第29話 密かな2人の本音
「・・・冗談ですけど」
「あ、あ、あ、そうだよなぁ!冗談、冗談だよなぁ!そうだよな!」
「あれ、もしかして冗談じゃない方が良かったでしょうか?
ですがララァ様は大変寝相が悪いので布団でも良かったのですが、
この家の様式に倣って、大きいベッドを採用してみました」
「・・・う、うむ。なんか気を使わせてしまって、すまない」
「これぐらい問題ありません、ですが・・・」
テスが近づき、耳元で囁く
「ララァ様さえ良ければ、私はいつでも」
「な、何がぁ!?」
なんてことがあった朝は過ぎ、今は昼。
リビングのテーブルに向かい合って座り、私達は今後について話し合う。
話すべきことは多くある、だが時間も多くある、
今日はその中でも、特に決めるべきことだけを選ぶことにした。
「まず我々の今後だが・・・当初の目的は私が再び獣人族の神として戻るかどうか、
それを決めるという話だったが・・・。
正直なところ、今の人族の獣人族に対する歩み寄りを見れば、
むしろ私が戻ると昔みたいに戻ってややこしくなりそうな気がするんだが。」
昔みたいに戻る、というのは私が神を辞める前の話だ。
あの時は酷かった、獣人の誰もが『我々が人族を支配する』と言い、
私の言葉を一切聞かず、友である人族に対して侵略を始めた。
その再来が起こることも考えられる、だから私はすぐに答えを出せずに居た。
「可能性は十分にあります。ですから無理に答えを出す必要はないですし、
神に戻らないと行けない、とは思いません。
確かに、その提案をしたのは私ですが・・・、
本音を言いますと、私はララァ様とこうしたかった、それが目的でした」
「・・・そうか」
「・・・怒らないんですね、同族の境遇を引き合いに出して、
見限った世界にもう1度戻ってこい、そう私が言い出したのに」
「いや、むしろ感謝してるくらいだ。
テスが私を見つけてくれて、今日までずっと見捨てないでくれたんだ。
私の不甲斐なさを怒るべきはお前の方だし、
私もきっと、テスとこうしたかったんだと思う」
欲を言えばタナトスとゼルノア、エリアロフィも一緒だったら良かったんだが、
そんなことを茶化して付け足しながら、私は茶の入ったカップに口を付ける。
「しばらくは、ずっとかも知れないが、
神獣ライカじゃなくてララァとして、テスと一緒にこうして暮らしたいと思う。
だけど・・・もし、だ。私がまたライカに戻った時、
その時は・・・テスは私と一緒に居てくれるか?」
変わるつもりはなくとも、変わってしまうことがある、
変わらざるを得ないこともある。
我儘かも知れない、だけどこの関係だけは変わってほしくなかった。
「・・・その時は私も機神テスタに戻って、ずっと、貴方と居ますよ、ララァ様」
「そっか・・・、なんか申し訳ないし、恥ずかしいな。
私は昔も今も、ずっとテスに甘えている。」
「お互い様ですよ、ララァ様は気づいてないかも知れませんが、
私もずっと、ララァ様に甘やかして貰っていますから」
「うん、まぁ、テスがそういうならそうなんだろうな。
・・・よし、それじゃこの話はこれで終わりだ。
次は今後の冒険者稼業についてだ」
私とテス、2人にとってこれ以上の湿っぽい話は必要ないだろう、
もっと前向きな、今後の話をしなければならない。
懐から出した『石製の冒険者証』、これを早く鉄製・・・
いや、目指すなら行けるところまで行きたい。
「ロスウェルさんの紹介でかなり優遇されているとはいえ、
やはり実績を積まないとどうにもなりませんね」
「そうだなぁ・・・ミスティからストーン級の依頼は
自由に受けて良い、と言われているし、
とりあえずは報酬など気にせず、出来る事をやるか」
「あぁ、それについてミスティさんから頼まれていることがあります。
可能な限り、同階級帯の冒険者と組み、
また可能な限り、技術や知識を学ばせてほしい、とのことです」
可能な限り他の冒険者と組み、可能な限りノウハウを教える。
『可能な限り』を多用する辺り、こちらの都合を優先してくれている、
その上で頼まれているのだ、断る理由などない。
この首都には冒険者の養成学校があると聞いているが、
学校で学ぶ事と実践で学ぶ事では得られる経験は違うだろう。
となればギルドにとって私達のような立場の冒険者を、
上手く使いたいと思うのは当然で、理に適っている。
「分かった、では今からギルドに依頼でも見に行こうか」
「そういうと思って、すでに依頼を受けておきました。
集合は今から大体1時間後になるので、今の内に用意しましょう」
テスはやや誇らしそうな顔をしながら、一枚の紙をテーブルの上に置いた。
流石テスだ、常に先を見た行動、私は常々見習いたいと思ってる、
だが問題はそこからだ、
紙にでかでかと書かれた『下水道害獣討伐支援』という文字がどうしても目に入る。
「私達の服には、『臭気防止』と『自動修復』の付与があります。
これによって下水道の臭いや汚れとは無縁ですから、
私達にうってつけの依頼だと判断しました」
「本気か?まじか?本当か?」
確かにこんなのやりたがる奴はいない、対策のある私達にはうってつけだ、
そして報酬など気にせず、『出来る事をやるか』とも言った、
だが気分的に、絶対今やる奴ではない、と言わなければならない、
冒険から帰ってきて、新居にやってきて、わぁ、綺麗で立派な家だ、やったー。
じゃ、今から下水道に行きましょう。
いやそうはならんやろ
って言いたい、言いたいけど目の前に居るテスの
『私の采配に狂いはありません』と言わんばかりの得意顔を見てしまうと、
「あ、あぁ・・・あー・・・。
万が一下水育ちの魔物に噛まれでもしたら大変だからな、
解毒薬、買いに行こっか・・・、ね?」
今日も私は、テスを甘やかしている
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