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第3話

「おつかれさまです、オーナー」

「おつかれさま、最近はどう? あまり来られなくてごめんね」

「売上は好調ですよ、季節が良くなって出掛ける方が多いのかも」

「そうよね、店長いつもありがとう」


 私の夢だったお店、シューズショップが開店してそろそろ二年になる。有難いことに売上も好調で二号店開店を視野に入れている。今日はその関係で不動産屋へ相談に行っていた。目ぼしい物件が出たとの連絡が入ったからだ。

 どうやら話が一気に前に進みそうで嬉しい限りだ。


「あれ?」

 ウィンドウの外からパンプスを眺めている女性が気になった。

「あの方、来店したことある?」

「いえ、私がいる間には来てないと思います」

「そう、もし入店したら私が対応するわ」

「え、オーナーが? あぁはい、わかりました」


 最初はどこかで会ったことがあるのかと思った。でも違う、雰囲気があの子に似てるんだ。幼い頃の記憶、忘れられない思い出の中の少女。あれが初恋だったんだと今ならわかる。

 普段は覚えていないのに、こういうキッカケで蘇る断片的な映像と温かな気持ち。


「いらっしゃいませ」

 店長の声に入口を見れば、彼女が入店してきた。ゆっくりとパンプスの並んだコーナーへ歩いていく。

 私は少しの時間を置いて、さりげなく声をかけた。

 話を聞いてアドバイスをして試しに履いて歩いてもらう。パンプスには慣れていないと言っていたけれど姿勢が良いから足が綺麗に見える。話し方、受け答え方、表情、ほんの少しの時間なのに私はまたーーノンケに恋をするというーー悪いクセが出てしまいそう。

 彼のためにパンプスを買いたいと言う、そしてそれを選ぶお手伝いをする私は、それでも彼女が話しかけてくれるから笑顔で対応をする。年齢は私よりも少し下か、だとしたら結婚も秒読みか? たとえそうだとしても良い人に見られたいし、今後も頼ってくれたならいつかチャンスがあるかもしれないし。

 会計時には名刺と連絡先をこっそりと渡す。今までは奪われるばかりだった愛を、もしも奪えることが出来たなら……なんて、一縷の望みを持って。

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