第15話 情報量
私はロスウェルの事が気になっていた。
いや、好意の意味ではなく、先ほどのギルドカードの事だ。
冒険者にはいくつかの階級があるのは以前にジンに話したが、
トランプのカード程の大きさになるギルドカードに使われる素材は
そのランクによって変わる、
例えばストーン級であれば削り出された硬めの石材だし、
ゴールド級なら金、プラチナ級なら白金、
ダイヤモンド級ならダイヤ、ではなく非常に似た『ダイヤ晶石』が使われる。
では虹色に輝くギルドカードは何か?
それは『虹色輝石』と言うダイヤより希少性の高い石を使っている。
つまり、『マスター級』である証拠なのだ。
ロスウェルは『マスター級』、もしそうなら無名の旅人である私達に
態々協力を仰ぐ必要があるか?国が認める実力者であるならば、
もっと他に方法があるだろう、それこそギルドカードを見せれば
どんな人であれ、その冒険者に協力せざるを得ないだろう。
・・・おそらく、ロスウェルは自身の身分を隠している
「なぁロスウェル、お前ってもしかして有名人か?」
「えっ、なんでそう思うんすか?
・・・しかし流石見る目がある、俺、実は有名なんすよ。
吟遊詩人にも詩にされたくらいっすね」
やっぱりか、って言うか聞けば普通に答えてくれるのか。
まぁマスター級なんて簡単に隠し通せるものではないし当然か
「詩人に語られるなんて滅多にないことですよね、
どういう内容ですか?」
「あ、テスさんは知らないっすか?ほらあの・・・
『燃え盛る洋館に突撃してみた』って奴」
「え、ごめん、知らん知らん知らん知らん」
知らん、まじで知らん、なんだそのそれ、
どういう、どういうつもりの奴・・・?
どんな精神状態でそんなんしてんの・・・?
「あれ、これじゃないんすか?
そしたらあれか・・・俺、本出してるんすよ。
『歴史で学ぶ火炎瓶の作り方』とか、
『子供も安心して作れる火炎瓶集』とか」
「怖い怖い怖い怖い怖い、危険物作るのが趣味のただの不審者だろ」
「もしかして懸賞金が懸かってる・・・なんてありませんよね」
「いやいや!そんなことないっすよ!
マジで、英雄タナトスに誓って潔白っすよ!」
「むしろそれでなんで潔白で居られるんだよお前!
冒険者ギルドの管理体制どうなってんだよ!」
わーわー、ぎゃーぎゃー
周囲の目を引くほどに騒ぎながら歩き続けると
気が付けば件の洞窟の前まで来ていた
恐らく何かしらの方法で刳り貫かれた穴は大きく、
大の大人が20人程度、横並びになっても入れるくらいはあるだろうか。
そんな洞窟の前に、若い男が1人、こちらを訝しんだ目で見ていた
「あの、旅の方でしょうか。ここは危険なので戻られた方がよろしいかと」
「えーっと、村長さんの息子さんっすか?
俺は首都タナトスから依頼を受けてきた冒険者のもんっす」
「で、私達はその手助けをする者だ。
食堂の店主から、あんたを助けるように頼まれたのだが・・・」
私達がそう名乗ると、若い男が安堵の溜息を漏らした
「良かった、もう時間がなかったんです。
村長である父は今日の朝早くに村から逃げ出し、今は俺が村長です。
最悪、村長の責任として俺と残った村人達でこの問題を解決するつもりでした」
「・・・どうやら事態は深刻みたいですね、詳しく話してください」
「封印が解かれるのです・・・今日の満月の夜に、
大魔獣『ノンチャッチャ』が・・・」
「なんか可愛い名前してんなオイ」
現村長である男の思い詰めた顔から『ノンチャッチャ』とか言う
妙に響きが可愛い名前が出てきて、つい率直な感想が出てしまった。
しかしそれが村長のなんか、行けない部分に触れてしまったのだろう、
私の方へ振り向き、声を荒げる
「『ノンチャッチャ』はかつてこの一帯に災厄をもたらした危険な魔獣なのです!」
「お、おう・・・」
「遥か昔『ノンチャッチャ』がこの山を棲家にしていた時
この地を治めていた小国『ドッチャブリン』の国王『ドンボリース』が
自身が最も信頼する家臣『ノスバンリウス将軍』に命じて退治しようとしたが
『ノンチャッチャ』の『モッツンツン外皮』に剣も矢も効かず絶望していた所
大魔導士『ララポンポン』から賜りし聖なる槍『モモラピッキ』を使い
『ノンチャッチャ』の『モッツンツン外皮』を貫き致命傷を与え封印することに
成功したのだが封印に使った魔法陣『チョンピョンラ』が不完全だったことで
完全に封印できずやがて封印が解かれることは決まっていて
それが今日の満月の夜。
・・・ってことなんですよぉ!!!!」
「分からぁん!!!!!」
まるで土石流が如く一息で説明し、最後は怒鳴るような声を出す村長に
負けじと私も分からんと怒鳴り返す。
もう『ドッチャブリン』から先の説明が全く頭に入ってない、
ここに来るまでにロスウェルから『燃え盛る洋館に突撃してみた』とか
『火炎瓶講座』とか聞かされてるんだ。
これ以上なんかよくわからんワードを私に聞かせるな、今日はそういう日なのか、
私はテスと違ってそこまで頭が良くないんだ
「つまり長年封印されていた魔獣が今夜目覚めてしまうので
どうにかしてほしいということです」
「ありがとうテス!!!」
テスは頼りになる。
私が理解できないことはいつだってこうして
要点をまとめて教えてくれる、テスにとって何でもない事かも知れないが
これに私はいつも助かっていた。
そしてあれだけ長かったのに要点まとめたらこれぐらいしか残らないのか・・・
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