無料相談!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 僕が、いろいろ悩んでいた頃。10年前くらい前のお話。


 知人と電話で話していたら、つい、愚痴、不満、不安をぶちまけてしまった。普段は悩んでいても他人には話さなかったのだが、その日はいつもより弱気になっていたのか、つい悩み事を話してしまった。電話の相手は、それを親身になって聞いてくれた。それだけで少し救われた。人に話すと、ストレスの発散になるのだろうか? あそこまでマイナスなことを喋ってしまった日は、他に無いだろう。僕にとって、特別な日だった。相手が優しい年上女性だったので、甘えてしまったのかもしれない。


「崔さん、ちょうど無料のお悩み相談があるんですけど、ご存知ですか?」


 電話の相手が言った。


「え! 何それ? ボランティア?」

「お寺なんですよ。宗派を問わず相談に乗ってくれるらしいですよ。実は、私も近い内に相談しようと思っているところなんです」

「へー! 試しに電話してみようかな?」

「電話した方がいいですよ〇〇寺というところで、ホームページもありますよ」

「ちょっと待って、パソコンでホームページを見てるから。ええと、〇〇寺……ああ、あった。ほんまや、“1人で悩まないでください! 無料のお悩み相談24時間受付中”って書いてるわ!」

「早速、電話してみてください」

「うん、電話してみるわ!」


 僕は、そのお寺に電話した。


「はい、〇〇寺です!」

「すみません、ホームページを見たんですけど」

「はいはい!」

「無料の悩み相談で」

「はいはい! どんなお悩みですか?」

「……ということで、今、すごく悩んでいます。苦しいです」

「どのくらい苦しいですか?」

「え? そうですね、死ぬほど苦しいです」

「それは……病院に行かないかんですよ」

「は? 病院ですか?」

「死ぬほど苦しいんだったら病院ですね。お医者さんに相談してください」

「ほな、このお寺では、もうこれ以上は相談に乗ってくれないんですか?」

「はい、病院へ行ってください。病院に行かないといかんですよ」

「はあ、どうも……」


 無料のはずだ! これで金をとったら大クレームだろう。予想外の回答に呆然としていたら、アッサリ電話を切られた。藁をも掴む思いで電話をしただけに、絶望した。僕には掴む藁も無いのだろうか? 現実は残酷だ。


「相談してみて、どうでしたか?」

「苦しかったら病院へ行けって言われたわ。それで終わり」

「なんなんですか、それ? 笑っちゃいますね! あはははは」



 電話の相手、知人には何も言わなかったが、ケラケラ笑っている知人を、少しだけ憎らしく思った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無料相談! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画