21 嫉妬


 就寝前。

 静寂に包まれたこの部屋で玲愛は告げた。


「あの、一つだけお願い、聞いてもらってもいいですか?」


 何だ? 


 俺は静かに続く言葉を待つ。


「――学校でもカナメくんとキス、したいです」


「!?」


 驚くことは無い。俺と玲愛は正真正銘、恋人なんだ。恋人なら至るところでキスをしても、おかしくないだろう。


 でも俺は少し、躊躇してしまった。

 理翔に見られたら、冷やかされるだろうし、五城さんに見られたら、どうなるか分からないし。


 それにやっぱり、人目につく場所でキスをするのは恥ずかしい。


 玲愛は抵抗無いのだろうか。


「機会があればいいぞ」


 そう返すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 ***


 放課後の教室。

 今日は偶々、部活が無かった二人は適当に自席に座っていた。

 そしていま、教室にはカナメと玲愛しかいない。これはつまり――


「――絶好のキス日和ですね」

「絶好のキス日和って何だよ」


 カナメはそうツッコむが、彼女は既にキス待ち。目を瞑り、口を突き出している。


「ん」

「ちょっと待て。本当に人、いないよな?」


 教室の外に出て、左右をキョロキョロする。――人はいなかった。


 突き出された彼女の口に自身の唇を押し当てるカナメ。


 舌を絡ませ、いつもより長く唇を触れ合わせた。


 スリルと快楽の融合。


 しばらくして、唇を離すと透明な糸が引いていた。


「やり過ぎたか?」

「いえ、カナメくんが望むなら、私はいくらでもキスしてあげます」


 胸を張って、そうのたまう玲愛。何ていうか、すげえなぁ……。愛を凄く感じる。


「じゃ、そろそろ帰ろっか」

「そうしましょう」


 二人は手を繋いで教室を出た。


 ***


 ――実は目撃者がいた。

 そう、私――五城悠希。忘れ物を取りに行こうと、教室に向かうと二人がそこで

 これは入りづらい雰囲気だ。こうなってくると、二人が教室から出ていくのを待つしかない。つらい。


 キスとか羨ましいなー。私は一度もしたことが無い。しかも二人はしている。羨ましい以外の何物でもな――


 ガララララ。


 突如、教室のドアが開かれる。


 私は階段の踊り場の死角に隠れた。


 なんなの!?


「居ないか……」


 どうやら、人が居ないかの確認をしたようだ。心臓に悪い。


 二階堂が遠くに行ったのを感じたら、再び教室のドアに張り付く。


 今度は濃厚なキスをしていた。


「ディ、ディープキス!?」


 驚く私を無視して、二人は唇を重ね続ける。いつまでやっているんだろう……と思っていると、ようやく終わったみたいだ。

 二人の唇には糸が引いていた。


 なんか、えろい。見ちゃいけないやつだ。


 二人は廊下に出ると思うので、私は一目散に廊下から立ち去った。



 ――一人ぼっちの帰り道。

 様々な感情がうごめく。


 玲愛ちゃん、ずるいずるいずるい。

 私だってキスしたいしたいしたい。

 彼氏欲しい欲しい欲しい。


 二階堂を寝取りたい。


 なんて、いけない発想にも飛んで。


 そうだ!


 次に告白してきた人の告白を了承すればいいんだ! そしたら、恋人になれるし、沢山キス出来るっ!


 そう心に決めた。


 でも、この時の私は知らない。現実はそんなに甘くないことを。恋人を作るのは想像より遥かに難しいことを。


 忘れ物は取りに行けなかった。

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