16 撮りたい


 玲愛に大きなクマのぬいぐるみを取って欲しい、と強請ねだられた。


「……」


 あまりの自信の無さに黙す俺。


 玲愛は上目遣いで見つめてくる。「取って」と目で訴えてくる。


 よし、ここは彼女の為に……!


 クレーンゲーム機に百円を入れ――って、既に百円は入ってる!?


 あまりの徹底ぶりに絶句してしまう。


 どんだけ俺に金を払わせたくないんだよ。


「ふふっ」


 いや、ふふっじゃねーよ。


 早速、ゲームを開始するが取れない。一回で取れたら、彼女がどんな反応するか、興味あったんだけどな。



 ゲーム開始から20分が経過。

 未だに取れてない。二千円以上を費やした。このままだと昼食代越すぞ。


「――気分転換にプリクラでも撮りませんか」


 そう彼女は提案してきた。

 確かにそうだな。スランプなのに、同じ方法を繰り返していても、スランプ脱却出来るとは思えない。


「そうしよう」


 彼女の提案に乗る。


 俺達はゲーセンのすぐ隣のプリクラに入った。


 プリクラは一回400円で撮れるらしく、色々なポーズで撮れ、最後は撮った写真を落書き出来るらしい。


 ――早速、撮影が開始された。


「――準備はいい? 3・2・1! ピース!」


 カシャ。


 二人とも笑ってピースサインをしている。玲愛の遠慮がちな控えめのピースが可愛い。


 その次にジャンプしているポーズの写真を撮った。

 それから……


「次のポーズ、どうしようか?」

「ハートがいい……」


 消え入りそうな声なので、よく聞こえない。恥ずかしがっているのだろうか。


「ん?」

「ふ、二人でハート作りませんか?」


 やっと聞こえた。

 彼女は手でハートを作りたいらしい。


「いいな、それ」


 ……というわけで。

 ハートの写真が撮れた。玲愛の小さな手と俺の大きな手で上手く合致はしなかったけど、それでも良い写真が撮れた。


「――それで、このハートの写真、五城さんに送りつけませんか?」

「なんでだ?」

「ラブラブな所を見せつけるのです」


 は?


「一応、五城さんともSNSの連絡先交換、済ませてあるのですよ?」


 連絡先交換してるのかよ。でも友達辞めたって言ってなかったっけ?


「落書きしたら、早速送りつけますね♪」

「よろしく頼む」


「次はどうする?」

「――カナメくんは何もしなくていいから」


 何もしなくていいってどういう事だよ。聞く隙もなく、撮影が始まった。


「準備はいい? 3・2・1!」


 むぎゅ。


 突如、俺の右半身に柔らかい感触が。抱きつかれている。


「カップルなので、恋人らしいことがしたくて……」

「いや、でもプリクラでしなくても……」


 俺の発言に彼女の表情が曇る。

 嬉しいんだが、恥ずかしいんだよ。喧嘩になるので、これ以上は言わない。


「――準備はいい? 3・2・1!」


 これが最後の撮影となる。何もしない俺に玲愛は何をしてくるのだろうか。


「……」


 ちゅっ。


「!?!?」


 頬に唇が当たったような。ふんわりと、優しく包み込むような軽いキス。音がなければ、キスをされたとは気づかなかっただろう。


「いま、俺に何をした?」

「ほっぺたにちゅーしました」


 語彙力が無さすぎる発言をする玲愛。


「これも五城さんに送りつけますね!」

「恥ずかしいからやめてくれ」


 全力で拒否した。


 最後は落書きの時間だ。


「――ラメとか可愛くないですか?」

「あ! 猫耳。めっちゃ猫耳、好き」


 彼女は俺と自分の頭に猫耳を添える。


「写真をハートで埋めちゃいましょう! って、カナメくんは落書きしないんですか?」

「俺、絵心無いんだ……文字しか……書けない……」

「でしたらLOVEと好きを書きまくって下さい。ピンクのペンで」


 いやいやいやいや。


「恥ずかしかったら、『仲良し』でもいいですよ」

「了解」


 俺は真ん中に『仲良し』という文字を書いた。


 そしたら、彼女を不機嫌にさせてしまった。


「カナメくんは私のこと、好きじゃないんですか」

「いや、好きだが」

「でしたら、もっと楽しんで下さい」

「楽しんでるって。それに落書きは玲愛ので充分――」

「ぷいっ」


 玲愛は顔を逸らす。

 しばらく口は利いてくれなかった。


 玲愛が喋ってくれないので、俺は完成された写真を眺めていた。


 って、キスしている口をハートのスタンプで隠すとか反則だろ。他にもジャンプポーズはまるで効果音が流れてくるかのように、モーションのスタンプをつけていた。


「すげえ完成度だな。玲愛、ごめん」

「ん。そしたら、ゲームセンター行きましょうか」


 五城にはちゃんとハートのポーズの写真を送りつけたらしい。「ほら」と彼女が見せてくる。


 反応が楽しみだな。


 てか、プリクラで気分転換してもあのクマのぬいぐるみが取れる自信が変わらず無いのは、何でなんだろうな。


 もう少しプリクラで遊んでたかった。












 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る