12 屋上で昼飯


 昼休み。

 俺がカバンから弁当箱を取り出したところで、早速理翔に問われる。いつもはコンビニのビニール袋を持参しているので、すぐに気づかれた。


「それってひょっとして――」

「玲愛の手作り」


 自慢気に言うと彼は目をキラキラさせていた。


「いいなー、これだからリア充は」


 理翔に断り、屋上へと向かう。

 その前に玲愛と廊下で合流。


「ずっと会いたかったです」

「朝、会っただろ」

「いえ、それだけだとカナメくん成分が足りません」


 カナメくん成分とは……?


 ――屋上に行く前に自動販売機に寄る。


「何か飲み物買いましょう」


 んー、何がいいかな。


「カナメくんは決まりました?」

「俺は……おしるこかコーンポタージュ」


 と言っただけなのに、彼女に変な顔をされる。


「カナメくんは細かいモノが好きなんですね」

「細かいモノって……語弊が」

「両方買ってもいいのですよ?」


 結局、玲愛はりんごジュース、俺はおしることコーンポタージュを買うことになった。


 二人して首を傾げる。いや、どうしてこうなった?



 四階に着くと、そこにはまだ五城悠希が居座っていた。


「五城さん、教室戻らないんですか?」

「戻らないんじゃなくて、戻れないの! あんたのせいで! 居場所無くなっちゃったじゃん。どうしてくれるの?」

「だから、さっきから言っていますが、カナメくんのせいじゃありません。あなたが嘘を吐いたせいです」

「……」


 五城さんに退いてもらい、俺らは屋上に入る。


「ううー、今日は早退しよっかな」

「……」


 彼女の独り言に答える者は誰もいなかった。



 晴れ渡る空の下、二人きりの屋上で大好きな彼女と弁当を食べるのは男の理想と言えるだろう。俺は今まさにその理想を味わっている。


「カナメくん、食べないんですか」

「ああ、食べる、食べる」


 蓋を開けると、桜でんぶがまぶしているご飯にポテト、唐揚げ、プチトマトにブロッコリーなど栄養バランスが取れた、色とりどりのお弁当が入っていた。コンビニなんかより、全然良い。これから毎日、玲愛お手製の弁当が食べられるのだと思うと、楽しみで仕方ない。


「あーん、しますか?」

「する」


 二人は当たり前のように、あーん、をし合う。


 皆がいるより、二人きりのほうが恥ずかしいのは何でなんだろうな。


 弁当を食べ終わり、さっき買った飲み物を飲む。

 俺が無言で飲んでいると、彼女にじっと見つめられた。


「……ん?」

「飲ませて、くれませんか?」


 玲愛はおしるこが飲みたいらしい。付き合っているのにも関わらず、未だに間接キスすら慣れない。


 缶を持つ手が震える。


 受け取った彼女は若干、逡巡した後おしるこに口をつけた。


「ん。……美味しい」

「良かった」

「そういえば、お弁当の感想聞いてないじゃないですか」

「そうだったな」

「どうでしたか?」


「美味しいに決まってんだろ」


 胸を張ってそう言う。


 すると彼女は――


「ばか」

「ばか?」


 恥じらいからか、ついそんな言葉が漏れてしまう。でも。


「いえ、大好きです、カナメくん」


 正面から抱きつかれた。

 ドキッとする。


「毎日、お弁当作ってあげますね。カナメくんに美味しいと言われるなら、徹夜してでも作ります」

「よろしく頼む。無理はすんなよ」

「はい!」


 もう昼休みが終わる。

 立ち上がると玲愛に腕を引っ張られた。


「授業、サボりませんか?」

「それはダメだろ」

「じゃあ、一つだけお願い聞いて下さい」


 何だろう……?

 首を傾げていると――。


「次の休日、私とデートしてくれませんか?」


 ――そう言われた。


「デ、デート? いいけど」


 告げると玲愛は嬉しそうに微笑んだ。


「約束、ですよ?」


 コクリと俺は頷く。


「デートプランは帰ってから、決めましょうか」

「そうだな」


 屋上から出ると、五城の姿は無かった。

 教室にもいなかった。


 帰ったのか? と思ったが、実は保健室にいたらしい。


 五城は窓を見つめ、黄昏れている。

 そして、保健の先生に訴える。


「噂ってどうやったら、治まるんですか? 助けて下さい」

「そうねぇ。噂は自然治癒が有効ね。時間が解決してくれるのを待つしかないのよ」

「何であの女と一緒のこと言うわけ?」


 五城は情緒が不安定だ。先生も対応に困る。


「――学校に行きたくない。居場所が無い」

「保健室にだけでも来てくれたら、先生嬉しいわ」

「相談、乗ってくれますか?」


 そうして五城は先生に相談するのだった。でも、解決はしなかった。



 一方、俺らは二人で帰路を歩いていた。夕焼けが今日も綺麗。


 デート、楽しみだな。


 俺は空を見上げる。


「――デートが楽しみだからって、浮かれないで下さい。危ないですよ」

「わっ!」


 自転車にぶつかりそうになっていた。

 デート当日もこのように玲愛にリードされるのだろうか。


 少し気を引き締めないと、と俺は自分を律する。


 そんなこんなでマンションに着いた。


「デートが楽しみなのは私も同じです」


 そう玲愛も微笑んだ。


 これからプランを考える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る