第4話 紅葉狩り事件①

「見てください!この景色!この鮮やかな紅葉もみじは…」


きれいだなあ…もうそんな時期か~。僕はテレビで紅葉を見ていた。

「イエ~、紅葉だって。大丈夫?」

僕は、いつものように窓際で本を読んでいるイエに話しかけた。

「ん、うん。」

イエはチラッと見てすぐさま本に目を戻した。邪魔しちゃったかな。にしてもすることがないなあ。今日も今日とてこの『斜錠探偵事務所』には仕事がない。

「ふ~、面白かった!」

ぱたんっ、と本の閉じるおとがした。それと同時にピンポーンとチャイムがなった。

「おっ、久しぶりに鳴った!」

イエは楽しそうに言った。本を読んだ後で機嫌がいいんだろう。後でどんな話だったか聞こうかな。そんなことを考えつつ玄関へ行き、ドアの穴を覗いたところ知らない人がたっていた。

「どうぞお上がりください。」

僕はドアを開けた。入ってきた人はスーツを着た少し太った男性だった。

「お座りください。」

僕はソファーの方へ案内した。

「ああ。」

よいしょっ、と声と共にお客さんは座り込んだ。その時イエも上から下りてきた。

「彼女は?」

「ああ、探偵の斜錠 家です。僕は助手の上水 和斗と申します。」

イエは少しうなずき僕のとなりに座った。

「そうか、、、儂は『大焼おおやけ 円治えんじ』だ。いや、そんなことより!」

突然お客さんは声を荒らげた。

「大変なんだ!わっ儂の紅葉が!狩られてるんだ!」

大焼さんは、ばんっ!と机を叩いた。びっくりした~。

「おっ落ち着いてください!狩られる?ですか、紅葉狩りと言うことですか?」

「そうだ!だが、いい意味ではない!その言葉のとおり実際に狩られたのだ!」

再び机を強く叩いた。

「落ち着いてください!」

大焼さんは僕の言葉を聞いて深呼吸をした。

「ふぅ、すまない。取り乱した。」

「いえいえ。何があったんですか?」

すると、大焼さんは鞄から何か取り出した。写真?

「儂はとある公園を持っていてな。おおやけ公園と言うんだが…」

おおやけ公園…聞いたことあるような。

「自分で言うのもなんだが、そこの紅葉は絶景でな。多くの客が来るんだ。」

紅葉…公園…もしかして、、

「おおやけ公園ってもしかして先ほどテレビでやっていた…」

「うん?ああ、昨日取材が来てたな。それだろう。とりあえず被害のないところを見せたが。」

「被害ですか?」

「これを見てくれ。」

大焼さんは先ほど取り出した写真を見せた。これは…なんか、葉が少ない?

「誰の嫌がらせか知らんが、葉が人為的におとされていてな。景色が台無しだ。他にも公園のいろんな所を汚されたり、ありもしない噂を流されたりしてな。」

「なるほど…だから紅葉狩りと。」

「ああ、だから犯人を見つけて欲しいんだ!」

僕はイエの方を見て小さく、大丈夫?と聞いた。イエは小さくうなずいた。

「はい、分かりました!」

「おお!ありがとう!」

大焼さんは軽く頭を下げた。

「実はな犯人を見つけてくれ…と言ったが大体の目星は付いてるんだ。」

「そうなんですか?」

「ああ。うちの従業員は3人いるんだがな。そいつらのうちの誰かが犯人だと怪しんでいる。…君らにはそれが誰か特定してほしいんだ。」

「なるほど…そうなんですね。」

「よろしくな。」

そう言うと大焼さんは僕たちをその公園へと連れていった。


「おお~」

思わず声が出てしまった。きれいな景色だ。

「今日は平日だし、比較的客は少なめで気楽だろう。まあ、とりあえずついてきてくれ。」

僕たちは大焼さんの後を追う。僕たちは人が横並びに3、4人歩けるくらいの道を通っていた。道の両側には紅葉が咲き誇っている。木の隙間から滑り台が見えた。どうやら、このような道が公園を取り囲んでいるみたいだ。

「ここだ。」

大焼さんは小さなお店の前で止まった。看板には『大焼まんじゅう』と書かれている。

「ここでは儂の妻がまんじゅうを売っておる。ぜひ食っておくといい。それより、これから別の仕事があってな。後は頼んだ。まあ、もみじもおるし大丈夫だろう。」

「そうなんですね。分かりました。」

じゃあ、と言って大焼さんは去っていった。というか、もみじがおるって言ったか?なんのことだろう。奥さんの名前かな?

「こんにちは。」

後ろ…店の方から声がした。振り向くと、女性が店の中で小さく微笑んでいた。

「こんにちは…あなたが…」

「ええ。『大焼 萌美もえみ』と申します。下の名でお呼びください。」

萌美さんは再び微笑んだ。だが、どこか暗い。声も小さく弱々しい。てか、もみじじゃないのか。

「とりあえず、その…お話を…」

「はい。では、裏口からお入りください。中でお話ししましょう。」

そう言うと萌美さんは店のおくの扉を開け、姿を消した。少しすると、裏の方から、ガチャ、と音がした。僕たちはそこから中へと入っていった。

「お邪魔します。」

僕たちは靴を脱ぎ、玄関を上がる。イエも小さくお邪魔しますと言った。中はそこまで広くなく、入ってすぐのところに小さな机と、椅子が3つ置かれていて、部屋の隅にはまんじゅうを作るところであろうちょっとしたキッチンがあった。また、裏口の近くにカレンダーがあり、何か書いてある。…『もみじ』?昨日や今日の日付にそう書いてある。明日は…『も』?なんだ『も』って。他には…

「どうぞ、こちらの椅子にお座りください。あと、お饅頭をぜひ。」

他の日についても見ようとしたが萌美さんに呼ばれたのでやめにした。机の上には紅葉の柄の付いたお饅頭が4つ置かれていた。

「ありがとうございます。」

そう言って椅子に座る。

「そちらの方もどうぞ。」

「えっああ、ありがとうございます…」

イエは急に声をかけられ動揺している。やっぱり人見知りだなあ。気分が乗ってるとき以外。

「それで、お話をお聞きしたいんですが…」

「はい。…と言っても特に話すことはないんですよね。あの人からはどんなことを聞きました?」

「えーと…確か、嫌がらせを受けていると。葉を落とされたり、ありもしない噂を流されたりとか聞きました。」

「ありもしない…ねぇ、」

萌美さんは何か呟いた。何だ?

「そうですか…。でも、やっぱり私はお力になれなそうです。ずっとここにいて、話しか聞いていないので。それより他の二人に聞いた方がいいかもしれません。」

「ほかの二人?」

「ええ、公園の掃除をしています。今は見張りもかねていますが。」

「そうなんですか、」

見張り?あれ、そういえば…

「警察にはお話しになったんですか?」

そう聞くと、萌美さんは首を横にふった。

「いいえ。あの人は他人を信用してないので。」

「そうなんです…か、」

「それよりお饅頭食べないのですか?そちらの方は気に入ってくださったようですが、」

「えっ、あ、すみません。いただきます。」

僕はまんじゅうを手に取る。いつの間にか1つしか残っていない。隣をチラリと見ると、イエは頬を膨らましている。ほんとに気に入ったようだ。僕もまんじゅうを口に運ぶ。うまい。後で買って帰るか…


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