第5話

 他人のものを奪おうとするだなんて、自分がこんなに強欲だったとは知らなかったな。仕事が順調にいっているから調子に乗っているのか、彼女がそれだけ魅力的なのか。



「せっかくだから可愛いランジェリーも買わない?」

 これも同性の特権よね。

「試着だけでもいいじゃない」

 少し強引に勧めれば、満更でもなさそう。

「早乙女さん、どうですかね」

 試着室から顔だけ出して恥ずかしそうにしている。え、見てもいいの?

 そうか、私がビアンであることは知らないものね。

「どれどれ」

 思わず息を飲んだ。触れたくなったけれど理性で抑える。

「可愛い、似合ってる」

「ほんとですか?」

「もちろんよ、彼氏に見せるなんてもったいない」

 あ、心の声が漏れてしまった。

「あは、早乙女さん面白いですねぇ。じゃ買おうかな」

 嬉しそうな顔をする彼女の下着姿を、彼氏より先に拝めたことを心に留めておく。


「洋服も買ったし、ランジェリーも買ったし、パンプスはあるし、あとは」

「バッグとか小物? あ、化粧品や香水なんかは?」

「そうですねぇ」

 彼女がチラリと目をやったのは時計、これからデートの約束でもあるの?

「もう遅いし今度にする? 次回はメイクもさせてね」

「はい是非、お願いします」

 これで解散かと覚悟していたけれど、インソールのお礼にと食事をすることになった。

 やった! 一緒にいられることもだけど、今日は彼には会わないことが嬉しい。

 勝手にライバル認定しちゃってるけど、まだ私と彼との戦いは始まったばかり。まずは同じ土俵に上がらないとね。

 もっともっと仲良くなりたい、そう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る