第41話 1つ目の町に向かって

澄み渡る雲一つ無い青い空、絶好の旅日和。

南の正門には今日も多くの馬車、人が行き交う、

私達はその中から、目的地へ向かう馬車を探さなければならない。

目的地はこの首都から直線距離にして片道1週間程、

その間にはいくつかの村や小さな町があり、

とりあえずそこを転々としたら野宿の心配はないだろう。


「問題は馬車があるか、ですね」

「流石にこれだけ通ってるんだ、

 1つ2つくらい乗り合いの物があるんじゃないか?」


テスと一旦別れ、手当たり次第に御者に話しかけて行く、

すると丁度良く、目的地の手前まで向かう乗り合いを見つける事ができる。

既に旅人と冒険者乗っていて、私達2人を合わせて計6人が乗ることになる、

大きめの馬車で馬が2頭、恐らくもう少し乗れるように想定されているはずだが、

今日は客が少ないらしい、おかげで多少余裕もって座れるのは有難かった。


「やあ、君達は旅行かい?冒険者?」

「冒険者です、これから南西方面の村まで行くところです」

「そちらは・・・見るからに冒険者だな」


弓を背負った青年がこちらに声をかけてくる、

釣られように、青年と並んで座っている2人もこちらに視線を向ける、

片方は剣を携えた男、もう片方は杖を持った女性、青年の連れだろう。


「僕達はこの先の町までね、聞いてないかい?

 街道に魔物が出て商人や旅人が足止めされているらしい」

「・・・まじ?ならこの馬車は次の町で一旦止まるのか」

「だけどそれもすぐさ、聞くところによるとこの討伐に、

 あの『仁狼』の一番弟子が参加するって噂だからね」


ほう、ほうほうほう。

大変興味深い話に、私のラブリーキュートフォックスイヤーが過剰反応する。

どのみち、馬車は次の町で止まるのだから仕方ない、

ジンの弟子と名乗るその人物を一目拝む為に、魔物退治に参加しようじゃないか。


まぁそう言うが、どうせジンの強さに惚れ込んだ何某かが

勝手に名乗ってるパターンだろう、よく知っている、私もやられたから。


「ちなみに、魔物の情報などはどれくらい把握されてるのでしょうか」

「規模は分からないけど、見た人の証言では体表が緑色の小人だってさ。

 その特徴で街道を占拠する知恵を持つとしたら、ゴブリンだろうね。

 冒険者のランク適正としてスチール級だと思うけど、君達は?」

「私達は今日スチール級になった所だ、そちらは?」


私がそう聞くと、3人がそれぞれの冒険者証を見せて来る。

ブロンズ級であることを示す、銅色に輝くカードに目を通すと

弓師、僧侶、戦士のパーティーであることが分かった。


「ブロンズ級の僕らであれば、ゴブリン討伐は余裕だよ。

 君達も付いてくるなら止めはしないけど、

 自衛だけはちゃんとしてくれよ。」


こちらが格下と知ってか、その言葉に少し見下したものを感じる。

それは良い、事実であり、それを取り繕ったところでどうにもならない。


「・・・『そうだと良いけどな』、何はともあれ、頼りにさせて貰うよ先輩方」


私のこの言葉の意味を理解できるのは、きっとこの場ではテスだけだろう。



朝から出て、夕刻には何事もなく町に辿り着いた。

それなりの数の民家には全て明かりが灯り、

酒場や道中の露店には活気がある、

何処にでもある平和な町、しかしその一方で

近場の街道は魔物が占拠し、この町を占拠せんと画策しているのだ。


冒険者らしき人を少なからず見つけることが出来る、

ただ、その中の一体どれほどの人が、『この事態を重く受け止めているのだろうか』


「・・・言わなくて良かったんですか?」

「今はな、てか、言ってもあの様子じゃ鼻で笑われるだけだろうよ」

「そうですね、では一先ずは宿を取りましょう。

 これだけ活気のある町なら、それなりに良い宿もあるはずです」


テスの言う通り、宿はすぐ見つかった、

一般的な宿より少し高めだが、食事付きでベッドはかなり上等、

ここから見える町の景色は、明かりに照らされて中々に風情がある。


窓を開ければ、温暖な気候でも少し冷たい風が中に入る。

少し身震いしてしまう、この瞬間が私は好きで、

宿に泊まる度に癖のようにこれをやってしまうのだ。


私としてはこの宿にとても満足している、ただ1点を除けば、だが。


「じゃ、テス、私はこっちのソファで寝るから、お前はベッド使え、な?」

「何を言ってるんですか、我儘言わないでください」

「我儘言ってない、むしろこっちがとてもとても譲歩してるんだが」


天蓋付き、カーテン付き、2人寝るには十分過ぎる大きさのベッドが1つ。

そう、ベッド1つだけだ、2つではない、1つだ。

宿主からここしか空いてないよって言われて、じゃぁ別の探すかーって私は言った、

なのにテスが半ば強引にこの部屋を取ってしまったのだ。


「何を恥ずかしがってるんですか、ほら、明日に響きますよ」

「ちょ、やめろ、やめ、力強ッ、トロワの時と同じくらい強いッ!あー!」


普段見せない素早い動きで抱きしめる形で拘束され、

私は良い匂いと柔らかな感触に負け、布団の中に連れ込まれてしまう


「・・・ララァ様って、こんなにも力が弱いんですね」

「あかんあかんあかん、変な気起こそうとしてる奴の兆候だからそれ!」

「冗談ですよ、ララァ様が傷つくことは絶対にしませんから。

 あぁ、傷つくと言うのは身体的な物に限って、尊厳とかは別です」


私の尊厳を気にした事なんて今まであっただろうか、と言う疑問が浮かんだが、

ここまで来たらもう諦めるしかない、私の下心がそうさせてるのではなく、

テスはたまに、こんな感じで強情になる時がある、

こうなってしまっては、無理に抵抗せずにテスの気の済むようにさせた方が良い、


決して私の下心ではないことを、私は私に何度も言い聞かせる。


「ララァ様、暖かいです」

「・・・そうか」


私の背に感じる、テスの何か色々に上手く言葉を発せず、

唯一口から出た物が、なんとも素っ気ない返事だけだった。




 



 





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