第44話 慢心の責任
「んん~・・・んがっ」
ふと目を覚ます、朝の一件から何か事件があるまで
テスと昼寝をしていたのだが・・・体が動かない、
自分の身体に絡みつくテスの腕と、頬に当たる胸の感触。
どうやら私は今抱き枕のように扱われているらしい。
人は慣れる生き物だ、昨日は緊張して寝られなかったはずなのに
今はなんなら2度寝も出来る気がする、それほどに私の心は落ち着いている。
「・・・ん?うん?」
部屋の外から争うような声が2つ、こちらに近づいてくるのが聞こえる。
私達の部屋より前にいくつか部屋がある、
その何処かで止まると私は思っていたのだが、
いつまでも声は止まず、そしてどんどん近づいて来ているのが分かった。
「行けません!そちらは既にお客様が泊ってらっしゃいます!」
「構わないでくれ!ここに居る人達に用があるんだ!!」
いや構ってくれ、こっちは女2人だぞ。
片方は宿の従業員の声で、もう片方の声も聞いたことがある、
具体的に言うと、今日の朝に聞いた声だ。
バン、と勢いよく扉が開かれる、何もかもが無遠慮過ぎる、
時と場合と相手によっては自衛の為に暴力も辞さない状況であるが、
見知った顔と、その変わり様に、投げてやろうかと掴んだ枕を思わず放してしまう。
「うぅ・・ぐすっ」
「弓手の先輩じゃないか、どうしたんだその恰好。ボロボロじゃないか」
「女性しか居ない部屋に無理やり入り込んで、身なりも泥に塗れ汚く、
部屋が汚れてしまっています。どういうつもりですか」
「も、申し訳ありません!お客様が居ると止めても聞かず・・・」
昼寝を邪魔されたテスが軽蔑の眼差しで弓手先輩を見る。
ただの昼寝だったら寛大な心で2度寝していたであろうテスだが、
私の自惚れじゃなければ、私との昼寝を邪魔されたことで機嫌を悪くしている、
多分、自惚れじゃなければだが、自分で推察しておいてちょっと照れる。
「まぁ、それほど火急の用事なのだろう、で、何の用なんだ?」
私がそう問うと、弓手先輩は目に大粒の涙を浮かべた直後、
床に突っ伏して大声で叫び始める。
「ううおおぉぉおおいぇええああああ!!!!!」
「声デッッッッッッッッッカ」
「・・・で?先駆けてゴブリンに挑んだらたった数匹相手に惨敗、
仲間と口論になったかと思えば、男戦士が女僧侶連れて逃げ出した、と」
「そうだよぉ!僕もあの子の事が好きだって知ってたはずなのにあいつら、
僕に隠れて付き合ってたなんてぇ・・・うぅぅう!!」
弓手先輩が泣きながらそんなパーティーのドロッとした事情を話すが、
私達が聞きたい大事な事はそんなことじゃない、
私としては滅茶苦茶面白いし深掘りしたい気持ちが無い訳じゃない、
だが、話を聞くに事態は動き始めたと見て間違いないと確信していた。
「で、ゴブリンに惨敗したと言うが、個の力が強く、群れが統率されている、
この特徴に当てはまるのであれば、敵の大将はゴブリンの王で決まりだ。
そして、お前ら先駆けに触発されてすぐに攻め込んでくる恐れがある、
・・・っていうか確実だな、こちらもすぐ動かねばなるまい」
「そ、そんな!僕ら以外にも何人も居て、負けて逃げて来たんだぞ!
勝てる訳がない、早く・・・早く助けを呼ばないと・・・」
「そうララァ様が仰ったのに、必要ないと止めたのはそちらですよね」
テスの遠慮ない指摘に、弓手先輩は言葉を詰まらせ、黙ってしまう。
悲しいかな、そうやって黙っていても事態は決して好転しないというのに。
「き、君達は今回の件に王が居ることを見抜いていた、
君達ならきっと、何か、何か対抗策とか、あるんだろう・・・?」
「『行けば必ず勝てる』と慢心し、負けたら誰かに救いを求めるのか?
お前、冒険者に向いてないな。私らが手に負えないと言ったらどうするんだ?」
あの時私を止めなければ変わったかも知れない、
こちらから先に仕掛けなければ起こらなかったかも知れない、
『どうにか出来たかも知れない可能性を潰した』、その自責と言う重圧に
ただ少しばかり戦えるようになり始めただけの若輩者が耐えれるはずもなく
「う、うわぁぁあああ!!!」
弓手先輩は大声を出してその場から走り去ってしまった。
少し冷たく、強く当たり過ぎたかも知れない、
しかし事実だ、彼と他の者達が招いた結果に耐え切れず、
そして、その結末を知ることを投げ出して、
彼もまた、彼を裏切った仲間と同じく、逃げ出したのだ。
「・・・ララァ様、大丈夫ですか?」
「私か?大丈夫だ、気を遣わせてしまったならすまない。
しかし、仁狼の弟子とやらは何をしてるんだか」
「そ、それが・・・先遣隊が敗走したと聞き、
それからすぐに行方が誰にも分からないそうで・・・」
「・・・そちらも、きっちり償わせるとして、だ。
仕方ない、テス。私らで終わらせよう」
従業員の言葉に少しがっかりしたが、考えられない事ではなかった。
すぐに気を取り直し、私はテスにそう言った。
「そうですね、事態は切迫しています、正攻法で行かずに
『これ』で、手早く終わらせましょう。」
いつの間にか、テスはある物を手にしていた、
それを見た私は『あぁー』と、テスの言葉に納得し、
従業員は驚きの表情で体を硬直させていた。
それも無理はないだろう、テスが持っていた物は
機人族間にのみ流通している、近代的な狙撃銃だったのだから。
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