第3話
下心はいつだってないわけじゃない。だけどあなたに俺は、いや、私は真心で向き合いたいと思ったんだ。
※ ※ ※
こちらに来て共に庭を見たいと言う俺の願いを、夢の中の姫が拒むはずもない事だ。
雪のように降り続ける花びらを見ていると、どうしてこんなに胸が締め付けられるような気持ちになるのだろう。
ここで恋をしても夢から覚めたら終わってしまう恋ではないか。
それなのにー。
俺は姫の白い肌を見る。触ってもいないのに、あの桃の実のようにその肌は冷たいような気がしてしまう。
「美しい。」と俺はその横顔に向かってそう言った。
姫ははっとして俺を見た。
するとその瞳からすぅーっと涙が一滴こぼれたのだった。
俺は驚いた。だけど、「なぜ」とは思わなかった。
ここはあまりにも静かだ。
聞こえる音と言えば、俺と姫の声のみ。姫の声が小さいのも音のない世界の住人だからだろうか。
いや、その時耳を澄ますと完全なる無音の世界と言うわけではないんだと気がついた。
聞こえる。
あれは・・・・・
花びらが散り続ける音なのか。
砂が落ちていくよりもなお微かな音がする。
姫はこのような常闇の館のたった一人の住人なのだろうか。
人との触れ合いの温もりを知らなければ、孤独の寂しさを知ることもない。
姫は俺の言葉を嬉しいと思ってくれたのだろうか。
だから、だからこそ一瞬にして、その心は孤独の寂しさに気が付いてしまったのではないだろうか。
俺は姫の背中に手を回し、そっと自分の方に引き寄せた。
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