AIと人間
天川裕司
AIと人間
タイトル:(仮)AIと人間
▼登場人物
●柿井好男(かきい よしお):男性。45歳。AIロボット工学に精通し権威とまでされる。
●上司:男性。50代。好男の研究所での上司。少し厳しめの印象で。
●部下:男性。20代。好男の研究所での部下。誠実なイメージでお願いします。
●帆美野 蘆子(ほびの ろこ):女性。40代。好男の理想と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●某科学研究所:好男達が働いている。一般的な研究所のイメージでOKです。
●カクテルバー:都内にあるお洒落なカクテルバー。蘆子の行きつけ。
●街中:好男が最後に寝かされる空間も含め一般的なイメージでOKです。
▼アイテム
●Precision of Machine Man:蘆子が好男に勧める特製の栄養ドリンク。これを飲むと1年間その人を機械の様に正確にさせる。
●Machine Man Personality:蘆子が好男に勧める特製の錠剤。これを飲むとその人を機械(AIの様に)変える。期限は永久。ただし部品が壊れたら修復できない。
NAは柿井好男でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたはロボットに憧れますか?
現代ではAIというものが流行っており、
AIは間違う事がなく、計算も計画も正確で、
人のように邪な気持ちを持たず、
必ず期待した通りの事をしてくれる。
そんなふうに思う反面、
人間味がなく、感情による行動ができず、
臨機応変の対応がなかなかできない。
そんな心配も、思う人は思うでしょう。
しかし現代は、
電子ツールに仕事が取って代わられている時代。
人がAIのように成っていく時代も、
もしかするとそこまで来ているのかもしれません。
メインシナリオ〜
ト書き〈某科学研究所〉
俺の名前は柿井好男。
ここ、都内でも一流の科学研究所で今働いている。
上司「柿井君、今度の君の成果は素晴らしかった。ロボット工学において君の右に出る者はもう居ないかもしれないなぁ。今はAI 時代。もしかすると君の時代がやってきたのかもしれんぞ?今の調子でどんどん励んでいってくれたまえ」
好男「有難うございます。今後ますます精進したく思っております」
俺は独学に勉強を重ね、
今ではAIの権威と呼ばれる程の地位を獲得しており、
まぁ常人には分からないだろうが、将来、
おそらく世界を動かす人間になる…
そのように周りからも評価されていた。
そして自分でも必ずそうなると信じていたのだ。
ト書き〈トラブル〉
しかし、この道に入って20年目。
俺に初めてトラブルが訪れた。
部下「柿井さん、この計算、間違っていませんか?あなたが提出された図案によると、こちらのロボット・AIは、期待した通りの成果を出す事はできませんよ」
好男「なに?そんな筈はない。私の計算に狂いなど無い筈だ。もう1度よく調べてみたまえ」
部下「はっ、…ですがもちろん何度も検証した上での事なんです」
好男「なんだと…?」
俺はこれまで、自分の仕事上での計算ミス、
いわゆる設計ミスをした事がなかった。
しかし俺のすぐ下で働いている部下が言うように、
そのとき作っていたAIロボットの設計は
俺が以前、提出していた起案通りには設計できず、
また部下が言った通り期待した成果を出す事が出来なかった。
上司「柿井君、どうしたんだね?君らしくもない。今度の企画が遅れた事で、他社との競争にも負けそうだよ?君はロボット工学において誰よりも精通しており世界にも通用する程の権威の持ち主なのだ。こんな下らない事で足踏みしている暇はないだろう?」
好男「はっ、申し訳ありません…」
上司「君には多額の報酬を与えて仕事を任せてるんだ。その期待を裏切るような事だけはせんでくれよ」
俺はその日、上司からこっぴどく叱られた。
ト書き〈カクテルバー〉
俺は生まれて初めて犯してしまったそのミスをどうにも忘れられず、
これ以上ないほど落胆したまま、久しぶりに飲みに行く事にした。
こう見えて俺の心もまだ弱く、
何かに頼らなければその落胆を払拭できない。
そんな時に頼りになるのが酒や煙草といった嗜好品。
そして以前に通いつめていた居酒屋へ行こうと
飲み屋街を歩いていた時。
好男「ん?なんだ、新装でもしたのか?」
全く知らない新しいバーが建っていた。
まぁまぁお洒落なカクテルバーで、とりあえずそこに入り
カウンターについて俺は1人飲んでいた。
するとそこへ…
蘆子「こんばんは♪お1人ですか?よければご一緒しませんか?」
と1人の女性が声をかけてきた。
彼女の名前は、帆美野 蘆子。
都内でビジネスコンサルタントやライフヒーラー、
それにスピリチュアルコーチなんかもしていると言う
どこか上品な人だった。
別に断る理由もなく、またそんな時だったので
俺も少し話し相手が欲しいと思い隣の席をあけ、
彼女を迎えた。
でも喋っている内に少し不思議な気になってきた。
なんだか「昔から俺の事を知ってくれていた人?」
のような気がしてきて、何となく心が和み、
普段ならしないのに、
自分の悩みを打ち明けるような事を彼女にしていた。
好男「はっwこんなこと君に言ったってどうしようもないのにね。まぁ愚痴だと思って聞き流してくれたらいいよ」
軽い気持ちでそう言ったのだが彼女は…
蘆子「なるほど。今のお仕事の事で悩まれてるんですね?」
何か親身になって俺の話を聴いてくれ、
まるで悩み解決をしてくれるような
そんな素振りを見せてきた。
好男「え?どう言う事だい?」
蘆子「あなたがなされているお仕事は、大変なお仕事ですね。ミスがあって当たり前、でもあなたはその自分のミスを許す事ができない。そんな事を繰り返して居ればおそらくこの先もっとストレスが溜まり、あなたはその仕事を続けられなくなるかもしれませんよ?」
蘆子「ここらで1度自分を解放してあげて、もっとゆとりのある生活を目指してみてはいかがでしょう?」
まぁそこら辺で聞くような文句を言ってくる。
君が言うようなそんな甘い仕事じゃないんだよ?
これは人類の将来を変える為の仕事でもあるんだ。
そんな事を言いながらとりあえず彼女との間に
やはり一線を引こうとした時…
蘆子「分かりました。あなたのお仕事に対する理想は人より高く、その夢は普通の人が持つものより遥かに大きなものなんですね。それなら少し、私もお力にならせて頂きましょうか?」
そう言って彼女は持っていたバッグから
栄養ドリンクのようなものを取り出してきて
それを俺に勧めてこう言った。
蘆子「こちらをどうぞ、ぜひ1度試してみて下さい。それは『Precision of Machine Man』と言う特製の栄養ドリンクで、それを飲めば普段人がするようなミスを犯す事が無くなりいつでも正確で、そのとき必要な事だけが出来るようになります」
蘆子「つまりあなたが今悩まれているのは、普段人がどうしてもしてしまうミスの事で、それが解消されたらあなたの悩みも解消されます。簡単に言えばそう言う事でしょう?あなたはいつでも正確な行動が出来るようになり、まるで機械のように計算ミスをする事もなく、今の地位や名誉をより固く保つ事が出来ますよ?」
馬鹿な事を言ってくると思ったが、
やはり彼女は不思議な人だった。
普通なら信じない事でも彼女に言われると信じてしまう。
何となくその気にさせられ、
気づけば俺はそのドリンクを手に取り、
その場で一気に飲み干していた。
蘆子「そのドリンクの効果は1年です。あなたは1年間、まるでAIのように誰よりも正確な行動をする人間に成る事ができ、その経験をバネに、その後の将来へも羽ばたいて行く事ができるでしょう。科学者のあなたにこんな事を言うのもなんですが、信じる力は時に、その科学の力を超えるほど大きなものになってくれます。とりあえず信じて、あなたの将来へ向けて歩いて行ってみて下さい」
ト書き〈1年後〉
それから1年後。
俺は更にこの道で成功し、今や日本だけじゃなく
世界でも引く手あまたの人気を誇る
科学者の頂点に立つ程の人材に成れていた。
世界は俺を持て囃し、メディアにも沢山出て顔も知られ、
特定分野では「ときの人」とまで謳われた。
その成功の嬉しさもあり、日本に帰ってきた時、
俺は又あのバーへ立ち寄っていた。
あの時そこで出会ったあの彼女、
蘆子さんにひと言お礼を言っておきたかった為。
そして店に入ると、
彼女はまた前に座っていたのと同じ席に座って飲んでおり、
その彼女を見つけて俺はすぐに駆け寄り…
好男「いやぁ蘆子さん!会いたかったですよ♪」
満面の笑みで彼女に心からお礼を言った。
彼女も俺の成功を聞いて自分の事のように喜んでくれ、
俺の将来をそれなりに祝福してくれた。
でもこの時1つだけ気になる事も言ってきた。
好男「え?そうなんですか?」
蘆子「ええ。あのドリンクは、誰に対しても1回しかお勧めしておりません。実はあのドリンクは心の強壮剤のようなものでして、その依存性が強く、長期的に使用する事は勧められないのです。ですので今後はどうかご自分の力で道を開拓し、更なる成功を掴んでいって下さいね」
俺はてっきりずっと貰えるものだと思っていたのだ。
あのドリンクを飲んでから確かに俺の人生は更に飛躍して、
あのとき彼女が言った通り俺はまるで機械のように正確に、
ミスを犯す事は無く、すること成すこと全てが正確だった。
そして又これも彼女が言った通り、
丁度あれから1年が過ぎた今、
その自分の正確な行動に対する自信が何となく薄れ始め、
そろそろあの栄養ドリンク…いや心の薬を
出来ればまた新しく彼女に貰おうと考えていた。
それが今、彼女からその事を拒否された途端、
俺の心は揺らいでしまった。
ト書き〈今度はミス続き〉
それからである。
あのドリンクの副作用なのか反動なのか、
俺はそれまでより仕事でミスを連続してしまうようになり、
ロボット設計はおろか、
何の仕事も手につかないようにまでなってしまった。
好男「ど、どうしたんだよ俺…今までの俺は一体どこへ行っちまったんだ…!?」
素人がする凡ミスのような事までするようになってしまい、
俺はもう自分の将来さえ壊しかけていた。
ト書き〈カクテルバーからオチ〉
それから数日後の事。
俺はもうどうにも堪らなくなり、また蘆子に会って
何か別の…今の自分を助けてくれるきっかけが欲しいと
無心し始め、すぐ又あのカクテルバーへ駆け込んでいた。
すると彼女はまた前と同じ席に座って飲んでいた。
俺は彼女を見つけるや否やすぐ彼女のそばへ駆け寄り、
土下座する勢いで…
好男「な、なぁ頼む!お願いだ!もう1度、もう1度だけ今のこの俺を助けてくれ!頼む!いやお願いします!」
でも彼女の答えは変わらなかった。
それでも俺は無心した。
そこで漸く折れてくれたのか彼女は、
この前とは違う方法で俺を助けると言ってくれたのだ。
蘆子「仕方がありません。それではこちらをお勧めする事にしましょう」
そう言って彼女は、今度はドリンクではなく、
そこら辺で市販されてるような
錠剤を俺に差し出しこう言ってきた。
蘆子「これは『Machine Man Personality』と言う特製のお薬で、前にお勧めしたドリンクとは全く効果が違い、あなたを永久に変えてくれるお薬になります」
好男「え…永久に…?」
蘆子「ええ。それを飲めばあなたは1年前のように何事にも失敗する事が無く、機械のように正確になれ、今のように悩む事ももう無くなり、あなたは新しく生まれ変わる事が出来るでしょう」
蘆子「ただし、もうそれまでの人生に戻る事は出来ません。あなたは機械のように正確な人間になった上でその後の人生を歩み、その自分に責任をもって新たな未来を開拓していくのです。その覚悟がおありならぜひどうぞ。強制はしません。あなたの人生ですからあなたがお決め下さい」
永久にミスの無い正確な人間になれる…
もうこんな事で悩む事も無い…
この2つの言葉が俺の心でキーワードになり、
彼女の言葉を最後まで聞かない内に
俺はその錠剤を手に取り飲んでいた。
(オチ)
そしてそれから僅か数週間後。
俺はどうも故障してしまったようで、
全く動く事が出来なくなった。
今は全く知らない保管室のような所で寝かされており、
そのうち廃棄処分にされるかもしれない…
そんな噂も俺の周りでちらほら立っている。
ト書き〈ベッド上で微動だにしない好男を見ながら〉
蘆子「仕方がないわよね。好男は人間をやめてロボットになっちゃって、その部品が壊れちゃったからもう動く事も出来なくなっちゃった。もちろん人を機械にする部品なんかこの世に無いから、交換用の部品なんて無く好男はずっとこのまま。取り返しのつかない道に、自分で足を踏み入れちゃったのよね」
蘆子「あの最後に好男が飲んだ『Machine Man Personality』はその名の通り、人間を機械そのものに変える為のお薬。まぁ今では『人をAIに変えるお薬』と言ったら解り易いかな。どれだけ機械が正確で、何よりも頼れる存在なんて言っても壊れる時は脆いもの。『コンピューターにはミスがつきもの』この教訓を幾ら覆そうと努めても故障だけは避けられない。人が作る物には限界がある…と言う事ね」
蘆子「私は好男の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を少しの間叶えてあげようと思って現れたけど、人の欲望は機械にも勝るほど凄まじいものなのね。AIが人間に取って代わると言うのは得てして、人の欲望の、架空の中だけの事じゃないかしら…?」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=7l4mfEDyoEk&t=115s
AIと人間 天川裕司 @tenkawayuji
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