第25話 戦士団が恐れられる理由
開始の合図とともに先頭の両親が一気に距離を詰め、それと共に地面を蹴る音がドォンと鳴り、更に振り下ろされた大斧と迎え撃つかの如く振り上げられた右拳がぶつかった瞬間、爆発音とも思えるような轟音が鳴り響き、更に地面が捲れるような突風が吹いた。
周囲の観戦者から大きな歓声が上がる。
直後両陣営の戦士たちも喚声を発して続々と突撃する。
それぞれ持っている武器は様々、長さも様々だがどれだけ武器を振り回そうが当たるのは相手だけ、凄まじい連携でお互いがぶつかり合う。
味方が少しでも崩されればフォローに入り、それを妨害してくるようであれば、更に別の味方がフォローに入り……、と一進一退互角に渡りあう。
人数の少ないかわりに赤色陣営の方が個としては強い人が多い気がするが、誤差だろう。
戦闘自体は激しく戦闘しているものの硬直状態になる。
その時、アリーさんから話しかけられた。
「アンドレイ、直視せずにキョロキョロする振りをして見てくれ。あたしらの左後ろ茶髪を後ろに縛った奴とその周りの汚い装備している奴ら。恐らくこの後忙しくなってきたら後ろから狙撃してくると思う。アンドレイは守るから、合図と共に重力魔法を死なない程度にかけてやって。その後に騎士が来るはずだから、来たら魔法を解いてやりな」
急に言われた事に少しパニックになったが気を取り直し、ただの子供みたいにキョロキョロして標的を探す。
(見つけた!似たような装備してるやつは6人くらいか……。)
折角の物凄い演習を見る機会を台無しにしようとする輩は許さん。
「見つけた。わかった」
と小声で伝える。
(絶対に後悔させてやる)
と決心し、観戦しながら時を待つ。
段々と激しさを増していき、剣に炎を纏ったり魔法が飛び交い始めた。
そこで目を疑う事が起きた。
赤色陣営がタイミングを合わせ様々の魔法を黄色陣営お母さんに対し一気に向かい、直撃しお父さんも切り込んで行ったのだが……。
砂埃が散ると目を赤く光らせ、体が黒くなったお母さんが大斧を片手で受け止め、ピンピンしており、返しの左フックでお父さんのボディを殴ったのだ。
しかし、ジャンプすることで衝撃を和らげ、大斧を支点にお母さんの上から背後に回り背負い投げをするが如く振り下ろし掴んだ手を離させ投げ飛ばした。
勿論そこに黄色陣営が切り込んでくるが、赤色陣営もカバーに徹しお父さんを守る。
次の瞬間、赤色陣営の一人が剣を握っていた腕を切り飛ばされた。
僕はびっくりして固まってしまったがアリーさんが前に片手を伸ばし、振るうと切り飛ばされた腕がその人の腕に戻っていき、一瞬で治った。
直ぐにその人はもう片方の手で短剣を抜きで対応していたものの、治った瞬間に他の人の援護と共に拾い戦線に戻る。
思わずギョッとしてアリーさんを見てしまう。
しかしアリーさんはこちらには目をくれず、演習をじっと見つめていた。
既に30分以上連続戦闘は続いている。
だが戦闘は続き、激しさは収まるどころかまだまだ激しくなっていった。
周囲の観客からの声援は既に無くなり、いや声を出せないのかもしれない。
観客の方をちらりと見ると、目は演習に釘付けとなっており時が止まっているかのように動いていなかった。
訓練場では尋常ではない演習をしているなか、戦士団全員の顔が笑みを浮かべている。
激しさを増していくにつれ、戦線復帰が難しそうな怪我や部位を切り飛ばされたり焼かれたりで欠損が起こるがその度にアリーさんが直していく。
また一人、足を切り飛ばされアリーさんが片手を伸ばした瞬間……。
背後から何かがが飛来してきたのだが、それを見る事もなく片方の手で掴み後ろを見ずに投げ返して見事に標的の一人に命中させた。
「潰せ!」
それを聞いた瞬間、放つために準備していた重力魔法を襲撃者の上から掛けて地面に伏せさせてやった。
戦士団の皆ならギリギリで耐えれる位の重力だ、死にはしないだろう。
「もううごけない!だいじょうぶ!」
と、アリーさんに作戦成功を伝えると、笑みを浮かべて頷き片手を上に挙げた後ゆっくり標的の方を指す。
僕は逃さないように襲撃者の方を見ているが、周囲の観客は何が起こったんだと囲んでいるようだ。
高台に立ってなければ見えなかった。
そこに見事な程に全身甲冑の男達が現れた為、重力魔法を切り、観戦に集中する事にした。
1時間経っても戦闘は終わらない、戦士団の顔は目を見開き壮絶な笑みを浮かべていて戦っている。
何度も何度もアリーさんが直していき、恐ろしい笑みを浮かべているものの段々と息を切らせてきた。
このままでは演習が終わる前に先にアリーさんの魔力が切れてしまい中断になってしまうかもしれない。
そう思い僕は過去にアリーさんにやってもらって、お母さんに協力してもらい練習し続けた手段を取ることにした。
僕はアリーさんの手を両手で掴み、魔力を送り込んだ。
本来ならば他人の魔力に干渉する行為は、非常に難易度が高く送り込めたとしても、魔力が暴走したり相手に対し激痛をもたらしてしまうが光属性の回復魔法を駆使し、全力で集中し慎重に魔力を送り込む。
アリーさんも最初は驚いた様子だったが、意図を理解し僕の魔力を使い演習中の怪我を治していく。
僕に演習を見ている余裕なんてない、演習を終える為に目を瞑り全力で魔力を送り込む事に集中し続ける。
剣戟の音が聞こえ、爆発するような音が聞こえ、衝撃や振動が伝わる。
そしてだんだんと笑い声すら聞こえ始めた。
やがて、音は少なくなっていきドゴンと鈍い音がした後に無音が続き……。
地鳴りのような歓声が響き渡り、それと同時にアリーさんが僕の手を離し、すぐに両手で包み込んだ。
ハッとして、目を開けると汗だらけで疲弊したアリーさんが笑顔で僕の目を覗き。
「よく頑張った。勝ったのは赤色陣営、お前のお父さんだ」
そう言われて、急いで訓練場を見ると傷だらけのお父さんがこっちに向かって笑顔で手を振っていて、傍らにはこれまた更に傷だらけのお母さんが座って項垂れていた。
それを見て僕は安心して……。
気を失ってしまった。
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