アオナツの空の下で

功琉偉 つばさ

アオナツの空の下で

 ピピピピッ、ピピピピッ無機質な電子音が部屋に響く。


「うん? もう朝か…」


 午前6時、俺は目覚まし時計に起こされる。少し重い体を起こしながらベット脇の窓の外に目をやると太陽が昇ってきている。リビングへ行くとお母さんがいつも通りもう起きていて朝ご飯を作ってくれている。


「おはよう。」


「おはよう。 朝ご飯できてるよ。」


「ありがとう。」


 洗面台に行き、顔を洗って一気に体を覚醒させる。朝の冷ための水が『起きろ』と体中に信号を送る。そして俺は作ってもらった白飯に味噌汁、目玉焼きを食べた。


「今日も朝練?」


「うん。」


「あんたは本当にバスケが好きね。」


朝ご飯を食べ終わり、荷物を準備し、家を出る。


「いってきます!」


「いってらっしゃい。」


俺の一日がここから始まる。


◇◆◇


 ワイヤレスイヤホンで音楽を聞きながら俺は毎朝のように学校へ行く。ポケットからイアホンを取り出してスマホと接続する。スマホで最近の曲などをオンラインストアで購入したものを専用のアプリで再生する。

♬〜

 この音楽たちを聞くと一日が始まる気がする。 春の終わりの今、空は雲一つなく晴れ上がって、太陽が少し前よりも高い位置にいる。


 朝の7時00分発の電車に乗って7時50分くらいに学校に着く。別に7時30分発のでも学校には間に合うが、その時間帯は通勤通学ラッシュでとてもこんでしまい、席に座ることはもちろんできなくなる。だから少し早めの時間にいつも家を出る。まあ朝練をするためでもあるけど。


 今の時間帯は電車の中はだいぶスカスカでゆっくりとできる。電車に乗ったら音楽を聞きながら、スマホで小説や漫画を読んだり、普通の文庫本を読んだり、気が向け単語帳を開いたりする。そうして約30分間の間電車に揺れている。そこから俺の一日が始まる。


 学校へ着くと真っ先に部室へと向かう。部室の鍵は朝、先生が開けてくれるのでなんのストレスもなく朝の準備ができる。リュックを置き、置いていっているバッシュ(バスケットシューズ)を取る。一晩部室に置いていたバッシュはゴムの匂いがする。ササッとTシャツとバスパン(バスケ用の半ズボン)に着替えて、バッシュを軽く履く。ゴールのリモコンとボールを持って体育館へと向かう。まだこの時間帯の学校は人が少なくて静かだ。体育館へ入る。


「お願いします!」


 一人でもしっかりとコートに挨拶をする。 中学の時から続けている習慣だ。ゴールをおろしている最中にバッシュの紐を結ぶ。そこまで激しくはやらないので軽めに。朝一番の体育館は少し冷えていて、フローリングっぽい匂いがする。


 紐を結び終わると簡単に体を動かす。腕を後ろで組んで伸ばしたり、背伸びしたり、伸脚や屈伸をする。そしてボールをつく。タンタンとボールが反発する音がこだまする。次第に手汗が出て乾いている手がしめってくる。フロントチェンジ(体の前側でドリブルをしているボールを反対側の手へ送ること)をしてレッグスルー(足の間を通してドリブルをすること)をしてタメを作って勢いをつけてレイアップ。リングの中にボールが吸い込まれていく。そこからゴール下からシュートを始め、どんどん離れていきフリースローを打つ。


 足踏みをしながらドリブルを1回ついて足を右足が少し前に揃え、ドリブルを軽く2回、そうしたらボールを前に構えて、少し膝を曲げて狙いを定る。これが俺のフリースローのルーティーンだ。呼吸を整えたら身体全体を使ってしっかりとボールを押し出す。その時にジャンプはしないでつま先立ちになる。ボールが曲線を描いてゴールに吸い込まれていく。


スパッ


 ボードにもリングにも触れずにネットをボールが通る時、気持ちいい音がなる。スウィッシュだ。周りに誰もいない静かな体育館だからなおさらだ。そしてシュートを決めた後の余韻に浸る。そうして転がってきたボールを拾ってもう一本。気持ちを切り替えてボールを送り出す。


ザンッ


 今度は少し力が入っていたようでリングの後ろ側にぶつかるようにして決まった。

俺が好きなのは「ザンッ」じゃなくて「スパッ」の方なのだが、まあ綺麗に決まったからいいだろう。そこからフリースローと同じくらいの距離のところからシュートを打つ。いわゆるミドルレンジシュートだ。エルボー(フリースローラインの端)やショートコーナー(制限区域の外)から打つ。ここらへんもフリースローと同じ力加減で打てば入るので気持ちいい。


 そしてお待ちかねスリーポイントだ。俺はコーナー(サイドラインとエンドラインに挟まれたコートの角)からのシュートが一番いいと思っている。なぜって決まるときは必ずスウィッシュだからだ。呼吸を整えて、リングをまっすぐ(朝日のせいで見えにくい)見て構えて、全身を使って柔らかくボールを送り出す。綺麗な放物線を描いたボールはリングの真ん中へと行く。ネットが巻き取られ、ボールに沿って上へと上がる。そして


パコンッ


と音がなる。

やっぱり俺はバスケの音の中でこれが一番好きだ。


「おはよう。」


「先輩おはようございます!」


「今日も早いな。」


「やっぱりバスケ、好きなんで。」


 8時位になると人が集まってくる。そうやって俺の朝練は続く。


◇◆◇


 8時20分になると上がって着替え、教室へと向かう。だがその前にやることがある。


「キーじゃん!」


そう部室の鍵じゃんけんだ。


『最初はグーじゃんけんホイ!』


「よっしゃ〜!」


「負けた〜」


 そんな感じで朝のバスケ部は大盛りあがりになる。今日負けたのは1年生だ。


「ヤベッ急げ!」


「はいおはよう。もう25分だぞ〜」


 先生に急かされて教室へと急ぐ。


 教室にやっと着いた。ショートホームルーム、いわゆる朝の学活が始まるまであと5分だ。まだ少し時間がある。ここで俺の紹介をしておこう。


 俺は流川瑠輝るかわりゅうき。16歳。高校2年生だ。『バスケ馬鹿』そう幼馴染の円堂光えんどうひかるから呼ばれている。といってもあいつも女バスで十分バスケ馬鹿なんだけどな。身長は179cm。まあまあ高めの方だが、あと1cm、180cmに届かない。俺のバスケ部でのポジションは4番のPF(パワーフォワード)(主にゴール下で得点を決めることが役割でリバウンド争いを中心にやる。)だ。でも、俺の今の目標は…キーンコーンカーンコーン運悪くチャイムが鳴った。話が締まらないまま俺の一日は過ぎていく。


◇◆◇


「あ〜あ。春が終わっちゃったなぁ〜」


 放課後、今日は部活がオフだけどバスケがしたくなったので、家の近くの公園で光とバスケをしていた。今日は6月21日。夏至だ。太陽が高く昇っており。額に汗が滲む。


「いやいや。今日って夏至だよ? 立夏は5月5日だったし、春が終わるなんていつの話をしているんだ?」


俺はミドルシュートを淡々と打っていくやっぱりスウィッシュは気持ち良い!


「というか『春が終わる』じゃなくて『夏が来る!』だろ。」


「『春が終わる』のが嫌なの。それに5月はまだ春なの。まだそこまで暑くないし…2月から春で、5月までの3ヶ月しかないなんて許せない。」


「いやいや。何言ってるんだ? 春夏秋冬の四季があるんだから人季節3ヶ月なのは当たり前だよ。というか絶対春よりも夏のほうが良いだろ。」


「夏は嫌なの。なんというか…こう…春じゃなくなったら青春がじゃなくなっちゃうの。」


「青春…そうか、春じゃなくなるもんな。 ってなわけあるかい。青春って春の期間だけじゃないはずだよ。」


「そうなの? ちょっと調べてみる。」


光はベンチへ行き、スマホで何やら調べだした。


「青春:若い時代。人生の春にたとえられる時期。希望をもち、理想にあこがれる時期。…だって。 本当だ。『人生の春にたとえられる時期』だって… 『バスケ馬鹿』のくせに…」


「おい。それと俺が『バスケ馬鹿』なことは関係ないだろ?」


「って言うくせに自分はシュート打って私のことを見向きもしないじゃん。」


「うっ…」


これは返事に困る…


「そうだ!青春があるなら青夏せいかでも良いんじゃね〜の?」


「もう。せいか?何でも青けりゃ良いってものじゃないの。」


「青春、青夏せいか青秋せいしゅう青冬せいとう…」


「ちょっと。あまり馬鹿にしないでよ。というか青い夏で『せいか』なんて嫌なんだけど。なんか違う…」


「なんだよ。なんだっけなぁえっと音読みか。 音読みだったんなら訓読みにして、アオハル…アオナツなんてどうだ?」


「アオハルってたしかに言うね。アオナツ…なんかエモい感じ。」


「だろ?」


おっとここで今日一番の綺麗なスリーポイントが決まった!


「バスケ馬鹿のくせに。」


「バスケ馬鹿で何が悪い!」


「そこいばるところじゃないでしょ。」


振り向いてみると光と目があってしまった。なんだか可笑しくて笑ってしまった。


「何人の顔を見て笑ってるのよ。」


「光だって…」


「もういい。私『アオナツ』を満喫するんだから。」


「おう。」


 空が夕焼けに染まってきた。こんな話をしながらもバスケに熱が入る。


「よし。体もあったまったし、行けるかな?」


 俺はスリーポイントラインからボールを持って一気に助走をつけておもいっきるゴールに向かって飛んだ。あと少し。もう少し高く…遂に俺の手がリングに届いた。


ガコン


「出来た…遂にダンクできた!」


俺は嬉しさのあまり思いっきりジャンプした。


「光。見てたか?俺、出来たぞ!」


 さっき言いかけていた俺の目標はダンクをすることだった。


「すごい!さっすが『バスケ馬鹿』。」


「だから『馬鹿』じゃね〜よ。『バスケの天才』だ!」


「そうだね。あのね、瑠輝。」


「何だ?」


「ううん。なんでもない。」


「そうか。でも…よっしゃ!」


俺の雄叫びはアオナツの空に溶け込んでいった。


◇◆◇


 私は光。あの『バスケ馬鹿』は青春じゃなくてアオナツでも良いんじゃないかなんて適当なことを言っていたけど、アオナツ…良いかもね。


 待ってなさいよ。あの『バスケ馬鹿』絶対に気づいていないし…『アオハル』はだめだったけど『アオナツ』の間に絶対に私の気持ちを伝えるんだから!

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