第30話 一人の戦い

段々と季節は変っていき少し肌寒くなっていた頃。


僕はマジックバックと言う名のポーチを持ち、ゴライアスと呼ばれたオーガの装備を着て、腰に大きな短剣を差し、竜の剣を背中に背負って森の方へ歩いていた。


大勢で来てしまうと魔物が逃げてしまうと言う事で、送り向かいに来てくれたのはカイルさんとお父さんとお母さんのみ。


僕が獲得を目指すスキルは、一人で魔力なしで魔物達と戦い続けなければいけない。


近くに仲間が居ると獲得することは出来ないというものだ。


僕の後ろからついてきている3人が声を掛けてくる。


「おうアンドレイ、帰りを待ってるぞ」


「帰ってきたら豪華な料理が待ってるんだ。気張りな!」


「もう無理だと思った時は、魔力を使うんだ。死んだら元も子もないからね」


3人に言葉を貰い、僕は深呼吸をして振り向くことはなく一歩一歩踏みしめながら森の中へ進んでいった。



この森は魔物だらけの森と言うのは知っている。


森での訓練中に護衛の人が魔物を倒す音が何度も何度も聞こえていたから。


少し進むと早速ゴブリンが現れたが足元にあった大きめな石を拾って頭にぶん投げて気付かれる前に倒す。


ゴブリンが地に伏せた瞬間体の中が温かく感じた。


きっとこれが魂が強くなった時に起こる事なのだろう。


初めて命を奪ったわけだがの変化も特に何も感じない、元々グロイのは苦手だったが戦士団の皆が訓練がハード過ぎてその治療をしている間に見慣れてしまった。


倒れてるゴブリンを横目に森の奥へ奥へと歩き続ける。



奥に進めば進むほど魔物の数が増えてきた。


体力の消耗を抑える為に最小限の動きで、今の所は全部一撃で倒せている。


ここまで来ると魂が強くなった事による変化も感じられてきた。


使わないようにしている魔力が溢れてくるような、そんな感覚がして力も漲ってくる。


ただ、奥に進めば進むほどに様相は変わってくる。



暗くじめじめとした陰鬱な雰囲気な風景になっていく中、特に苦労もせず5匹で行動していたゴブリンを倒しその場を後にしようとすると、奥から背が高い人型のイノシシ(多分オークだろう)が3体でのしのしと歩いてくる。


既にオークとは目が合って見つかってしまっているから、逃げようとはせず姿勢は低く剣を構える。


カイルさんが言っていた。


魔物は自分より小さい者は無意識に舐めてかかってくるから上手く先手を取って有利な状態を掴む事が大事だと……。


オークはゴブリンの死体を横目に僕の方へゆっくり歩いてくる。


どう見てもニヤニヤしていてこちらを舐め腐っている……。


3体の立ち位置はくの字のような形を取っており、一番前のオークが僕が出せる最速の突進突きを決めれる間合いに入ってくるまで待つ。


一歩また一歩間合いに近付いてきて・・・。


(ここだ!!)


低い体勢から一気に前に飛び出しオークの喉を狙って突き出して体を踏みつけながら剣を引き抜き後方へジャンプし下がる。


喉を突かれたオークが立ったまま喉を抑えていて他のオークは僕の方へ走ってくるのを確認し、他のオークの視線から切れるように突いたオークの近くへすぐさま駆け寄った後、足下を潜り抜けて近い距離にいるオークの元へ走る。


手を振りかぶって殴りかかってくるが前転するようにかわし足の根本を狙い撫でるように切りつける。


すぐさま体制を立て直して瞬時に様子を確認すると、喉を突いたオークと足を切られたオークは倒れており、もう一体のオークは想像もしていなかった展開なのか動揺している様子だった為、一気に駆け寄り焦って出した拳を交わしながら背後に回りながら首を切った。


首を切っても少しは動くみたいだから即座に離れ、足を切られて叫びながら這いずっているオークにとどめを刺して一呼吸置こうとしていた。


が、それは出来なかった。


先ほどオークが来た位置から飛んで来た矢を余裕をもって避ける事は出来たのが、問題なのは飛んで来た方向からドスドスと走ってくるオークの群れだった。


僕は群れを前に走馬灯のように初めて喋ってから聞いた話とお父さんが話した言葉が頭をよぎった。


心が弱ければどんな強いやつでも苦境に立たされると挫けてしまい死んでしまう、だが弱い奴でも心が強ければ突破口を見出し生き抜いていけるようになる。


そして……。


『俺たちは戦う時だって笑うんだぜ、切られて痛い時も笑うし、危機が訪れたって笑うんだ』


僕は、剣を構えて顔に笑みを浮かべた。


(ここで死ぬのは僕じゃない。てめぇらだ)

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