第6話

 彼とのデートは週末が多いらしく、必然的に私は平日の夜に彼女を誘う。

 ご飯を食べたり、軽くお酒を飲んだり。

 定時で仕事が終わった日に、約束していたメイクをさせてもらった。

 私がいつも化粧品を購入しているショップで、特別に試させてもらう。

「肌に合う合わないもあるからね、ちゃんとしたものを使った方がいいと思って」

「ありがとうございます」

 間近で見るとやっぱり、肌がきめ細かくて綺麗なのよね。お化粧しだいで印象が変わるから、今回は私好みでーー

「どうかな?」

「……これ」

 言葉に詰まっていたからドキドキした。まるでプロポーズの返事を待っているように。

「え、これ本当に私?」

 キラキラした目で私を見る。気に入ってくれたみたいだ。


「じゃ、お願い」

 お店のスタッフには事前に気に入れば購入すると伝えていた。

「はい、準備出来ています」

 さすが、仕事が早い。


「うさちゃん、これは私からプレゼントするわね。やり方のコツはまたゆっくり教えるから」

「そんな、悪いですよ」

「いいの、私がしたいからするの。それとも迷惑?」

「いえそんな、嬉しいです」

「せっかくだから、このまま飲みに行かない? たまにはお洒落なバーとか」

 もちろん、いつも行くビアンバーではなく、夜景の綺麗なバーをリサーチ済みだ。


「うわぁ、綺麗」

「平日だから空いてるわね、窓際の席が空いていて良かったわ」

「このカクテルも美味しい、早乙女さん連れてきてくれてありがとうございます」

「こちらこそ、一人じゃなかなか来られないもの。彼とはこういうお店には来ないの?」

「ないですねぇ、はなからお洒落なものは似合わないって思われてるみたいだし。飲むのは専らビールだし」

「そんなことないのにね、うさちゃんが可愛く変身したらびっくりするかもね」

 突然化粧も服装も変わったら彼はどう思うのだろう。自分のために変わったと思うのか、あるいは別の男性の影を疑うのか。

「どうかなぁ、気付かなかったりして」

「え、そんなに?」

「案外鈍感、というか私に興味ないかも」

「それはないんじゃない?」

 本当にそうなら、私が取っちゃうんだけど。

「あぁすみません、また愚痴になっちゃう」

「いいよ、私でよければ愚痴でもなんでも聞くよ。話してスッキリすることもあるもの」

「早乙女さん、優しい」

 彼の愚痴なら大歓迎、逆に惚気なんて聞かされたら泣いちゃうわ。

「あ、お代わり頼む?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る