第16話 幼馴染と遊園地③

 お化け屋敷の悲劇(?)を終え、お昼の時間となった。

 昼食は園内にある売店で済ませることになり、各々好きな食べ物を買って運んでいく。

 

 屋外のテーブルを二つ使い、和気あいあいと食べ進める。

 

「ロコモコ丼うんまぁ~」

 

「これ食べ終わったら、クレープ食べようよー」

 

「このバーガー、なかなかボリュームあるんだなあ」


 晴天の下、穏やかな昼のひと時を過ごす。

 軽く食べたいなと肉厚なバーガーを選んだのだが、思ったよりも腹にたまる。


「お、あっちにスタンプラリーあるんだって。昼休憩がてらどーお?」


「や、やりたい……」


「おおー理代チャンやろうやろう!」


「私も参加したいなー!」


 そんな女子たちの声が横のテーブルから聞こえてくる。スタンプラリーか……。


「俺たちもやるか」


「どっちが早くコンプリートできるか勝負するってのはどうだ?」


 剣村が不敵な笑みを浮かべる。


「三対二だけどいいのー?」


「問題ないだろ。先手必勝さあ行くか!」


「ちょっとまてまだ食い終わってねえよ!」


 剣村は俺を置いてスタンプラリーの紙を貰いに行ってしまった。

 

 俺はペースをあげて食べ終え、急いで彼の後を追うのだった。

 

 * * *


〈理代視点〉


「はっや、もう行っちゃったよ」


 桃乃ちゃんが呆れ交じりにそう言った。


「私たちはクレープ食べてからいこっか」


「(コクコク)」


 わたしは茜ちゃんの意見に頷く。


「理代チャン理代チャン」


 ちょんちょんとわたしの肩をつついてくる桃乃ちゃん。

 少しくすぐったい。どうしたのだろう。


「遊園地……楽しんでる?」


 不安げに訊く桃乃ちゃんの言葉に、わたしはこくんと頷いた。


「その、小さい頃にしか来たことなかったので……。久しぶりに来て、キラキラしてて非日常みたいな感じて……心がワクワクしてます」


 遊園地に入ってから数時間が経つ今も、夢みたいでどこかふわふわとしている。

 

 わたしに友達が出来て、一緒に遊園地に行って。

 

 こんな楽しい出来事が起こるなんてつい数日前まで思ってもみなかった。


 遊園地にあるいろんな乗り物や美味しそうな食べ物、ちょっとした装飾などがどれも輝いていて、儚い幻を見ているような心地。

 でも幻なんかじゃなくて、どれもちゃんと現実に存在している。そのことが不思議な感じ。


「おおーワクワクね。いいねえ! スタンプラリーしながら園内をぐるりとまわることになるだろうから、乗りたいアトラクションあったら遠慮なく言ってー?」


「あ、コーヒーカップに……乗りたいです」


 コーヒーカップならジェットコースターと違ってそこまで怖くない。

 みんなでハンドルを持って回せるから、きっと楽しいはず。

 期待に胸を躍らせていると、桃乃ちゃんが怖いことを言った。


「おーけー! 全力で回して異次元の回転を体験させちゃうよー」


「!?」


「あんまりやりすぎないでね?」


 わたしの顔が強張っていたのか、茜ちゃんが桃乃ちゃんの行動を阻止する。


「はーい。じゃあ最初はゆっくりで、大丈夫そうだったら思いっきり回すかー」


 ちょっと怖いけれど、やっぱり楽しそうだなと思った。


 * * *

 

〈多久視点〉


「おっ、あれは!」


「三個目のスタンプだな」


 俺たちは園内にあるスタンプが設置されている場所を次々と回っていた。

 

 スタンプの場所は謎を解かないとわからない仕様となっている。

 

 しかし解いてもおおよその位置しか把握できないため、難易度はまあまあ高かった。

 

 移動時間よりも謎を解く方に時間がかかる。理代たちよりも先に出発したが、人数の多い向こうが有利かもしれない。

 三人寄れば文殊の知恵とも言うしな。


「これで半分か」


 スタンプは全部で六つ。


 全て集めると何かプレゼントが貰えるらしい。

 プレゼントが欲しいわけではないが、ただ謎を解いてスタンプを探し出すのが楽しかった。一つ解くごとに達成感が味わえる。


「さて、次のスタンプの場所だが……これはなぞなぞか?」


「だろうな……地味に難しいな」


 頭を悩ませながら二人で考えていく。

 もしかすると理代たちの方が先に始めた俺たちより早く終わるかもしれない……と思いながら、俺はなぞなぞと向き合うのだった。


 * * *


〈理代視点〉


 お昼を食べ終えて、スタンプラリーの紙を手に入れた。

 

 どうやら謎解きをしながら進めていくみたい。クロスワードやなぞなぞ、クイズなど色々な問題が載っている。

 

 近くにあった売店でクレープを購入し、食べながらみんなで謎を紐解いていく。


「これは……答えが『みずのそば』になるね」


「ということは、噴水の近く? あったっけ……スタンプ台なんて」


「えーと、ちょっと離れたところに……それっぽいものが置いてあった、気がするような……」


「お、理代チャンナイス! じゃあ一つは噴水のところ確定だね」


「こっちのなぞなぞは難しいね」


「えっと、多分、答えが『おばけ』だから……お化け屋敷の近く……かも」


「理代ちゃんすごいね。この調子で食べながら全問解けちゃうかも」


 謎解きは得意だ。

 黙々と一人で考えたり作業したりするのが好きだから。


 茜ちゃんも桃乃ちゃんもわたしを褒めてくれるけれど、こういったことに慣れていないから、頬の緩みが抑えきれない。

 

 変な表情にならないよう、表情筋に力をいれなきゃ。


「こっちのクロスワードは……『かんらんしゃ』?」


「はっや……って解くのに夢中でクレープほぼ減ってない!」


「あ……」


「せっかくだし、一口交換しない?」


「理代チャン、そういうの大丈夫なタイプ?」


「は、はい!」


 ぱくり、と桃乃ちゃんと茜ちゃんのクレープをそれぞれ食べる。

 

 桃乃ちゃんの方はイチゴとブルーベリーのクレープで甘酸っぱかった。

 

 茜ちゃんの方はバニラとかチョコが入っていてすごく甘くて冷たかった。


「どっちも美味しい……」


 クレープの甘さで多幸感に包まれる。

 きっと今のわたし、頬が緩みきってる……。


「私もいただきまーす」


「アタシも!」


 そんな感じでクレープを交換し合いながら謎解きを楽しんだ。

 



 その後、コーヒーカップ乗り場へやってきた。

 運よく、ほとんど待たずに乗ることが出来た。

 カップの内側に座り、ハンドルに手を添える。


「あ、ああの最初はゆっくりで」


「おけおけ。わかってるって」


 みんなでぐるっと回してくるくる回転するカップ。他のカップと比べてスピードは遅いけれど、回っているだけで充分楽しい。


「も、もっとスピードあげても平気です」


「楽しそうだね、理代ちゃん」


「わ……わたし……笑ってます?」


「うん、めっちゃ笑顔だよ」


 面と向かってそう言われると恥ずかしい。

 顔が赤くなっていないか不安になる。

 

 顔を隠したくなって俯きかけるが、これじゃだめだと気づいて顔を上げる。

 わたしは仲良くしてくれる二人としっかり向き合いたい。

 だから、隠れたりせず堂々としたいんだ。


「よーし! じゃあスピードあーっぷ!」


 思いっきり力をこめて回し始める桃乃ちゃん。

 カップが、さっきよりもずっと早く回転する。


 身体が飛ばされそうな感覚が襲ってくる。

 恐怖で声が出そうだけれど、口を閉じて頑張って堪える。

 

 怖い部分もあるけど、楽しいかも。

 恐怖が楽しいというのはこういう感覚なのかな……?


「もーっといっちゃうよー!」


「……へ?」


 さらにぐるんぐるん回していく。

 身体が浮き上がりそうで、ハンドルにしがみつく。

 

「ひやああぁぁっ!?」


 閉じていた口がいつの間にか開いてて、情けない声が漏れる。


 桃乃ちゃんが「あ、やべ」と言って、回す手を止めたが、速度は落ちてこない。


 茜ちゃんが、わたしの気持ちを汲み取って、身体を支えてくれる。


 そのままコーヒーカップはしばらくの間、高速回転し続けたのであった。


「ご、ごめん……ちょっとやりすぎた」


「だだだ大丈夫なので……そこまで心配しないで、ください」


 微かにふらつく身体。

 よろけないようバランスを取りながら、わたしは話す。


「ちょっと一息つきたいね。……観覧車でも乗る?」


「は、はいっ」


 コーヒーカップからそう離れていないところに観覧車があった。

 

 向かおうとしたところで、私は二人が忘れていそうなことを切り出す。


「あの、スタンプ……」


「ハッ、完全に忘れてた!」


 観覧車の横らへんにスタンプ台が置かれていた。

 先にそこへ行き、スタンプをポンっと押す。

 それから、みんなで観覧車へ乗り込んだ。


「いい景色だねー」


 周辺の景色が一望できる観覧車は、外を見ていると心が落ち着く。

 

 園内のアトラクションがたくさん目に入る。

 ジェットコースターにお化け屋敷、さっき乗ったコーヒーカップ。他にも色々。


 この視界のどこかに、たーくんもいるのかな。

 いたとしても小さいからわからないかもだけど。


 視線を観覧車内に移すと、桃乃ちゃんと茜ちゃんが目に入る。

 

 友達と遊ぶのって、楽しいな。

 

 胸が今でもじんわりと熱くて、気持ちが昂っているんだなとわかる。

 

 今日のことは、わたしの大切な思い出として、心に深く刻み込まれていた。


「三人で写真撮ろうか」


 茜ちゃんの言葉に促され、撮影のポーズを撮る。カシャリとシャッター音が鳴る。

 

 入園時に撮った写真より、上手く笑えた気がした。


「わたし……今日のこと、絶対忘れません」


「ど、どしたの理代チャン」


 突拍子もなくわたしがそんなことを言ったので、桃乃ちゃんが困惑していた。


「わたし、ずっとぼっちだったんです。その……基本一人で行動することが多くて……だから、みんなでこうして遊んだりすることに、憧れてたんです」


 ためこんでいた心情を吐露していく。

 思いのままに話しているから、きっと言葉が変になっている。


 けれど、それでもよかった。


 今はこの気持ちを、ありのまま二人に伝えたかったから。


「なので、その……ありがとう、ございます。こんなわたしと友達になってくれて。楽しませてくれて」


「自分のことこんなとか言わないの! 理代チャンは優しくていい人じゃんかー」


「理代ちゃんみたいに思慮深い人、なかなかいないと思うな。私たちの方こそ、友達になってくれてありがとうだよ」


「桃乃ちゃん、茜ちゃん……」


 二人はにこりと温かい笑みをわたしに向けてくる。

 

 気持ちがとめどなく心から溢れてくる。


 それは止まらず涙となって、わたしの目から零れ落ちた。


「……ありがとうっ」


 泣きながら笑って、わたしは二人に感謝の気持ちを告げたのだった。


 * * *


 観覧車から降りて、最後のスタンプ設置場所へと向かう。


 スタンプをポンと押して、景品を貰いに行った。


 景品交換はスタンプラリーの紙を配っている場所で、コンプリートした台紙を見せると貰うことが出来るみたい。

 

 景品は、この遊園地で売っているポップコーンが一つ無料になる券だった。


 三人でポップコーン売り場の列に並びながら、桃乃ちゃんがグループチャットにクリアしたことを報告する。


 すぐに、剣村くんからメッセージが返ってきた。たーくんたちのグループはどうやらあと一つだったみたい。

 

 順番が来て、引換券と交換にわたしたちはポップコーンを手にした。


「うまぁ~」


「なんだか、その……達成感が、あるね」


「美味しいねー」


 ポップコーンはサクっとした触感でしょっぱさがとっても癖になる。


 結構ボリュームがあったけれど、三人で分け合うとすぐになくなってしまった。

 

 でも、分け合って食べた思い出は、わたしの記憶に鮮やかに残った。

 

 大切な感情とともに。

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