26 なんで?


 あれから五城が受ける告白はパタリ、と止んだ。

 理由は簡単。


「あの二階堂を振ったんだって? 俺が告っても玉砕するだけじゃん」

「だよな。悠希様、理想高いもんな」

「二階堂がダメだったら、俺らなんてダメに決まってるよな」


 そう。理翔により、俺が五城さんにフラれたことは殆どの生徒に知れ渡っている。何故かあの水泳全国大会優勝により、俺の地位はスクールカーストトップにのぼり詰めていた。しかも、五城より上だとか。

 そんな人気者になってしまったかなめが、五城と付き合えないなら、俺なんて無理に決まっている、と思う生徒が増えたのだ。


 しかも――。


「振り方もサイテーだったんだって」

「まじで?」

「悠希様、裏の顔怖い? だったら、やだな」


 どこ情報なのか分からないが、木っ端微塵にフラれた事実も噂として、広まっていた。


 なるほど。

 俺が優勝したら、五城さんが嫌がるってこのことか……。やっと納得した。


 ***


 放課後。


 五城は教室内や廊下をうろついていた。

 ――告白待ちだ。


 一見、不審者に見えるが彼女は本気。


(「話があるので、屋上に来てください」はまだ?)


 誰も五城には話しかけない。すれ違うだけの虚しさ。でも彼女はうろつき続ける。


(入学してから、一度も告白されない日って今日が初めてじゃない?)


 そんな所に一組のカップルが通り過ぎる。


「玲愛ちゃん、あんなにイケメンな彼氏がいていいなー」

「それな。でも、二人の時間を邪魔しちゃいけないから、うちらは行こ」


 注目の的は相変わらず、カナメ。

 五城じゃない。

 あまりの手のひら返しに彼女は項垂れる。


(なんで? なんで、私じゃないの?)


 注目されることに慣れてしまった分、それだけ孤独に弱い。当たり前が当たり前じゃなくなった。


 図書室に行って好きな小説を読んでも、綺麗な夕陽を見ても、癒されないし、心は満たされない。



 家に帰って、冷蔵庫を開ける。


「プリンでも食べよう」


 でも、いつもの甘さは感じられず、カラメルの苦さが印象に残った。


 ――やることを済ませ、自室のベッドへ沈み込む。


「はぁー」


 深い溜め息。


(モテないなら、学校行くの、辞めちゃおうかな……)


 ついつい悲観的になる。


 部屋に堂々と貼られた、人気俳優のポスターを見ても、今は何も感じられない。


 何故か、五城の思考はモテない=私に興味が無いに変換されているらしく、それなら落ち込むのも納得だ。


「はぁー」


 何度溜め息を吐いても、気分は晴れないのだった。


 ***


 一方その頃、カナメ家では。


「カナメくん、人気者ですね」

「ああ。割と嫌じゃない」

「こんなにカッコいいカナメくんなら、当然ですよ。やっと時代が追いついてきたってかんじです」

「はは。言い過ぎだ」


 いつものように抱きしめ合うと、数秒で眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る