第40話 遠征準備

ナナツボシを出て、私達はそのままギルドへ向かう事にした。

遠征がどれくらいかかるか、遠征の理由・・・

いや遠征の理由まで言ったら芋づる式に『今から犯罪やってきます』まで

喋らなければならない、どうするんだこれ、どう誤魔化して話せばいいんだ。

いっそ黙って行くか?いやいやそれこそ無い、ただの事件性のある夜逃げじゃないか


などと思考しながら歩いていれば、あっという間にギルドへ辿り着いていた。


「・・・どう説明したらいいんだ」

「聞かれたら答えるくらいでいいでしょう。

 最悪、ナナツボシの名前を出せば理解して貰えるかと・・・」


意を決して、ギルドの扉を開いて真っ先にミスティのもとへ行く、

しかしこちらの複雑な不安と裏腹に、ミスティはあっけらかんとしたものだった。


「あぁ、ナナツボシでしょ?話は聞いてるから、

 遠征中の家はギルドが責任もって管理するから心配しなくていいよー」

「・・・へ?」

「話って・・・私達がトロワから話を聞いたのはつい先ほどなのですが?」

「んー?こっちは昨日聞いたんだけど、ほらアレじゃない?

 『受けてくれるのは決まってるから先に根回しした』って言うアレ」


トロワ、あいつ、あの調子で何で受けてくれるって確信できるんだよ、

根回ししといて私達が断ってたらただただ恥ずかしい思いするだけだぞ。

・・・あぁ、だからあれだけ必死だったのかも知れないな、と私は納得した。


「ギルドが管理している家屋は全て合鍵持ってるから、

 遠征時の清掃からペットのお世話まで、ギルド及び、ギルドが契約する

 清掃業者や家事代行サービスが請け負う事になってるんだ。

 業者を依頼する時は費用はギルドが一旦負担して、

 報酬から天引きする事になるんだけど・・・」


そう言いながら、ミスティは机の引き出しから何か紙を取り出し、

得意気な顔をしながら私達に見せて来る。


『国家指定ハウスキーパー特級』と書かれた、所謂『資格証』と言う奴だった。


「この首都タナトスにおいて、取得率1%にも満たない伝説級の資格を持つ私が、

 特別に2人の家を管理してあげるから安心しなさい」

「1%未満の国家資格って・・・凄い事は分かるが、任せてしまっていいのか?」

「まぁ支部長から2人の担当を任されてるから気にしないで良いよ。

 趣味で取った資格だけど、まさか役に立つ日が来るとはねぇ」

「それであれば、安心してお任せして良いかと。

 ついでと言ってはなんですが、ララァ様の部屋は特に念入りに

 整理整頓して頂ければ助かります」

「あはは、了解。見られて困る物は予め片付けといてね」


見られて困る物、と言われてすぐに思いつくのは

昔討伐した体長20mの毒トカゲの牙とか、

ドラゴンの鱗とか、ミスリルゴーレムの核とか・・・

見たら驚かれそうな希少素材は帰ったらすぐ仕舞わなければならないだろう。


「・・・ララァ様、肌着もですよ」

「分かってるわい、ジンに任せてたのは身内だからであって、

 私にだってそれなりに恥じらいと常識くらいあるわ」

「っと、旅立つ前に、2人にはあれを渡しておかないとね」


ミスティが何か思い出したらしく、応接部屋を出て行った、

そんなに時間が掛からず、ミスティは戻って来る。

その彼女の手には、2枚のカードが握られていた。


「本当はもっと早くしたかったんだけど、制作に時間が掛かってさー。

 パラサイトグールに寄生された熊の討伐、下水での大ネズミ討伐、

 戦闘というストーン級の範疇外の功績を高く評価し、支部長公認のもと

 2人にはこれを渡して『スチール級』への昇格を証明します!」

「おー、つまりこれがあれば堂々と討伐依頼を受けれるんだな」

「って言っても、本来はパラサイトグールもスチール級は

 討伐難易度から受注はできないんだけどね。

 ま、どんな相手でも倒せそうなら倒してね、とだけ言っておくよ」

「分かりました、ではありがたく貰っていきますね」

「あぁ、お土産よろしくねー」


家の管理の約束を取り付け、新たなギルドカードを受け取った私達は

家に帰り、思いつく限りの遠征の準備を始める。

腐敗して困る食料品は今日の食事、そして明日の弁当にして使い切り、

路銀や医薬品の確認、部屋の掃除、とにかく思いついた事を、だ。


私達は昔から旅をすることに慣れ、1つの街に長期的に滞在したことがない。

不慣れで手間取りはしたが、私はこの時間が少し楽しいと思えていた。


「なんだか楽しそうですね、ララァ様」

「・・・幼い頃、父と共に遠くの山に狩りに行く事になってな、

 鞄にあれやこれやと詰め込み、明日の朝を楽しみにしていたものだ」

「なるほど、確かに次の街に向かう為に準備していた時の、

 皆と過ごす慌ただしい時間、私も楽しいと感じていましたが・・・」


お互い背を向け、せっせと鞄に荷物を詰め込む、

粗方終わり、達成感に浸っている所にテスの次の言葉が飛んでくる。


「まぁー・・・この旅の目的が『脱獄の手伝い』でなければ・・・」

「・・・言わないでくれ」







 




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