第27話 涙の責任
「どうすんだよこれ」
一面が黒に染まった森の一部分を見て、私はロスウェルに問う
「そうっすね・・・、
多分配合量と比率をミスってるから、変える必要があるんすけど、
これはこれで即効性があって良いんで、別の素材を足すのもありっすね」
「そうか・・・いや違う違う違う違う、この焼け野原だよ」
「遺体は無事だと思うけどぉ、これって原因は解決したのかなぁ」
「きっと、な。あとそれについてだが、気になることが・・・」
私がそこまで言った時、背後から複数の人の駆け寄る音が聞こえる。
3人で振り向けば、目に入ったのは統一された鎧姿の騎士の小隊だった、
恐らく、首都の軍で周囲の哨戒任務に当たっていたか、
もしくはこの森に人が入らない為の監視でもしていたのだろう。
流石に真昼間くらいから森に高い火柱が上がっていれば、
嫌でも駆け付けなければならない訳だ、申し訳ない気持ちで一杯だよ。
「調査ご苦労様です、哨戒中に森が燃えてると聞き参じました。
責任者は・・・アッ・・・スゥ~・・・ロスウェル殿・・・でしたか」
隊長がロスウェルの顔を見るなり、
『あ、お前かぁ・・・』と言わんばかりに嫌な顔をしたが、
すぐに仕事をする真面目な顔に戻ったことについては誰も何も言わない。
騎士団にも『そういう奴』だと認識されている、
ロスウェル、こいつ叩けば埃が無限に塊で出るな。
「捜索していた行方不明者は死んでたよぉ。
それで、えーっと、ララァちゃんは何を言いかけてたんだろう」
「あぁ、その遺体の持ち物を調べたい。
騎士団員という丁度いい立会人も居るんだ、調べても構わないか?」
「む、うぅん・・何を調べるか知らんがまぁ・・・
アルカナのロスウェル殿も居るのだ、何か盗むなど疑うつもりはない」
ならば、と私が先導し、遺体のある場所へ向かう。
そこにはまぁ『奇跡的に』発見したままの遺体があった、
内心、何かがきっかけで火事に巻き込まれてたらどうしようとか思っていた。
遺体が持っていた鞄の中身を地面の上に広げる、
私はある物を探していた、できれば『見つからない方が良い物』だったのだが、
私の期待を裏切り、『それ』は見つかった。
「・・・はぁ・・・」
「ララァさんそれ何すか?押し花・・・っすか?」
私が見つけた物、それは『押し花』だった、もう1つ特徴があるのは、
それが枯れて、花の鮮やかさなど微塵もない、粗末な物であったことだ。
「精霊はそこら辺に居る、
中には草木や花、清流の中の小石、そよ風の中とかに宿る場合もある。
今はどういう名前か知らんが、昔の人はこれを『精霊の家』と呼んでいた。
そして、これを使ったシャレにならん
憎い相手に『精霊の家』を贈り、精霊にそいつを懲らしめてもらうんだ。
だけど精霊は手加減を知らん、極稀に贈られた者が死ぬこともあった。
・・・人にとっても巻き込まれる精霊にとっても、迷惑な話だよ」
「もしかして、今回の一件の根っこに、そういう事情があるってことっすか」
「あくまで可能性の1つだが・・・、同じ騎士団員なら、
この遺体の交友関係、トラブルを調べることもできるだろう?」
「可能だが・・・知らん冒険者に指図される謂れはないぞ」
「何言ってんだ、ララァさんは俺が推薦した冒険者だぞ。
この人の言う事は俺の言う事だ、文句言わずに絶対調べろ」
「う、む・・・承知しました」
渋々、と言った感じで隊長が了承する。
すまない助かった、と私はロスウェルに礼を言って、
手掛かりとなる押し花を隊長に預けることにした。
「話をまとめよう、今回の件は
行方不明となった騎士が何者かに『精霊の家』を贈られ、
不運にも厄介な精霊によって死んだ、と私は見ている。
だが精霊はロスウェルの放火に驚いて逃げ出したから、
今後はこの森で、今回のような霧が発生することはないだろう。
・・・これで問題なければ、この件はギルドに報告しようと思う」
「そうだねぇ、後の話は僕たちじゃなくて、騎士団の方で調べる事だもんね」
「じゃ、遺体についてはこのまま騎士団の方に任せて、俺達はこのまま帰るっすよ」
私達はお互いに納得し、荷物をまとめる為に馬車へと戻る。
だが、いくつかの謎が残ったままであることは事実だ、
『精霊の家』、それは見た目で言えば特別何か変わったところはない、
偶然手に入れた物がそうだった、ということは無くは無いが、
押し花などという実用性のない物を、騎士が、任務に持ち込むか?
であれば、誰かからの贈り物だとするのなら、
相手は『精霊の家』を知っているのか?どうやって手に入れたのか?
私が残した疑問を、騎士団が解決してくれることを信じるしかないか。
「いやぁー、さすがお頭が見つけた子だねぇ。
ララァちゃんのおかげであっという間に解決しちゃったよぉ」
「ほんとほんと、数日は調査するかと思ったんすけど、
到着して1日もかからなかったのは初めてじゃないっすかね」
「役に立てたなら良かったよ」
「僕もララァちゃんみたいに物知りだったらなぁー。
あれ・・・今日の僕って・・・」
オイグが黙って立ち止まる。
「あれ、僕・・・なんかずっと・・・、
デ、『デブはバケモノ』的なこと、言われてただけみたいな・・・。
ララァちゃんは幻覚に惑わされただけだから仕方ないのに、
あれ、何だろう涙が止まらないんだけど・・・、
お頭、この涙の理由を教えて・・・?」
「その言い方、なんかエモい感じの終わり方の奴なんすよ」
や、なんかほんと、ごめんね
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