第4話
「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」
「いつものでお願い、仕事が忙しくなっちゃってね」
久しぶりに訪れたバーは、今日も静かに刻が流れている。
「それは良いですね」
「そうね、有難いことね。おかげで遊びの方はご無沙汰よ」
今は性欲より仕事の方を優先させている。気心が知れたバーテンダーだから本音で話せる気楽さが心地よい。
「お代わりお願い」
たわいもない話をして束の間の休息を楽しんでいると。
「あれ」
見知らぬ番号からのメッセージが届いた。
「あら」
パンプスの彼女からだ、名前は確か宇佐見さん。
「ごめん、帰る。お代わりのお代も払うから、またね」
すぐにメッセージに返信をして、やり取りを続けながら帰宅した。チャンスの神様は前髪しかないって誰かが言ってた、掴める時に掴まないとね。
会話が途切れないよう話題を振りながら、その中で彼女の人となりを知る。文字だけでそんなことが? とも思うが、言葉使いや返し方で人柄はわかるし、今どんな表情でこの言葉を紡いでいるのか思い浮かんでしまうから。私はきっと、既に彼女のことを……
数日後、彼女のパンプスが入荷したため連絡をした。オーナー自ら電話をしていたため、他の店員には不思議がられたけれど、初見で二足も売ったのだから上客だということにして。もちろん取りに来る時間にはしっかりと待機する。
あぁ早く会いたいなぁ、そして今後どうにかして会う口実を作らないと。
ヒールの高いパンプスを履く時に同行するという、私にとってはデートの約束を取り付けた。
インソールを試すという口実は、なかなか良いわよね、グッジョブ自分!
当日、お友達の結婚式に着ていく服を見立てて欲しいと言われた。そういうのは得意だから喜んで引き受けた。そうよね、服選びは男の人には不向きよね。私の得意分野で彼女の気持ちを引き付けられたなら、もしかしたら……
私の選んだ服を彼女も嬉しそうに試着して感想を言い合う。
普段はラフな格好が多いという彼女だけど、ワンピースなんかを試着すれば女性らしいラインが大人の色香を感じる。これは磨けばどこまでも美しくなるタイプだと思う。私好みに変えられないかなぁ、なんて密かに企んでいた。
あぁ、そうそう。口実に使ったインソールは調子良いみたいで、靴擦れもないらしい。まだこれからデートを楽しみたいから、パンプスから履き慣れた靴へ替えてもらう。
「ねぇ、うさちゃん」
私の呼びかけに彼女は驚いていた。
「宇佐見さんだから、うさちゃん」
距離を縮める作戦として、親しみを込めてそう呼んでみた。
「ウサギみたい」って照れていたが、嫌そうではなかったから、これで推していく。きっと彼氏には名前で呼ばれているだろうから、別の呼び方ーー私だけのうさちゃん!
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