14 買いたい


「まずはショッピングからですね」


 玲愛に腕を引かれ、俺は商業施設へと続く道を歩いていた。

 何故、こういう時に男である俺がリードしてあげないのだろうか。でも彼女にリードを求められてる気もしない。


 しかも道路側を歩いているのは玲愛だ。


 流石にこれは……と思い、彼女に言う。


「俺、そっち行くよ」

「いえ、ガードレールがあるので気にしなくて大丈夫です」

「……」


 言葉だけでなく、身体も強引に位置変更を試みるが譲ってはくれない。


「やっぱ、男が女の子を守るのが妥当じゃないのか?」

「カナメくんがもし、ガードレールを突き破った車に轢かれて死んじゃったら、わたし生きていけません……」


 逆もしかりだが、なんか玲愛って愛が重くないか? 気の所為か……。


「――ほらほら、着きましたよ」


 目の前には巨大なショッピングモール。そこにゲーセンや服屋、文房具屋、本屋などが揃っているのだろう。

 当然ながら、ファミレスはモール内にはなく、昼は外で食べる予定になっている。


 店内は大勢の客で賑わっていた。

 親子連れ、友人同士、等など。


 玲愛が服を買いたい、と言うので服屋に向かう。そこは靴やブランド物のバッグまで、何でも揃っていた。


 ただ……女性モノコーナーなので、非常に居づらい。


「俺、帰っていいか?」

「ちょっと待って下さい」


 玲愛は試着するから俺に良い服を選んでほしいらしい。


「これはどうですかね……? いや、これも……」

「ベレー帽とか似合うんじゃないか?」

「ホントですか?」


 ベレー帽とニットブラウスを手に取る玲愛。


「これはどうでしょう?」とニットブラウスを掲げる。


「可愛い。あったかそう」


 そう言うと彼女はガッツポーズをした後、カゴに二品入れた。


「このスカートとか可愛いな」


 すかさず玲愛は、スカートもカゴに入れる。


 こいつ、俺が可愛いと言ったモノ全部買う気か? 少しだけ「可愛い」と言うのを控えるようにした。


「なんだかんだ言って、玲愛は制服が一番似合う気がするけどな」

「そんな事、言われたら制服しか着なくなっちゃいます」

「冗談。何でも可愛いって」


 ブワッと彼女の顔が赤くなる。頬に触れると、熱を帯びていて熱かった。


「なに触っているんですか」

「えへへ」

「今のカナメくん、キモいです」


 好きな人に「キモい」と言われるのはきついな、と実感した瞬間だった。


 ――彼女が試着室に入ったので、俺は外で待つ。


 女子慣れしていない俺は衣擦きぬずれの音だけでも興奮してしまう。カーテンの向こうに着替え中の彼女がいると思うと、なんかな……。


 やがて、カーテンが開く音がして振り返る。


 すると、そこには――ベレー帽にニットブラウス、そして俺が可愛い、と言った秋服スカートを身にまとった玲愛がいた。


 控えめに言って可愛い。


 こんな可愛いコーデの玲愛とデートしたら、絶対楽しい!!


 込み上げる思いがあるが、彼女はまだ何も言っていないので黙っている。


「どうですか?」

「大変麗しゅうございます」

「……は? 普通に可愛い、とは仰ってくれないのですか?」

「可愛いだけだと君を満足させられないと思ってな。飽きるだろ?」

「カナメくんったら……」


 また試着室に隠れる玲愛。


 今度はチェック柄のワンピースを着て出てきた。


「すげえ華やかだな」

「もう! 可愛い以外のセリフを必死に探さないで下さい」

「麗しいとか華やかとか、言われて嫌だったか?」

「い、嫌じゃないですけどっ。でも、カナメくんになら何度可愛いと言われても飽きません」


 そう告げ、玲愛は目を逸らす。

 可愛かったので、新品のベレー帽越しに頭をポンポン、と叩いた。玲愛は幸せそうにニヤけている。


 結局、試着した衣類は全部買うこととなった。



 時刻は11:30。

 まだ昼ご飯までは時間がある。


「時間余ってるし、本屋行っていいか? 新刊ラノベチェックしたい」

「どうぞ」


 ラノベ新刊コーナーにはまあまあ知っている作品が複数作あった。でも、好きな作品の最新巻は全て購入済みだった。だから今日は気になった作品が一作あったので、それを購入した。


 ちなみに彼女には本屋の前のチェアで待っててもらっている。なんか申し訳ない。


「お待たせ」

「何か良いの、買えました?」

「一作だけ」


 その一作、というのはファンタジー作品だった。一応Webでも読めるらしいが、挿絵がついてたほうがイメージしやすいので、購入した。まあWeb版読んでないし、面白いかは読んでみないと分からないが。

 でもイラスト可愛いし、あらすじも惹き込まれるような内容だった。


「それでは時間ですし、レストラン行きますか」

「ああ」


 今度はではなく、でレストランまでの道のりを歩いた。


 辿り着いたのは誰もが行ったことがあるであろう有名なファミレスだった。


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