第42話 街道を占拠する者

「おはようございますララァ様、

 よくお眠りに・・・なって、なさそうですね」

「おはよう、お陰様でな」


今まで何回も言ってる事だし、これからも何回でも言うが

テスは顔が良い、性格も悪くはないが、思慮深いあまりに

突拍子のない思考や行動をするくらいで、それまでだ。

そして良い匂いもするし、人間と同じくらい暖かいし柔らかい。

これを前にして安眠出来る奴はそうは居ない、同性である私でさえ無理だ。


「すまないがもう少し寝る・・・テスは・・・いつものか」

「はい、いつもの情報収集に少し出ます。

 魔物の事で少しでも分かれば良いのですが」

「う~・・・いや、良い。やっぱり私も起きてテスについて行く」

「・・・大丈夫ですか?無理しなくても良いのですよ」


テスと一緒に身支度を整え終わるのを見計らったように、

部屋のドアを叩く音が聞こえてくる。


「おはようございます、朝食の用意が出来ていますがお持ちしても?」

「あ、あぁ。頼む」


扉を開けると従業員がワゴンを押して入室する。

流石お高い宿なだけあって、ワゴンサービスまで付くらしい、

ワゴンの上には陶器製の鍋が置かれてあり、

蓋を開くとすぐによく嗅ぎ慣れた香りが漂ってくる。


「麦粥か、意外だな」

「ここに訪れるお客様は前日の夜はよく酒場等でお酒や肉料理を楽しまれるので、

 翌朝にこういった物にすると、大変喜んで頂けるのです」

「確かここら一帯は麦などの生産が盛んな穀倉地帯でしたね」

「左様でございます、この宿でお出しする料理に使われる麦は、

 特定の農家が生産する一等品になります。では、ごゆっくり」


料理をテーブルに置き終わると、従業員は深く礼をして退出する。

テーブルの上には麦粥、野菜のサラダと、確かに前日の夜に

酒や肉やと食べてる人にとっては胃に優しい。

・・・酒も肉も頂いてない私達には少し物足りないが、

一等品の麦、というだけあって味は良い、素材が良いのもある、

しかし結局の所、その素材を活かせれるかは料理人の腕次第なのだ。


満足だ、連泊をするつもりだから、夕食と朝食は普通に肉料理にしてもらおう。


「よし、まずは何処から手を付けるか・・・」

「ジンの弟子というのも気になりますが、討伐に関する情報が少ないですね。

 幸いすぐ近くにギルド支部がありますので、まずそこに向かいます」


朝食を終え、宿を出てから私とテスは目的地を決める。

偶然にも、ギルドの看板が目と鼻の先の距離にある、

まずはギルドに寄って情報収集、私は了承して向かうことにした。


「あぁ冒険者の方かい、すまんねぇ今これと言って受けれる依頼は置いてなくてね」


迎えてくれた年老いた男性の職員は開口一番そう言った。

人口1000人程度、この規模の町であれば小さくてもギルド支部は存在している。

だが首都タナトスのような大都市みたいにトラブルに事欠かない所と違って、

冒険者を必要としない町があるなんて、よくある話だ。

恐らくギルドに掲示されていた街道の魔物討伐の依頼は誰かが受注したのだろう、

掲示板には張り紙が1枚も無かった。


「私達も街道の魔物討伐に参加しようと思ったのですが・・・」

「おや貴方達もか、実はちょいと事情があって、

 募集を打ち切っちゃったんだよねぇ、参加するのは自由だけど、

 依頼書がなければ報酬は支払われないよ」

「どういう事情があって、募集を打ち切るなんてことが起こるんだ?」

「まぁ普通はそういうことないんだけどね、

 仁狼の弟子って名乗る男が来てからそいつ目的で

 色んな冒険者が押しかけてねぇ・・・」


どんだけブランド力あるんだよ『仁狼』、

何をどんだけやったらそこまでになるんだよジン、

弟子の異常な成長スピードに驚きを通り越してちょっとしたホラーを感じる。

テスも同じみたいで、『ははは』と乾いた笑いをしている。


「・・・であれば、その仁狼の弟子と言うのが居るなら大丈夫だろ。

 私達はのんびり滞在して待とうか、な、テス」

「いやぁ~・・・儂も長いこと色んな冒険者見てたけど、

 あの弟子っていうのは多分嘘だろうねぇ。

 オーラって言うの?気迫が無いよね、でも態度がデカいから

 町の人は皆辟易としてるよぉ」


ほーらやっぱりそういうパターンかぁ。

と、予想が的中してしまった私も辟易としてしまう。

あぁいう奴等は散々人の名前を使って良い思いをして、

いざ求められたらすぐに逃げ出し、姿を隠してほとぼりが冷めれば

何事もなかったように一般人に戻る、

最悪な奴は別の有名人の弟子だの関係者だのまた名乗るんだ、分かる分かる。


ジンの名誉の為に、この嘘吐き野郎をしばき倒したい気持ちはあるが

ジンには悪いが、小事の前に片付けないといけない大事がある。


「報酬がなくても構わない、街道の魔物がゴブリンだったら

 最悪、町が滅ぶことも覚悟せねばならないからな」

「・・・はい?」


職員が目を丸くして私の言葉を聞き返す、

仕方ないと理解している、ゴブリンなんて弱くて、頭も悪い、

群れを成したとして、人の立ち寄らない洞窟などに隠れて

時折村を襲って家畜や食料を奪って糧を得る、そんな生き物だ。


では何故、そんな弱小者が『街道を占領する』?


気が狂ったか、死を恐れない勇敢なゴブリンか、そんな訳がない、

奴等は常に死を恐れている、馬鹿だが狂ってる訳じゃない。

そういう奴等が目立つ行動を取るのは、決まって1つの要因があるからだ。



「この町が狙われている、ロードか、あるいは相当する者が率いているはずだ」

 
















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