19 きっかけ 玲愛Side


 カナメくんを好きになった理由。

 それは――単なる一目惚れでした。きっかけと言えるものは特にありません。



 四月。

 桜が上からひらり、と落ちてきます。今日は高校の入学式でした。私は彼とは中学校が別なので、彼とは初対面。


 初めてカナメくんの姿を目にしたのは廊下でした。


 シワの無い制服を見事に着こなし、髪も整え、姿勢も良く――


 ――って、寝癖が気になります!


 一部、クルン、とカールされた前髪……。そこだけが非常に気になります。


 私は声を掛けます――。


「あ、前髪はねてますよ」

「ホントですか? 教えて下さり、ありがとうございます」


 彼は前髪を押さえて、逃げ足で去っていきました。そんなカナメくんもカッコいいです……!


 ――なんてこともなく。

 彼の寝癖はそのままでずっと私の心はモヤモヤしていました。


 ですが、寝癖が気になり、気づけば彼を目で追っていました。


 あ! けれども、彼とは別のクラス。ここでお別れが来てしまいます。



 放課後。

 またカナメくんを見かけました。


 彼は窓際で黄昏れている……!


 髪を手ぐしで梳かし、頬杖をついて、窓の外を見つめていました。


 カナメくんはてっきりぼっち、かと思いきや……お友達は確かにいました。ですが、今はひとりです。


 声を掛けようかと一瞬思いましたが、私にそんな勇気も無く……。


 カッコいい……! 好きです。


 遠くから見つめることしか出来ないのでした。


 去り際――。


 私のハンカチが落ちてしまいました。


「あの……落とされましたよ」


 カナメくんが教えて下さらなければ、無くしてしまう所だったハンカチ。


「あ、ありがとうございますっ!」


 きゅん。


 なんて優しいのでしょう。


 そんな彼の優しさに思わずときめいてしまいました。


 もうこの方は運命の人なのかもしれません。


 完全に好きになりました。


 ――なんてこともなく。

 結局、声は掛けられず、一日が終わってしまうのでした。ハンカチなんて落としていません。


 だから、きっかけといえるモノは何一つありません。


 本当に一目惚れだったのです。



 ――それからというもの、私は彼を好きになってしまったので、彼のことが知りたくて、聞き耳を立てるようになりました。


 だから、彼の個人情報を沢山知っているのです。


 ある日、そんな私のもとにとある情報が舞い込んできました。


『カナメくんは学校一の美少女――五城悠希のことが好き』

『しかも中学生の頃からずっと片思いし続けている』


 確かにおかしいとは思っていました。あんなにカッコいいのに、彼女のひとりすら出来たことが無い。いや、彼女が出来ちゃダメなんですけど。私にとっては。


 これはもう、フラれる時を待つしかありません。でも一向にカナメくんは告白しようとしません。


 もう諦めるしか無い……――そう思った矢先、チャンスは訪れました。


 体育が終わった後の手洗い場にて。

 何やら五城さんとカナメくんが喋っています。


「そしたら、放課後屋上に来て頂けませんか?」

「いいですけど」


 放課後屋上? これはもしや、告白ですか?


 私は少し遅れて、屋上に行きました。


 案の定、彼が告白していました。


 フラれろ、フラれろ、と願ってはいましたが、あんな酷い振り方をするなんて……。

 流石にこれは心外です。許せません。


 心に傷を負ったカナメくんは図書室に行きます。私も彼についていきます。


 彼の心の傷を癒してあげよう。告白も済ませよう。

 そう思いました。


 きっとあの提案なら、彼も告白を承諾してくれるだろう、と確信しました。


 ここからはご存知の通りです。


 と、五城さんにカナメくんを好きになった理由を話していたら、疲れてしまいました。

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