第4話 君の秘密と夏の終わり
それからの日々は、暇だなんて思う間もなく、どんどんと夏の終わりへと向かっていた。
毎日毎日違う遊びを考えて、日が落ちるまで遊んでいた。
明日、諒は家に帰る。
そんなことを忘れるくらい、二人で毎日に夢中になっていた。
「はー、今日も楽しかったなー!」
「うん!明日は何して遊ぶ?」
リャーミャは弾けるような笑顔でこちらを向いた。
その顔を見られなくて、横を向く。
(やっぱ、今、言わなきゃだよな……)
「なぁ、リャーミャ」
「……?何?」
「……俺、明日、家に帰るんだ」
決意を固めたはずなのに、顔は下を向いてしまう。
絞り出した声は、情けなく震えている。
「え……、嘘」
「嘘じゃない」
そう言いながら顔を上げると、信じられないものが目に映った。
「リャーミャ、それ……!?」
諒の目に映る、リャーミャの耳は、横に長く伸び、俗に言う『エルフ』に見えた。
ぼたぼたと涙を落とす彼女は、自分でもびっくりしたように、自分の耳を触った。
「……あっ!」
そんな彼女を見て、言い表せない恐怖が湧き上がってくる。
思わず、足を後ろに引いた。
「……っ!」
後ろの岩に足が当たった瞬間、諒は走り出した。
祖母の家に着くと、諒は急に足に力が入らなくなって、玄関に座りこんだ。
肩で息をしながら、リャーミャのことを思い出す。
(!?!?!?意味が分かんねぇ……!)
まだ立てずにいると、慌ただしい足音が近づいてきて、そちらに顔を向ける。
「諒ちゃん!?どうしたの、そんなに慌てて……」
驚いた顔の祖母が部屋から顔を出した。
「ばぁちゃん……」
(ばぁちゃんなら、なんか知ってんのかな?)
「そう……。そんなことがねぇ」
「うん……ばぁちゃんなんか知ってたりしない?」
「そうねぇ。……ちょっと待っててね。」
そう言って席を立つ祖母を見送って、未だに受け入れられないさっき見た現実を、頭の中でリピートする。
(でも絶対見間違えじゃないと思うんだよなぁ……)
ガラガラという音と共に祖母が帰ってきた。
その手には古そうな紙の束が乗っかっている。
「……?なにそれ?」
「これねぇ、ご先祖様の日記。ばぁちゃん、子供の頃読むの好きだったのよ〜。それでね、ここ、見て」
祖母の指さす箇所に目を落とす。
ある日、冗談ではあるが、彼にこの場所か
ら出て行く、と言った。いつも驚かされる
のだ、今日くらい、こちらから少し驚かせ
てみたかった。
すると、なんということか。彼の耳は長く
横に伸びてしまった。
驚きのまま家へ駆け、申し訳ないことをし
てしまったと今、反省しておる。
明日、再び彼と会えると良いが。
「これ……!」
「そう。やっぱりこれ、『そう』よねぇ。ここ最後のページだから覚えてたのよ」
「あり、がとう」
(昔もエルフがいた?しかもご先祖様の、友達?)
「……ん?最後?」
あまりの衝撃にスルーしていたが、祖母は『最後のページ』と言った。
「こんな続きがありそうなのに?」
「そうよ。ここからもう書かれてないの」
言われた通り、めくってみるとそこからはもう何も書かれていない。
「そっかぁ……」
諒と同じような状況で参考になるかと思ったが、現実はそううまくはいかないらしい。
「……諒ちゃんは、どうしたいの?」
「俺は……」
祖母の優しげな瞳に促されて、諒は自分の心に問いかける。
(俺は、やっぱり日記の人と一緒だ。もう一回、)
「もう一回、リャーミャに会いたい」
「そう、じゃあ明日。悔いのないよう、行ってらっしゃい」
心無しか笑みが深くなった祖母が、背中を押してくれる。
「……うん!」
待ちに待った翌日。
早足で向かった川辺に腰を下ろした。
(よし。リャーミャが来たら、いっちばん最初に謝ろう。そしたら、)
昨日なかなか寝付けず、シミュレーションした中身を振り返る。
頭にこびりついて離れないリャーミャの泣き顔が、何を考えていても頭の中でチラつく。
ふと、諒に影が落ちた。
「……諒、ごめんね」
諒が振り返ろうとすると、そんな声が聞こえて、
だんだんと目の前が暗くなっていった。
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