第20話 幼馴染は着せ替え人形と化す

〈理代視点〉


 髪を切り終えたら、昼食の時間になった。

 

 店は茜ちゃんが選んでくれていたようで、近くの飲食店にみんなで入る。

 

 美味しそうな香りが、空腹を刺激する。


 店員さんに案内され、席につくと、メニュー表をじーっと見つめた。

 

 ハンバーグ、パスタ、カレーライス。

 あれも、それも、美味しそう……!

 

 どれにしようかな。すごく悩む……。

 

「悩んでるねぇ」

 

「はっ!」

 

 わたしはメニュー表を独り占めしていたことに気づいた。咄嗟に謝ろうとするが、


「ずっと見ていて大丈夫だよ。私たちはさっき理代ちゃんが髪を切っている間に、メニュー選びをしてたから」

 

「そ、そうだったんだ」

 

「迷うなら交換でもしようよ。ちなみにアタシはうどんにしようかなと思ってるとこ」

 

「私はカルボナーラかな」

 

 それなら、と安心して再び食い入るようにメニューと向き合う。

 

 私は食に対する熱意が人一倍強い……と思う。

 

 できるだけ美味しいものを作りたいし、美味しいものを食べたい。

 美味しいものと一括りに言っても、その時その時で食べたい物は変わる。

 そのタイミングで一番美味しく食べられるであろう物を選びたい。

 

 わたしは深く悩んだ末にハンバーグにした。

 お店のハンバーグって肉汁たっぷりで美味しいからなぁ。

 そんな想像をしていたらハンバーグがすごく食べたくなってきてしまった。

 

 しばらく雑談をしていると、料理が運ばれてきた。

 

 桃乃ちゃんは天ぷらうどん、茜ちゃんはカルボナーラ、わたしはチーズインハンバーグ。

 せっかくハンバーグにするならチーズも加えてという作戦だ。

 

 ナイフとフォークを使ってハンバーグを切り分け、口に運ぶ。

 

 一口噛めば、旨みたっぷりな熱々の肉汁とチーズが溢れ出す。

 

 お、おいしい……!

 

 そこへ別途注文したライスを加える。

 

 ご飯とハンバーグが絶妙に混ざり合って、最高のハーモニーを生み出している。

 

「理代チャンめっちゃ美味しそうに食べるねー!」

 

「……っ!」

 

 美味しさで頬がゆるゆるになっていたかもしれない。恥ずかしい。

 

 でもハンバーグをもう一口食べるとまた頬が緩んだ気がした。

 

 美味しくてほっぺたが落ちそう……。

 

 

 料理の分け合いもした。

 

 桃乃ちゃんのうどんは、出汁が効いていてとっても美味しかった。

 

 茜ちゃんのカルボナーラは、チーズが濃厚で幸せな気持ちになったのだった。

 

 * * *


 昼食後はデパートの洋服屋へ向かった。

 

 店内をぐるぐる見て回ると、明るくておしゃれな服がたくさん置いてあって、わたしに似合う服があるのか不安になる。

 

 普段着ているのはもっと地味な感じのものなので、こんな陽っぽい服着たことなんてない。

 

 桃乃ちゃんと茜ちゃんに誘導されて、試着室へやってきた。

 既に二人とも道すがら服を手にしており、わたしにひょいと渡す。

 

「他にも似合う服がないか探してくるから、その間に着替えてて。きっと抜群に可愛くなると思うよ!」


「は、はいっ」

 

 わたしは試着室に入って、今着ている服を脱いで、まずは桃乃ちゃんに渡された服に袖を通す。

 ゆったりしたシルエットでパステルカラーの服、下は淡い色のキュロットだ。長さは膝より少し上くらい。

 

 カーテンを開ける前に、試着室内にある大きな鏡で自分の姿を確認する。

 

 わたしは足を出すのが苦手だ。足を出すのってなんだか恥ずかしいし。

 

 制服は膝丈スカートだけれど、ハイソックスの靴下を合わせるようにしている。

 

 今日の靴下はくるぶしまでしかない。だから白い足が眩しく見えていた。ちょっとスースーする気がする。


 でも、可愛い……かも。

 

 一呼吸置いてからカーテンを捲った。

 近くに桃乃ちゃんと茜ちゃんがいた。

 

「おおおっ! めっちゃいいじゃん!」

 

「理代ちゃん的にはどう? サイズとか着心地とか」

 

「だ、大丈夫です。ただちょっと足を出すのに慣れていないので恥ずかしくて……」

 

「いずれ慣れるよ。もし嫌だったら遠慮なく言ってね」

 

「あ、はい」

 

「じゃあ次はこの服を……」

 

 再び二人から洋服を渡される。

 さっき茜ちゃんから渡された服もまだ着ていないので、着るものがいっぱいだ。

 

 テンポよく着替えていかなきゃ!

 

 今度は薄手のブラウスにスリットの入った灰色のロングスカート。

 足があんまり出ないからこういうのいいかも。

 

 着てみるとちょっと大人っぽく見える。


 美容院でセットしてもらった髪型も合わさって、別人みたい。

 

 髪型と服って大切なんだなと思わせてくれる。

 

 桃乃ちゃんと茜ちゃんからの評価は上々。

 わたしもこの服は気に入ったので購入しようかな。

 

 

 次々に持ち運ばれる服を変わる変わる着替えていくうちに、変な服が混ざっていることに気づいた。

 

 メイド……服?

 

 黒と白を基調としたエプロン調のワンピースはどこからどう見てもメイド服だった。

 

 メイド服なんて売ってるんだ!? という衝撃はさておき、わたしはこれを着なくてはいけないのだろうか。

 

 さすがにメイド服は恥ずかしい。

 でも今は手元に他の服がない。

 せっかく選んでくれたんだし、着なきゃ申し訳ないよね。

 

 わたしはメイド服におそるおそる袖を通した。

 

 着てみると思ったよりも様になっている。コスプレしてるみたいだ。みたいというかコスプレだ。


 くるりと回ってみると、ワンピースの裾がふわりと広がる。

 

 可愛いなぁ、メイド服。

 

 カーテンを開けて二人に見せると、

 

「か、かわいいっ! かわいすぎる!」

 

「理代ちゃん、これも着て!」

 

 と絶賛のコメントに加え、次なる服を渡された。

 

 今度は巫女装束だった。

 

 巫女服も置いてあるの!?

 この店一体どうなってるの!


 この服買う人いるのかな? いやでもいるから置いてあるのか……と謎に考えてしまう。


 巫女服も着てみるとすごい巫女っぽくなった。神社にいたら巫女だと思われそうだ。


 カーテンを開けると、


「最高だよ理代チャン! つ、次はこれを!」


「これも着て欲しいな! きっと似合うから」


 桃乃ちゃんも茜ちゃんもコスプレ服を手渡してきた。

 当初の目的どこ行ったの……!?


 しかも二人とも、ものすごく熱量が籠ってる!

 何かに目覚めた? スイッチが入った?

 

 え、ちょっと怖い。

 

 その後も、あらゆるコスプレ服を着せられて、わたしは何着か購入して店を出たのだった。

 

 もちろんコスプレ服は購入していない。

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