第2.5話 幕間

25 立場の逆転


 水泳の全国大会で優勝した日の翌週の月曜日。


 誰かに注目されたりなんて事はなく、平穏な時間がゆっくりと流れている。


 でも、今日の朝礼で俺が全国大会で優勝したことが全校生徒に知れ渡るらしい。


 きっとこれから、人が集まってくるんだろうな……と思うと憂鬱になってくる。


 勿論、優勝したことは『お楽しみ』ということで理翔にも伝えてない。



 ――秋風が涼しい校庭。晴れ渡る空の下。

 とうとう発表の時間が来てしまった。


「――今日はこの学園にとって、嬉しく、そしておめでたい報告があります」


 ゴクリ、と俺は唾を呑み込む。


「〇〇高校水泳部の皆さん、壇上へどうぞ」


 壇上へ慎重に上る。動悸が煩い。周りからの視線を一斉に浴び、緊張でどうにかなりそう。


「この度は第46回全国水泳大会におきまして、〇〇高校が優勝したことをここに賞します。水泳部の皆さん、おめでとうございます!!」


 ワー、と歓声が上がる。そしてガヤガヤし始める。


 俺が代表して、賞状を受け取ると更にキャー、という歓声が上がった。


 注目の的になったのって、小学校の時以来じゃないか?


 そんな騒がしい朝礼が終わり、教室に戻ると――。


 まずは理翔に話しかけられる。


「なんで黙ってたんだよー!」

「朝礼までのお楽しみにしようと思ってな」

「俺を大会に誘ってくれないとか、友人として酷いぞ。お前って奴はよー。おめでとう」


 文句を言いながらもちゃんと祝福してくれる。やっぱり理翔、友達として好きだ。てか、誘い忘れてたな。ごめん。


「ありがとう。玲愛は応援に来てくれたから」

「なら、良かった。優勝出来たのって、佐渡さんの応援あってなんじゃないか?」

「ああ、そうだ」


 ふっ、と微笑を湛える俺。

 彼も一緒になって笑ってくれた。


「てか、人集まって来てるぞ」

「え――」


 俯いて机ばかり見ていたから、気づかなかった。顔を上げると、クラスメイト達が四方八方に集まっていた。別のクラスの人もいるのだろう。それこそ学年問わず。


「二階堂くん、めっちゃカッコよかった! 良かったらサインくれない?」

「差し支えなければ、かなめくんって呼んでもいいかな? 好きになっちゃったっ。ファンとしてよろしく」


「あの、カナメくんって呼んでいいのは玲愛だけだから。ごめんなさい。こちらこそよろしく」


 丁重に断る。


「早く泳げる方法とか教えてくれるか? 俺も人気になりたい」

「二階堂って陰キャってイメージだったが、あんな爽やかに笑えるんだな。見直したぜ。友達になって欲しい」


 男子人気も獲得していた。


「もう二階堂はすっかり人気者だよ。良かったな、これから悠々自適な高校生活が送れるぜ」と理翔。


 玲愛の発言が現実のものとなってしまった。


 でも何故、五城が嫌がるのかはまだ謎のまま。


「そういえば、五城さんは?」

「教室の隅でポツリ、と座ってるよ」

「ホントだ」


 五城は俺の優勝に全く興味が無いらしい。てか、集まってきてないのは彼女くらいだ。



 ――五城は独り言をブツブツと呟いていた。


「何で二階堂が人気になってるの?」

「男子も女子も独り占め? ズルいんだけど」

「私のほうに人って集まるものじゃないの? ほら、私って美少女だし」


 …………。


 五城に近づく者は誰一人いなかった。


 これぞまさに立場の逆転だ。


「寂しいな……」


 彼女の独り言は誰の耳にも入らず、宙へと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る