30 自己紹介
「――初めまして」
ドアを開けた先にいたのは、やはり理衣菜とその彼氏だった。
「どうぞ、上がって下さい」
「「はーい」」
玲愛は一歩、二歩、と下がり――
「連れてこなくていいって言ったのに、連れてきちゃったんですね……まったく」
独り言のように呟いた。
「玲愛、何か言った?」
耳の良い理衣菜には聞こえていたらしい。俺には聞こえなかった。
二人をリビングのテーブルに案内する。
理衣菜が右に座り、その隣に彼氏さんが座った。二人は遠慮せず、許可も取らずにTVをつけて
「今からお茶、ご用意しますね」
「私がします。カナメくんは席で待っていて下さい」
やはりいつもの玲愛だ。
過保護というか何というか……。
席で待っているとすごく気まずかった。
カップルだから当然、二人で喋っているし、初対面だから余計に気まずい。
でも理衣菜が気を遣ってくれたのか、彼女の口からこんな質問が飛び出した。
「――あなたが玲愛の彼氏?」
「え、あ、はい」
呼び捨てなんだ……玲愛が嫌がる理由、分かったかも。
「へー、カッコいいじゃん」
「ありがとうござ――」
「――カナメくんを口説こうとしてますか? ダメですよ?」
鬼のような
「口説こうとしてないよ……」
「むー」
玲愛は頬を膨らませている。不機嫌?
全員が席に揃った所で自己紹介を始める。
「まずは俺から。二階堂かなめといいます。玲愛の彼氏です。よろしくお願いします」
パチパチパチ。
何故か理衣菜カップルは拍手をしてくれた。
次は玲愛だな。
「佐渡玲愛です。よろしく。カナメくんとは同棲しています。ゆくゆくは結婚する予定です」
!?!?
「れ、玲愛!?」
「なんて冗談です」
そう言われながらも膝を叩かれた。いて。なんで?
玲愛のせいでなんとも言えない空気になってしまった。
「私は鷺ノ宮理衣菜ね! よろしく! 仲良くしてね!」
「僕は
「ハルくん!?」
こっちはこっちで爆弾発言していた。
緑茶が半分ほど無くなったくらいのタイミングで玲愛がお茶菓子を用意する。
「良ければどうぞ」
全員に配る玲愛。
え、てか茶菓子なんてこの家にあったか? 俺は把握してないのに、彼女が把握しているという異常事態。内緒で買ってた……とか? やっぱり謎だ。
「二階堂くん、顔色悪いけど大丈夫?」
「こっちの話。心配して頂き、ありがとうございます」
りいなさん、普通に良い人じゃん。距離、近すぎるけど。
「お二人は一緒に住まないんですか?」
「んー、高校生で同棲は早すぎるかなって」
「「…………」」
りいなさん、良い人だけど、デリカシーが無いのか……。
「でも、僕らも高校卒業したら、結婚する予定なので。同じですね」
高校卒業したら、結婚するなんて一言も言ってないけど!? 玲愛は言っていたが。でもあれは冗談であって……。本気じゃない。
「そ、そうですね」
ここは適当に返した。
それからトランプをして、親睦を深めて、あっという間に帰る時間になってしまった。
湯呑みと茶菓子の包みを片付ける玲愛に理衣菜は声を掛ける。
「私も手伝おうか?」
「……いいんですか?」
「もちろん!」
キッチンに並ぶ二人。
エプロン姿の玲愛とエプロンをつけてない理衣菜。
ん? りいなさんがいいなら、俺も――。
「俺も手伝うよ」
「僕も何かお力になれるなら……」
「男性は手伝っちゃダメです」
きっぱりと言う玲愛。
玲愛は過去に男性に家事をやらせて、大惨事になったトラウマでもあるのだろうか。そうとしか考えられない。
あ! そうか、りいなさんと二人きりになりたいのか。分かったぞ。
***
「玲愛の彼氏、素敵な人だね」
「ええ。カナメくんは素敵な人です。でも、何でそんなことを――」
「玲愛、センスあるなって。お似合いだよ」
言われ、彼女は嬉しそうに頬を朱に染める。
理衣菜は丁寧に湯呑みを洗っていた。
「綺麗に洗ってくれてますね」
「うん、わたしバイト経験あるから」
「私は無いです」
理衣菜のお陰で、いつもより早く片付けが終わった。
***
「――それではまた、都合の良い時にでも 遊びに来てください」
手を振って、別れを告げる。
「あ! 玲愛、ちょっとこっち来て」
「?」
玄関のドアがバタン、と閉まり、俺はひとり部屋に残される。
玲愛は玄関の外に行ってしまった。
「――これ、恋愛祈願。あげる」
「お守り、ですか? もう恋愛成就してますけど」
「末永く二階堂くんと一緒にいられるように。その、結婚、出来るように」
「あ、ありがとうございます」
玲愛の、理衣菜に対する好感度が少し上がった。友達として認めてもいいのかもしれない。理衣菜は不器用だけど、良い人だ。ハルも草食系な良い人。
「交通祈願のお守りもあげよっか?」
「私ってそんなに危なかっかしい人に見えますか?」
「「あはは」」
「玲愛は早く二階堂くんの元に行ったほうがいいと思うよ」
「あなたが呼び出したのに、ですか? じゃあまた」
「またねー」
すごくラフで明るい人だ。
エレベーターの方へとイチャイチャしながら向かう二人の後ろ姿を玲愛は眺めていた。
なんていうか、バカップル。
でも、玲愛と俺も
月の光が射し込むマンションは何だか幻想的に感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます