第13話 幼馴染はダラダラしたい

 いつも通り帰宅して、まったりしていた日のこと。


 理代が手足を伸ばし、部屋の床に寝転んでいた。


「疲れた……」

 

「何に疲れたんだ?」


 今日は何か特別なことがあったわけではない。

 当たり前のような毎日が滞りなく進んでいっただけだ。

 

 体育もなかったし、一体何で疲弊していたのだろう。


「今日じゃなくて、最近といいますか……」


「最近……」


 浮かぶのは、よく集まるようになったみんなのこと。

 たくさんお喋りしたり、放課後は遊びに行ったりもした。


「みんなと関わるのは楽しいんだよ? でも、今までこんなアクティブに行動してこなかったからちょっと疲れてしまいまして……」


 高校に入ってからというもの、長らくぼっちだった理代にとっては、目まぐるしい日々だろう。

 その溜め込んだ疲労が、今の堕落に繋がっているようだ。


「マッサージでもしようか?」


「疲れてるのは精神の方なんだけど……いや、身体も疲れてるかも? あちこち行ったしなぁ」


「ま、やってみるか」


 ちょうどラグの上に寝そべっていたので、そのまま背中を押していく。

 

 モミモミ。

 

 完全に素人なため、適当にそれっぽいところを押していく。


「……んっ」


「変な声出すな」


「しょうがないじゃん、気持ちいいんだから」


「変なこと言うな」


「何を想像しているのかな?」


「そっちこそ何を想像してるんだか」


 変な問答は切り上げ、マッサージに集中する。

 

 意外とやる側の体力も持っていかれるんだなと疲れを滲ませながら、理代を癒していく。


「あーそこそこ」


「ここか?」


「そうそうー、さいこー」


 お気に召したようで、力の抜けた声をあげている。


「ふにゅ~」


 よし、こんなものでいいだろう。

 

 マッサージを終えると理代は爽やかな笑みを浮かべて言った。


「なんだかすごくすっきりした気がする! ありがと!」


「少しでも疲労が回復したならよかった」


「お礼にわたしもマッサージしてあげる」


「いやいいって」


「そう遠慮なさらずに」


 手をわきわきとさせながら近づいてくる。

 あれこの光景、最近見なかったか……?


 そんな時だった。

 俺たちのスマホが同時に通知を鳴らした。


「グループLILIかな?」


 五人でよく行動するということもあり、つい最近グループチャットを作ったのだ。

 俺たちは共にスマホを開く。

 

久須美『今週末、遊園地行こうよ!』


 続けて、遊園地のリンクが貼られていた。


久須美『ジェットコースターの動画見てたら行きたくなっちゃって』


剣村『いいな!』

  『遊園地とか久しぶりだな』

  『オレもジェットコースターに乗りたい』


椎川『私は観覧車に乗りたいな』

  『ゆっくり景色を楽しむのが好きなんだ』


「ゆ、遊園地だって……どどどどうしよう」


 隣にいる理代が全力でパニクっていた。

 落ち着きなく身体をそわそわさせ、俺に詰め寄ってくる。


「普通に行くでいいだろ。何も予定ないだろうし」


「いやそうなんだけど、休日にみんなと遊ぶのって初めてじゃん? なんというか、放課後に遊ぶのとはまた違った感じがするといいますか、ハードルが高いといいますか……」


「落ち着け……ただの遊園地だぞ」


「わたしが最後に遊園地に行ったの小学二年生の時だよ!?」


「よく覚えてるな……」


 言われても全然ピンとこない。


「確かたーくん家と一緒に行ったんだよね。なつかしいなー」


「そうだっけ……?」


 そんなことがあったような、なかったような……。


「お化け屋敷が怖くて入れないってたーくん怯えてたなぁ」


「それほんとに俺か……? 理代じゃないか?」


「たーくんだよ…………たぶん」


 最後にボソリと怪しい言葉が加えられていたが、触れないでおく。


「お化け屋敷の話は置いといて、ひとまず返信しようか」


 文章をサッと入力して送信ボタンを押す。


多久『俺も行く』


 俺が先に送ったことで心理的ハードルが低くなったのか、理代もスマホを操作していた。


理代『わたしも行きます』


久須美『お、全員参加決定ね!』

   『じゃあ今週末よろしくー』


「グループLILIって一対一の時よりも、はるかに緊張する……」


 理代が不安感から解放されたように、息を吐きながら言う。

 

「クラスのLILIよりはマシだろ」


「え……クラスのLILIなんてあるの?」


 失言したと気づいた時には遅かった。

 

 そうだ。理代はクラスのLILIに入っていないのだ。

 

 というか存在自体知らなかったようだ。


「…………悪い、忘れてくれ」


「ちょまって、詳しく!」

 

 確か二年生に上がった最初の日に、グループが作られて、剣村経由で入ったっきり頭から抜け落ちていた。

 

 おそらく、久須美や椎川も忘れていることだろう。

 なぜなら、よろしくーとみんなが送信しあってそれで終わっているからだ。

 

「全然機能してないから、入ってなくたって問題ない」


「…………わたし以外にも入ってない人いる?」


「何人もいる」


 過半数が加入しているクラスのLILIだが、入っていない人もいる。

 理代のように交友関係がうまく作れなかった人や、個人的な好き嫌いで入らない人など様々だ。


「よかったぁ……」


 自分以外にも仲間がいて安心したようだ。


「今から招待しようか?」


「うーん、いいや。なんか目立っちゃいそうだし。もし何かあったらたーくんを頼るね」


 加入すると全員に通知飛ぶため、目立ちたくない理代にとってはかなり辛いだろう。


 それに、入らなくても連絡事項なら俺経由で伝えればいいのだ。

 

 俺は理代の言葉に頷いて、ゲームでもしようかなと思うのだった。

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