第14話 中腹の村
回想終わり、現在。
長く揺られ続けた馬車の旅も終わり、荷台からやっと降りることができた。
着いた場所は、首都の東にある山の中腹にある村だ、
ここから首都に向かう馬車を確保しなければならない。
「御者よ、これで足りるか?」
先ほど乗っていた馬車の主に運賃を支払う、
相場は分からないが1日程度の移動ならと、
テスの分と合わせて銅貨30枚渡してみた。
・・・金貨しか持ってなかったが、
ミナトの町の商人達に頼み、両替してもらってめっちゃ助かった。
御者は銅貨を一目見ると枚数を数えないまま財布に仕舞い込む、
その動作で、多めに渡してしまったのだと理解した、
相変わらず世間の金銭事情に疎いことに少し反省した
「さて、今の内に首都に向かう馬車を確保せねばならないが・・・」
「どうやらそれらしい物はありませんね、少し話を聞いてみましょう」
村の規模はそれなりに広いと思う
家屋が20戸ほどあり、内数戸はかなり大きい、恐らく酒場か宿のような
人が集まれる場所だろう、だが少しばかり違和感を感じた
「妙に活気がないように見えるが、どういうことだ」
外を出歩いている村人は数名程度、旅人については恐らく私達くらいだろう、
何らかの理由で大勢が家屋内に居るのかも知れない、
そう願い、私達は比較的大きな家屋に向かって歩いた
「・・・いらっしゃい、おや旅の人とは珍しい。こんな寂れた村に何か用事かい?」
家屋に入ると広い空間に長いテーブルと沢山の椅子が並んでいた
そして食べ物の良い香りを感じる事から予想通り、ここが食事処らしい。
厨房から出てきた恰幅の良い人間の男がそんなことを言いながら、
私達に近づいてきた
「村に用と言うか、首都に向かう為にこの村に立ち寄った感じだ」
「あぁー、なるほどねぇ。あいにく今日はもう馬車出ないよ」
「出ない?まだ昼前なのにですか?」
「出ないねぇ、昔はもっと馬車が通っていたんだが、
ちょっとしたトラブルでねぇ、村に人が立ち寄らないどころか、
村のもんも何人か出て行っちまったよ」
トラブルと聞いて私の美しく、そして可愛い耳がぴくぴくと反応する。
決して面白がってるわけではない、
何か困ってることがあるなら首を突っ込みたいだけだ、面白いから。
・・・じゃない、面白くない、うん、真剣なんだ。
「トラブルのせいで村人が去って旅人が立ち寄らないと・・・、
良ければ話を聞こうか」
「・・・あんたら冒険者かい?報酬は期待できないがそれでも良いなら、
この村の長の息子が、村の中にある洞窟近くに住んでいる。
そいつから話を聞いた方が良いだろうねぇ」
「冒険者ではないが、まぁ出来ることならなんとかしてみるさ」
食堂を出て、村の洞窟に向かおうとする
「まるで昔ながらの冒険の始まりみたいですね」
「あったな、酒場で噂話を聞いて見に行ったら途方もない大冒険になったり」
「町の富豪が飼ってた猫を探したら町の外の洞窟を住処にしていた
「あぁー。あれは依頼主にどう説明するか皆で一晩かけて悩んだっけ」
賢い
しかし相手がちょっと頭が良くないタイプだったので拗れてしまい、
タナトスが頭齧られたりゼルに猫耳の飾りをつけさせたり、
最終的にその辺で捕まえた美形っぽい猫を代わりに紹介することで
事なきを得た・・・得たのか分からないがそれで無理やり解決した。
「しかし人面虎の恋愛対象って猫だったんだな・・・。
顔が人間だし人の言葉も喋るから、人間かと思ってた」
「新しい発見でしたね。発見と言えば、
あの町で食べた料理、名前は分かりませんが面白い食感でしたね。
・・・お腹空いた気がします」
「お腹空いたかぁ、じゃ、戻るか」
食堂から出て10歩くらい歩き、踵を返して食堂に入る。
「おやまた来たのかい」
「一度出た店にすぐ戻るのってお互いなんか気まずいよね。分かるよ」
「あぁいや、別に邪険にする訳じゃなくてねぇ。
何か食べるなら用意するけど、日替わりで1人銅貨5枚ね」
銅貨10枚を支払い、パンとスープと葉野菜に包まった肉料理が乗った
プレートを受け取る。パンはお替わり可能らしい、テンション上がる。
「あのー、すんません。さっきここの親父さんと話してた人っすよね」
私達がテーブルについたのを見計らったようなタイミングで男が話しかけてくる。
見た目は軽装の鎧にフードを被り、布製のマスクで口を覆っている、
顔がほとんど見えない不審者ではあるが、
身に着けている防具の組み合わせから冒険者、恐らく『斥候』に属する者だろう。
『盗賊』『暗殺者』も一応冒険者に適した職種と定義されているが、
その殆どが懸賞金がかかるお尋ね者だ、そんなのが態々声をかけてくることはない。
気になるのは男が腰に下げているボウガン
一般的なボウガンの形状はしているものの、明らかにサイズが小さい。
両手で持つ方が難しいほどのコンパクトサイズ、片手サイズ、
これを使って撃ち出せるのは精々ダーツくらいだろう。
「俺、名前は『ロスウェル・クルー』っつーんすけど、
実は俺、首都タナトスで依頼を受けてこの村に来た冒険者でぇ・・・」
ロスウェルと名乗る男が自己紹介を始める。
依頼を受けてきた冒険者、という言葉で私はおおよその事情を理解する。
「私はララァ、こっちはテス。冒険者になる為に首都に向かっている旅人だ」
「おぉー、それならとても都合がいいっす」
「都合がいい・・・とはどういうことでしょうか」
「俺は依頼でこの村に封印されてるっていう魔物の調査に来たんすけど、
昨日村長と話したんすけど、俺が冒険者ってだけで
すっげー警戒されちまいまして・・・、
ほら、他所もんが入って封印が解けたら、みたいな?」
「なるほど、村長は外部の人を嫌うから、
店主は村長の息子さんを薦めたのですね」
「それで、要するにまだ顔を知られてないだろう私達と協力して調査したいと」
「先にその話聞けたら良かったんすけどねー・・・。
そういうわけで、どっすか?もし助けてくれたら、
ギルドに俺から口利きするっすよ、俺、顔利くんで」
テスと顔を見合わせて小声で相談する。
この男、ロスウェルが果たして信用に足る者かは定かではないが、
私達の世話焼きとロスウェルの依頼、その行く末が同じならば、
別に協力するのはやぶさかではない。
「元々報酬を頂けると思ってなかったのですから、
ギルドに口利きしてもらえるのであれば、とても良い条件かと」
「だな、そういう訳だロスウェル、短い間だがよろしく頼む」
「いやぁ、こちらこそよろしくっすよ、ララァさんにテスさん」
握手を交わし、一時的な協力関係を築く。
・・・その時チラッと見えた物、
腰に下げた、昔と形が変わらないギルドカード、
冒険者としての身分証として使われるドッグタグに似たそれは
『虹色』に光っていた
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