第5話 最後の班ノート
吉岡さんに悪魔を教えたのはこの僕だった。しかしこれは間違っている。吉岡さんは知らないのだ。
吉岡さんは数字クイズを出すにあたって、誰が解いても答えが同じかどうかを試したかったと言っていた。未来は確定していてそれは悪魔なのだと。しかしそれは昔の話だ。現在の数学では否定されている。
僕は図書館のパソコンでパイソン言語を使って数式を入力した。表示されたグラフを3つ印刷した。ロジスティック写像と言われるものだ。
そして最後になるかもしれない文章を書いた。
7月11日 山本優斗
昔の数学では、すべての動きを把握できればすべての未来は予測可能と言われていました。
しかし現在の数学ではカオス理論というものがあります。
初項のわずかな変化が未来に大きな変化をもたらすのです。
Xn+1 = 3.6 * Xn * (1 - Xn)
3つのグラフがあります。
赤いグラフは初項0・500
青いグラフは初項0・501
そして3つ目は赤と青のグラフを重ねたものです。
初めは同じです。しかしだんだんと赤と青がバラバラになっていきます。
たった0・001という変化で未来が変わるのです。
これはバタフライ効果と呼ばれています。蝶の羽ばたくそよ風で運命は変わるのです。
現在ではラプラスの悪魔は数学的に否定されています。
ここでノートの最後まで来た。入念に確認したあとノートを引き出しに戻した。
次の日に東館に行った。班ノート自体がなくなっている。やっぱり無理なのか。最後の書き込みが届いてるならいいが。
僕は学校を出た。校門横の花壇には蝶が飛んでいる。そういや50年前の写真には花壇がなかったな。
◇◇◇
昭和49年7月12日
吉岡久美子は写真をじっと見つめている。
「なんて素晴らしいことでしょう。未来は悪魔ではなく蝶々だったなんて。それにこの写真。蝶々が本当に羽ばたいてるみたい」
【完】
最後までお読みいただき有難うございます。
悪魔の班ノート あめこうじ @amekoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます