ。うーん、何とも言えません。お客さんは結構来ますし、誰が怪しいかなんてわかりませんよ。僕たちは夜まで掃除という名の見張りをさせられるんですが、特に怪しい人はいません。ほんとにめんどくさい人ですよ、大焼さんは。」

赤井さんは不服そうに言った。それに続いて木葉さんも口を開いた。

「ほんとに萌美さんがかわいそうです。正直、いたずらされようがどうでもいいんですよ。」

「どっどうでも?」

「はい。大焼さんは結構性格悪いんですよ。いたずらされたって因果応報って感じですし、萌美さんを巻き込まないで欲しいです。」

「は、はあ、」

木葉さんの声には怒りがこもっていた。どうやら、相当嫌われているらしいな、大焼さんは…確かに、僕もあまり得意なタイプじゃなかったけど。

「まあまあ、実由ちゃん落ち着いて。」

「えっあっ、すみません。こんな愚痴ばかり…」

赤井さんに声をかけられ我を取り戻したようだ。

「どうしてそんなに大焼さんのことを嫌っているんですか?」

「それは…」

木葉さんは少し黙り込んでから言った。

「とにかく、人使いが荒いんです!順平!実由!さっさと掃除してこい!とか見張りしてこい!とか、暴言だってときには吐いてきます。」

「それは…ひどいですね。」

「はい!だからこそ、より一層いたずらの犯人が誰かわかるわけないんです。大焼さんを嫌っている人は多いと思いますし…はあ、」

その深いため息からは苦労が感じ取れた。相当嫌な思いをしているらしい。

「とりあえず僕たちに言えることはこのくらいでしょうか。…そうだ!ついてきてください。例の被害にあっているところへ案内します。実由ちゃんはこの辺の掃除よろしく。」

「あっはい。探偵さんたちも大変だと思いますが、頑張ってください。」

そうして、僕たちは赤井さんに連れていかれた。後ろを向くと、木葉さんが小さく手を振っていた。


「着きました。この木です。はじっこなので目立ちにくいのが不幸中の幸いですが。」

赤井さんが指差した木を見ると、確かに葉が落ちている…というより枝ごと切られている部分がある。雑に切られたという感じで、葉が残っているところもある。

「他にも、公園の至るところが汚されたりしているのでまわって確認してみてください。僕はこの辺の掃除をしているので何かあればお聞きください。」

「ありがとうございます。」

僕たちは礼をし、木の方へ近づいた。

「にしても、2人…特に木葉さんから大焼さんへのすごい恨みを感じたね。」

「何か変な感じ。」

イエが呟いた。

「確かに、どうせ切るなら全部切ればいいのにね。」

「いや、そうじゃなくて、」

「?」

「何でこんな公園の角の木を切ったのかなって。見て!気の後ろの壁もペンキで汚されてる。こんな目立ちにくいところを…」

「確かに…大焼さんを恨んでるんなら普通もっと目立つところを汚して、嫌がらせするよね。」

「ん。まあ、とりあえず他も見てみるか~」

それから日が暮れるまで公園の隅々を見たが、どこも目立ちづらいところが汚されてたりしていた。

「うーん…こんなところかな?今日は一旦帰って、また明日来よっか?」

僕がそう尋ねるとイエは驚いたような顔をする。

「……ホントに言ってる?」

「えっ」

「はああ、…………赤井さんの袖、まくって隠そうとしてたけどペンキが付いてるの見えなかったの?」

「えっ、そうだったの?」

「あと、木葉さんも靴に少しペンキが付いてたよ。それに2人とも手や顔にちょっとした擦り傷ができてた……おそらく、枝を切ったときに擦ったんだろうね。」

「……てことは、2人が犯人なの?」

「そうだろーね。夜8時とかかな?客が少なくなってきて、9時に警備員さんに仕事を代わる前に公園の端を汚したりしたんだろうね。真夜中の誰もいないときにやったわけじゃないから、万が一バレないよう端だけにそういうことをしたんだよ。………全然見てないんだね。」

「うう…僕が見てないと言うより、イエがよく見てるだけだよ……すごいね。」

「ん、そう?」

イエは少し嬉しそうに返事をした。


「そうですか……2人が…」

僕たちは店に戻り、事情を萌美さんに話した。

「分かりました。あの人は忙しいので今日は帰ってこないでしょう。また、明日お越しください。いちおう、私からも軽く話しておきます。あと、2人にも話を聞いておきます。」

萌美さんにそう言われて僕たちはひとまず帰ることにした。この事件もこれにて解決……かと思ったが、まさかあんなことになるなんて…



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