第29話 来る日に備えて
森での模擬戦は何もかもが違った。
でこぼこな地面、気を使っていないと足が引っかかる木の根に剣を振る際に当たってしまう木や枝。
しかし当然ではあるがカイルさんは物ともせず動き地形を利用しアクロバティックな動きも見せたり、地面が不安定な場所に追い込んできたりしてこちらを翻弄しながら攻めてくる。
カイルさんは色々な武器が使える為、毎回毎回違う武器で模擬戦をしてくれているが少しも歯が立たなかった。
訓練が終わった後の走り込みも森の中で行うようになり地形慣れを目指した。
毎日休まず森で訓練をしていると段々慣れる。
カイルさんを見習って地形を利用し不利にならないように動き、木を蹴り込んでの立体的な動きや強力な攻撃、木の根や石をストッパーにしての防御も出来るようになっていった。
更に時が経つと体重が軽いわりに頑張って付けた筋肉とそれを後押しするスキルが身についているのだろう、魔力を使わなくても僕の常識では考えられない異次元な動きが出来るようにもなり、木を蹴って他の木へ飛び移り枝を掴んでくるっと飛びながら回り枝の上に乗ったり、そのまま他の枝に飛び移ったり、前世でみたらサルみたいという感想を抱きそうな動きが出来た。
森の地形を自分の物として戦えるようになったと思えて来ているのだがそれでもカイルさんには勝てない。
いい勝負が出来る時もあるが、それでもカイルさんにはまだまだ余裕があるように見える。
心のどこかで少し不満に思ってしまったのかもしれない、顔に出てしまったみたいでカイルさんは教えてくれた。
「僕は森の中なら強いんだよ。魔力の使用なしであればダッラ以外には勝てるし、魔力ありだったらゴルダス・ダッラ・ロイ以外になら勝てる」
そんなに強いんだという驚きと共に知らない名前が出てきた。
「ロイって誰?」
と言うと目を丸くして答える。
「アンドレイが魔力なしで勝った魔法使いだよ?」
見た目的には何もなさそうな中肉中背のおっちゃんが並ぶほど強いんだ、と驚いた。
「こういう事を言うのは良くないのかもしれないんだけど、アンドレイが模擬戦で勝った人はみんな切り札的なスキルを持っているんだ。だけど切り札というのはいざと言う時に使うものだから、みんな模擬戦とかでは使わないんだ」
自分で勝っといてなんなんだけど4歳の魔法が強いだけの相手に戦士団の皆が負けるわけないよなと、どこか疑問に思っていたんだけどそれを聞いて合点がいった。
「やっぱり!」
その反応が嬉しかったのか、カイルさんのニコニコ顔が更にニコニコする。
「ハハ、そうか!わかっていたかい?例えばだけどロイは纏術と言う生まれ持ったスキルがあったんだけどね、その纏術は体に纏ったり、武器に纏わせるスキルなんだけど試行錯誤を積み重ね続けて自分の体そのものを火や土にするという事が出来るようになったんだ。その分だけ魔力の消費は激しいらしいけどその威力は絶大で切ろうとして来た相手が剣ごと燃えカスになってしまうほどなんだ」
(すげぇ!話を聞くだけでワクワクしてくる。僕もそんだけ強くなれるのかな)
「デレじいも凄いの!?」
魔力ありの模擬戦で初めて勝った相手、豪快で気持ちのいい性格のデレルンのおっちゃんの事を思わず聞いた。
「あー、そうだね。デレルンは対軍隊であれば無類の強さを誇っていたよ。ゴルダスの次くらいじゃないかな。今度お願いして見せて貰ったらどうだい、きっと驚くよ」
「わかった!!じゃあカイルさんは??」
と聞いてみると、困った顔をしながら頭をかいていた。
「僕かい?そうだなぁ……。もうそろそろアンドレイの本番になると思うからそれを成功させたら教えてあげよう。んー、でもほんのさわりの部分を教えておくと僕はこの戦士団になる前、傭兵団になる前にゴルダスと最初に組んでいたのは僕なんだ。」
びっくりして思わず、ビクッとなってしまった。
お父さんと見比べても若すぎる……。
いやだってお父さんは体格ゴリラで髪を短くしてるとはいえ金髪オールバックの顔中傷だらけの傍から見たらただの化け物なのに、そのお父さんと最初に組んだ人!?しかもそれがさわり!?
あまりにもびっくりしすぎて引っかかる所があったことを思い出すのに時間がかかった。
(ん?あれ?今本番って言ってた?)
「あれ??本番???」
「うん、そうだよ。そろそろスキル獲得の為の魔物狩りを始めてもいい段階に入っていると思っていてね。油断してもしなくても、もしかすると死んじゃうから気合を入れるんだよ?」
口調も表情もいつも通りではあるものの真剣味というか、忠告というかそんなものが感じられた。
驚きで浮足立ってた僕は落ち着きを取り戻し、声には出さずただカイルさんの目を見てしっかりと頷いた。
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