11 嘘はいけません


 四階の屋上の扉の前。

 いま、ここには五城以外誰もいない。


(どうしよ、どうしよ、どうしよう……。二階堂とその友達があんなこと、言うから……!)


 コツ、コツ、コツ……。


 誰もいないこの場所に人の足音が聞こえてくる。


(誰? 人……?)


「五城さん♪ 嘘を吐くから、こんな事になるんですよ」


 顔を膝に埋めて、頭を抱えていた五城は声で玲愛だと気づく。


「玲愛ちゃん! 助けて助けて助けて」

「もう友達じゃないんですから、『玲愛ちゃん』と呼ぶのはやめて下さい。キモいです」

「そんなぁ……」


 五城はしょんぼりする。


「改めて佐渡さん、助けて下さい。あと私、嘘なんか吐いていません」

「では、あなたは好きな人が学校内、又は学校外にいるんですか? 二次元はノーカンですよ、あと芸能人もノーカンですよ」

「ううっ。いませんでした」

「それに『助けて』と言われても、噂なので時間が解決してくれるのを待つしかありません。なので、救いようがありません」


 救いようが無い、という言葉を受け、彼女はくずおれる。


「滑稽ですね。何故、カナメくんにだけ、嘘を吐いたのですか?」

「二階堂なら、バラさないと思って。二階堂を傷つけたくなくて。面倒だったからノリで」

「傷つけたくない、は嘘ですよね?」

「バレちゃった? この嘘は何となくですよ」

「何となく、がこのような自分の首を絞める事になっているの、分かってます? やはり滑稽ですね」

「……」


 すっかり黙り込んでしまった五城。彼女は絶望的な顔をしている。


「もう。好きな人がいないのに、いるとか言う嘘を吐くのはやめて下さいね。本当に好きな人がいる人に失礼です」

「……じゃあ、どう断ればよかったのよ」

「言い方なんて、いくらでもあるはずです」


「はぁ……」


 五城は深い溜め息を吐く。


「五城さん」

「はい」

「あなた、人気者の自覚、ありますよね?」

「ありますけど」

「だったら、こんなうそ言ったら、こうなる事くらい目に見えているじゃないですか」


 再び、黙り込む五城。

 彼女にとって、あの告白の返事は反省と後悔しかなかった。


「――それと、カナメくんのことを下に見るのは今日が最後にして下さい」

「……」

「二階堂くんのせいで……、とか今でも思っているんでしょ?」

「なんで分かるのっ!?」

「分かりますよ、あなたが心の底から反省してないことくらい」


 じゃ、授業始まるので行きますね、と玲愛は身を翻す。


「どうしたらいいの……?」

「知りませんよ」


 玲愛は冷たくあしらう。


 彼女がいなくなったことで、再びこの場は静かになる。


 五城は教室に行くのが気まずくなったので、この日は授業が受けられなかった。


「私、好きな人いるんだけどなぁ……」


 そう呟きつつ、立ち上がったり、座ったりを繰り返す。


 五城が次に玲愛とカナメに会うのは、この日の昼休みになってからのこと。

 

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