第2話 驚愕と嫉妬

9 予想外の展開


(二階堂に彼女が出来ただって!? 嘘でしょ!)


 五城は現実を受け入れられずにいた。


 あんなにモテない二階堂が。女の子と触れ合うだけで、リアクションが大げさな初心うぶな二階堂が。


 何で私より先を行くの?

 私なんて彼氏出来たこと、一度も無いのに。振ってばかりだから、しょうがないけれど。


 五城の頭の中は疑問でいっぱい。


「そんなに驚くことですか?」


 冷たい声音でそう問う玲愛。彼女は悪戯っぽく嗤う。


 驚くに決まっている。だって、相手は五城の次に可愛い――佐渡玲愛だ。


 玲愛もカナメと付き合うまでは、数々の告白を振り続けていた。勿論、五城と違って優しく、ね?


 だから、学校中の生徒たちは玲愛が誰かと付き合っている所なんて見たことがない。それは五城も同じだった。


「驚きますよ。玲愛ちゃん、何で二階堂くんと付き合っているんですか? あなた、『誰とも付き合わない』って仰っていたじゃないですか」

「好きだからです。やっぱりカナメくんは特別です」


(カナメくん……!?!? 名前で呼んでるよ……!)と今にも泡を吹きそうな五城。


「あなたが酷い振り方をした、昨日の告白の現場もバッチリ録音しておきましたよ」

「な、何ですって!?」


 五城は慌てふためく。

 もし、その録音データが学園中に流出されたら、彼女は高校生活を送れなくなってしまうかもしれない。


「カナメくんがあんなに勇気を出して告白したのに……」

「だって、ウザかったから」


 玲愛は鋭い目つきで五城を睨み、五城は瞳からハイライトを消していた。


 喧嘩は良くない、とカナメは思うも二人を止めることは出来ない。


「嫌な人を敵に回しましたね、五城さん」

「え、敵じゃなくて、私たち友達でしょっ?」

「友達じゃありません。カナメくんを傷つけたので敵です」

「私は……友達だと思っていたのに……」

「充分、身に沁みましたか? 人に裏切られた時の気持ちが」


「――絶対、後悔させてやります。五城さん」


 そう言う玲愛の瞳は全く笑っていなかった。真剣な表情で五城を見据える。


「二階堂くんとも少し話していいですか?」


 五城はそう問う。


 玲愛は(頑張って)とカナメに耳打ちする。彼は頷いた。


「はい」

「二階堂くんはどうしてモテないのに、玲愛ちゃんと付き合えたんですか?」

「タメ口でいいですよ。裏の顔知ってますし」

「ここ学校だから」

「屋上はじゃないんですか?」

「……」


 都合が悪くなると、すぐ五城は口を閉ざす。


「話逸れましたね、ごめんなさい。俺はモテなかったわけではないんです。五城さんが好きだったから、今までされてきた告白は全て断ってきました。それがあなたの目には『モテない』と映ったのかもしれませんが」

「でもっ、告白された数は私より少ないでしょ?」

「何でそう、あなたは人と比べたがるんですか? 俺は別に五城さんより告られた回数が少なくても気にしません」

「……っ! こっぴどい振り方したから、二度とあなたは女の子に告白なんてしない、と信じていたのに……!」


「言っておきますけど、告白は玲愛からですよ?」


「はああああ!?」


(玲愛? こっちも名前呼びっ? しかもモテないくせして告白側なのっ!?)


「玲愛ちゃん、何でこんな男に告白したの?」

「Go to hell」


(大切な彼氏を呼ばわりする奴なんか、地獄に落ちてしまえばいいのです)


「いま、何て言ったの? 小さくて聞こえなかったんだけど」

「行きましょう、カナメくん」


 差し出された手をカナメは受け取る。


 少しだけ五城を見返せた気がして、彼の心は少しだけ軽くなった。


 一方その頃、五城はというと。


「怖い怖い玲愛ちゃんが怖いどうしよう……これから私に何が待ち受けているの?」


 ぶつぶつ一人で呟いていた。

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