第25話 幼馴染という関係性

「お、俺と理代は、幼馴染なんだ」


 俺は理代との関係性ついて正直に話した。

 

 それを聞いた久須美と椎川は──


「お、幼馴染っ!?」


「私たちと一緒なんだね!」


 と、驚きまじりに告げる。


 ん……?


「一緒……ってどういうことだ?」


 俺は椎川の発言が理解出来ず、率直に訊ねる。


「実は、私と桃乃ちゃんも幼馴染なんだ」


「ちーっちゃい頃から仲良くしてきたんだよん」


「そうだったのか……」


 まさか俺たちのように、久須美と椎川も幼少期から仲良かったとは。


 二人は仲が良いとは思っていたが、長い年月で積み重ねられた深い絆がそこにはあったようだ。


「それで、幼馴染以上の関係性ではないのかな? お弁当も作って貰っているのに」


「あ、お弁当って……そういうことか!」


 椎川の疑いの眼差しに、ワンテンポ遅れてお弁当の意味を理解した久須美。


 そして、


「あ、あのえっと……」


 理代がどもりながら、ゆっくり話し始める。


「わたしが、た……幸田くんの、お弁当を作りたいって言ったの。その、購買じゃ栄養とか心配だし、お金もかかるから。あと、毎日自分のお弁当作ってるから、そのついでだからそんな苦じゃないし、いいかなって……」


 理代にしては珍しく、長々とした説明だった。


 ちゃんと伝わったかどうか不安なようで、話し終えた後も弱々しく二人を見つめている。

 

「幸田クン、ちょーっとお耳貸してごらーん?」


「急になんだ?」


 久須美が怪しげな語り口で俺を誘う。

 一瞬拒否するか迷ったが、何を言うのか気になるため、受け入れる。


「こんな気遣ってくれる人、他にいないって。お嫁に貰っちゃいなよっ」


「ちょっ」

 

 久須美のヒソヒソ声に、俺は慌てたように声を上げる。


 近頃、理代の変化に影響されていることもあって、明らかに動揺している態度を見せてしまう。


「いたずら好きの桃乃ちゃんー? 何を吹き込んでいるのかなー?」


 俺の声や態度に反応してか、椎川が久須美に見咎めるような眼差しを向けた。

 

「やっばい、茜怒ってる。こわいこわい」


「怒ってなんかいないから、すこーしこっち来ようか?」


「ひぇっ!」

 

 椎川の笑顔(?)は笑っているはずなのに、どことなく恐怖が漂っている。


「あ、あの、茜ちゃん、その辺にしておいたほうがいいんじゃないかなと……」

 

 理代がおずおずといった様子で口を挟んだ。


「確かにそうだね。このままだと話進まないもんね」


 椎川が元の笑顔に戻った。

 先ほどの笑顔と何が違うのか、うまく説明出来ないが、何かが違う。オーラだろうか。


「話を戻してー、さっきアタシと幸田クンが偶然鉢合わせたのは一体なんだったん?」

 

 そこに話が戻るのか。

 俺は軽く息を吐いて告げる。


「あれは、小腹が空いてコンビニ行こうと思って家から出たら、久須美さんとばったり出くわしたんだ」


 説明が足りなかったのでもう少し付け加える。


「……ちなみに俺の家は、理代の家の隣だ」


「「となりー!?」」

 

 久須美と椎川の声がシンクロした。

 今日は二人ともシンクロしてばかりな気がする。幼馴染だからだろうか。


「もしかして窓から見えるんじゃない?」


「あ、見えるよ……」

 

 理代が立ち上がり、ピンクのカーテンを開ける。

 窓の先には赤い屋根の家が見えた。


「あの家?」


「そうだ」

 

 赤い屋根の家が、俺の家だ。


 二階が俺の部屋で、ちょうど見えている側に窓がある。

 たまに窓越しにやりとりすることもあるくらい近い。


「なーるほどねぇ。それで? 今まで隠していたのはなんで?」


「……話すタイミングがわからなかったんだ」


「私たちが仲良くなったきっかけを振り返ると、確かに難しい……かも?」

 

 俺が二人と仲良くなったのは椎川とロボットの話で盛り上がったことがきっかけだろう。

 一方で理代はくましおを落とした翌日に謝罪をしたことがきっかけだった。

 

 最初に理代が二人と仲良くなり、そこへ俺が入ってきた形である。

 仲良くないはずの俺たちが、実は仲が良いなんて明かしづらくもなる。


「そのままズルズルと来ちゃったってわけね」


「でもそうなると、なんで二人は教室では他人のように振舞っていたのか気になるところかな」


「あーそれは、」


 このことは理代の問題が絡んでくるため、俺は隣へ目配せした。


 すると、理代は自分が話すとでも言いたげに頷く。

 俺も頷き返し、理代の言葉を待った。

 

「わ、わたしが、幸田くんにお願いしたの。幸田くんと話す時はその、スラスラと話せるんだけれど、他の人と話す時はうまく話せないから、それで、変な目で見られるのが怖くて」


「なるほどねぇ」

 

「あの、その、ごめんなさい! ずっと黙ってて」


 ずっと黙っていたことに罪悪感を覚えていたのか、理代は頭を下げた。


「別に謝らなくても大丈夫だよ」

 

「気にしなくていいって。アタシたちも幼馴染だって言ってなかったし」

 

 椎川も久須美も、理代の謝罪を優しく受け止める。

 

「これにて一件落着だねー」


「最初、久須美さんと出会った時はどうなるかと思ったよ」

 

 あの時ばったり出会った時は、まさかこんなまるくおさまるとは思わなかった。

 ヒヤヒヤとした気持ちを抱えたまま、長い時を過ごすのだと不安に感じていた。

 

「あはは。事情を聞いてからだとよりやばさが伝わってくるね」

 

「一つ、提案をしていいかな?」


 不意に、椎川が手を上げた。

 俺たちは何事だろうかと話を聞く。

 

「よかったらなんだけど、この地域のこと、幸田くんと理代ちゃんは詳しいだろうから、あとで教えて欲しいな」

 

 俺と理代の住むこの地域は、学校からやや遠い。


 特に大型の商業施設があるわけでもないし、あまりこちらに来る機会はないだろう。


 だから椎川にとっては馴染みが薄いはずだ。もちろん久須美も。

 

「おーナイスアイデア! なんなら週末遊びに行こうよ。今度は剣村クンも誘ってさ」

 

「それ、いいな」

 

「楽しそう……!」

 

 椎川の意見に賛同し、俺たちは周辺に何があるのか語り合いながら、楽しくお菓子を食べるのだった。

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