第2話 アパートと2つの殺人事件②

部屋を出るといきなりイエが指を指す。

「あっあれ!」

そちらのほうを見ると見知った警察官がいた。

「こんにちは。」

「え、ああ、和斗くんとイエちゃん!こんにちは。」

うつぎさん。お久しぶりです。」

うつぎ』さんは鳥羽刑事の部下で情報を分かりやすくまとめてくれる。鳥羽刑事と同じで何度かお世話になっている。

「槍さん!おっひさ~」

イエは気楽に話せる相手がいて嬉しそうだ。

「今、念のためもう一度ゴミ捨て場を調べようか考えていてね。何もない気もするけど…」

「それより、何か情報ない?被害者とかについての?」

「そうだね…これはどう?部屋の写真。死体は片付けた後のだけどね。こっちは小田原、こっちは岸田。岡田のもあるよ。」

そういって写真を何枚かくれた。被害者の写真を見ると床に血であろうシミがある。岸田の方には引きずった跡や血を何かで拭きとろうとした跡もあった。他にも気になる点として小田原さんと岡田さんの部屋に似たような紙がはってある。小田原さんの部屋の紙には8時、岡田さんの部屋には9時と書いてある。

「これは?」

「これは、2人のゴミ捨て場に行く時間だよ。どうやらとても仲が悪いらしくてね。ゴミ捨ての際会わないようにお互いで時間を決めていたらしいんだ。それを忘れないようメモしてたんだろうね。」

そういえば、大家さんも2人は仲が悪いって言ってたな。メモしてまで会いたくないとかどんだけ仲が悪いんだ。

「槍さん…その情報はどこから聞いたの?」

「ここの住民の1人に岡田と仲のいい人がいてね。その人から聞いたんだ。」

「じゃあ、そのゴミ捨ての時間について知ってる人は他にいるの?」

「岡田さんはどうやらシャイらしくてね。仲いい人以外とは話さないらしい。ここの住民だと、今言った人と岸田ぐらいかな。」

「ってことは、他の人は知らないのか…」

イエはなにかを考え込んでいる。

「それと、小田原の死体は床に転がっていて、岸田の死体は押し入れに入れられていたよ。他にもゴミ捨て場からは凶器と一緒に血のついた雑巾も見つかったから、岸田の部屋の血を拭いた跡はこれによるものだろうね。後は……小田原の部屋には死体の匂いを消すようにいろんな薬を使った形跡があったよ。」

「なるほど……死体の発見が遅れたのはそれのせいでもあるんですね。……イエはどう?何か分かった?」

「そうだなあ、小田原の殺害は計画的な一方で岸田の殺害は突発的ってことかな。」

「どういうこと?」

「小田原の方は凶器がきちんと処理されてる上、死体の匂いを消すための準備とかもしてあったからね。以前から、殺害を考えてたのかなって。」

「岸田さんのほうは?」

「見て、死体を引きずった跡が1回玄関までいってまた戻ってきてる。もし、計画的に殺したのならこんな右往左往はしないはずだよ。それに、雑に血を拭いた跡からも焦っている様子が想像できる。」

「そういうことか……」

やはり鳥羽刑事が始めに言っていた通り岡田が2人とも殺したんじゃないのか?岡田は小田原を計画的に殺したが、実は岸田にばれており、感情に任せて殺した。というのがしっくりくる。ただそうなると刑事さんが大家が怪しいと言っていたのが気になる。

「他に聞きたいことはあるかな?」

「2つあるかな。1つは小田原の部屋についてなんだけど…机の上にあるこの退去願いって書いてある紙はなに?」

「これはね、どうやら小田原は相当性格が悪かったらしくてね。他の住民に対して暴言を吐いたりしてたらしいんだ。嫌がらせのようなこともね。だから、退去するよう大家に言われていたらしい。」

「なるほど…つまりアパートの人はみんな小田原さんに恨みがあってもおかしくないってことか……」

イエは少し考え込んでから再び口を開く。

「2つ目は…アパートの部屋は全部で8つあるけど、全部に誰か住んでるの?」

「いや、103号室は空き家なんだ。元は女性が住んでいて、少し前に引っ越したらしい。岸田の部屋のとなりだよ。はい、これ。このアパートの住民リストだよ。」

「ありがと。」

そのリストには住民の顔写真や名前、特徴が載っていた。槍さんがまとめてくれたのだろう。ただそんな大事そうなリストをイエはざっと見ただけで返してしまった。

「もういいの?」

僕が尋ねるとイエは軽く頷く。

「ん。…………和斗さあ、大家の部屋に写真立てがあったの覚えてる?」

「えっ…ああ、あったね。」

「どんな写真が飾られてたかは?」

「いやあ、そこまでは……」

「全く…和斗はもっと洞察力をつけるべきだね。」

イエはあきれた、という感じで話す。

「それで、その写真がどうしたの?」

「あの写真には大家の他に3人写ってたんだ。で、今のリストを見たところ1人を除いてこのアパートに住んでいる人だった。結構仲良いらしいね。」

「1人を除いて?」

「うん。……まあ、おそらく、前まで103号室に住んでいた人だと思う。」

「なるほどね……」

「ってことは残りの7部屋の内、被害者の部屋が2部屋で、岡田さんのが1つ、他の1つが大家さんのだから……あと3部屋か。どうするイエ?どこかの部屋に訪ねてみる?」

「そうだね…鳥羽刑事のところに行こう。」

「ああ、新しい情報がないか聞くんだね。」

「いいや!」

イエはきっぱりと否定する。

「犯人の話をするの。」

「えっ、てことは分かったの?」

「うん。じゃあ、行こっか!鳥羽刑事のもとに…そして、大家のもとへ!」

「!」

大家のもと…!じゃあ、彼が!



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