第28話 我が家
魔獣の森から無事に帰って来た私はロスウェル達と別れた後、
すぐにギルドへ報告へ向かう。
思った以上に帰りの早い私にミスティは驚いていたが、
報告内容を聞くとあっさりと納得、というか信用してくれた。
「そう、ひとまずは霧の件は片付いたけど、
原因の精霊が森から出て行ったかまでは確信はないのね」
「だから、もし再び霧が発生した時は精霊族の者を
宥める役に向かわせるといいと思う」
「なるほどねぇ。・・・うーん、『精霊の家』かぁ。
確かかなり昔にも、呪物を相手に送り付けて呪い殺す、
ってやり方の事件が何件か頻繁に起きた時期があったかも」
まぁ、呪物と言ってもその効果や成功率などはピンキリだ。
風邪や怪我を促す物から、今回のように結果として人を殺せる物、
100%成功するものもあれば0%だってざらにある。
ちなみに『精霊の家』は成功率ほぼ100%、そして最悪の場合、人が死ぬ。
今回は結果として、行方不明者の自死であっただけで
効果としては『怖い物に化けて追いかけ回す』という悪戯程度だったと思う。
これを仕向けた者がどう思ってるのかは知らないが、
今回の件を一言で言えば『呪いという物は人の手に余る』、ということだ。
「うん、とりあえず今回の依頼は、この報告を以て完了ってことで!
お疲れ様、報酬は後で受付から受け取ってね」
「ありがとう、他に受けれる依頼などあるか?」
「あ、そうだね。その事で支部長とテスさんとで話したんだけどさ、
今後はテスさんとララァを私が担当して、やってほしいものがあれば
私から直接お願いすることに決まったんだ。
ほら、2人は今のランクよりもっと上でも通用するからさ、
でも依頼表に載ってるストーン級の依頼なら自由に受けて良いよ」
「ふむ、分かった。また後で見させてもらうよ。
とりあえず今の所は、テスが待ってるだろうし家に行こうと思う」
そう、魔獣の森へ向かう前はアルッセナから紹介してもらった住居に行かず、
テスに掃除など任せっきりにしてしまったのだ。
長い事留守をさせてしまって申し訳ないし、
何より私がテスの顔を見ないと落ち着かなくなっている。
いや別に深い意味ではなく、ずっと一緒に居た人が居ないと落ち着かないってことだ
「多分テスさんに連絡行ってるはずだから、そろそろ迎えが・・・」
ミスティの言葉を終わらせる前に、部屋のドアがノックされる音が聞こえる。
「ミスティさん、ララァ様の迎えにあがりました」
「丁度良かった、ギルド証はテスさんに預けてるから後はよろしくね。
特に用事なくても遊びに来ていいからね、待ってるよ」
ミスティに見送られながら、私は部屋を出る為にドアを開く。
そこに居たのは、ほんの数日会わなかっただけなのに懐かしさを感じてしまう顔、
当然ながら何も変わらないテスの姿がそこにあった
「おかえりなさいませ、ララァ様」
「あぁ、帰ったぞテス。私が居ない間何もなかったか?」
「そうですね、ララァ様が居ない間にこちらで日常品等揃えておきました。
頻繁に利用しそうな店をいくつか見つけてますので、
時間をとって一緒に見に行きましょう」
「うむ、とにかく家を早く見たいぞ、案内してくれ」
テスの手を引っ張り、ギルドを出て歩くこと数分。
想像では掘っ建て小屋より少しマシであれば良い、そう思っていた。
だが実際はなんということでしょう、
明らかに2人暮らし向きではない大きな2階建てのレンガ造り、
板瓦の屋根は見栄えが良く、煙突は勿論ついている。
そして驚いたのが、おまけで広めの庭と立派な井戸まで付いている事だ。
「これか?」
「これです。2階に4部屋あります、
1階のキッチンやリビング等、全ての部屋に必要な家具は一通り揃えてあります」
「・・・1人で掃除するの大変だったろ・・・いやそうでもないか」
「はい、この程度の掃除なら私の固有技で1部屋1分もかかりませんから」
テスが玄関の鍵を開け、私を家へと招き入れる。
今日からここが私とテスの家になるのか、
少し緊張しつつも、私は家の中へ入って行った。
「広ッ、これ4人か5人ぐらいで暮らすような家だろ!」
「私もそう思ってミスティさんに確認しましたが、
ここで間違いないそうです。
必要であれば、住み込みの家事手伝いを雇うのも良いかも知れませんね」
部屋の中は、例えるなら『そこそこの富裕層の家』と言えばイメージできるだろう。
一般の家なら1階の床は石材を敷き詰めるか、安ければ土を踏み固めるか。
だけどこの家は1階の床から木材、木には詳しくないが、
これほどの家なら丈夫で相当高い木材を使ってるのは間違いない。
土足でいいのか?靴を脱ぐべきか?
迷ったが、そもそも靴を脱ぐのは主に獣人族の一部の種の文化だった。
「相当高い家だろ、家具も大事に使っていかないとな・・・」
「いえ、家具類は置かれていた物もありましたが、
大半は買い揃えた物なので、好きに使ってください、
壊れても私なら直せますので。ではこちらが寝室になります」
「寝室か、私のか?テスのか?」
ギィ、と小さく軋む音をあげ、ドアが開かれる。
そこにあるのはベッドと、その両脇に備えられたサイドテーブルは
簡素な造りであるが、上品な意匠が際立つ一級品に見える。
そして特に目を引くのが、『2人が優に並んで寝れるほどの大きさのベッド』
「『私達の』です」
「ひゅッ・・・」
突然の不意打ちの青天の霹靂に、私は言葉を失った
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