第23話 普通、幼児は訓練しない

それから村は毎日騒然とした雰囲気になり、皆が訓練に対して更に力を入れ始め、お父さんとお母さんもお偉いさんが居る町に出向き、僕はアリーさんの家にお世話になった。


僕も、戦士団の皆に負けられないと頑張り続けた。


そして演習の日が決まり、その日に向けて木を伐り訓練場の敷地を拡げたり、訓練をしたり、人によっては貴賓の護衛の為に村から出ていく。


残り数週間になると、帝国の軍隊や、雇われた人がやってきて天幕を張り、訓練場の整備や、貴賓席の用意を進めていった。


その頃になると戦士団の皆は準備に追われ、僕は迷惑をかけないために人目の付かない場所で訓練を続ける。


日が経つにつれ村に来る人は徐々に増えていき、商人や貴族の部下がやってきて村は更に騒然とし、活気に満ち溢れていた。


残り数日となったところで両親が帰ってきて、それと同時に皇太子のアレックスさんとそのご家族もついてきて一緒の家で過ごすことになった。


久しぶりに会ったアレックスさん達は、僕の成長具合に仰天していた。


喋るのはまだ良いとして、2歳半にもなってないのに体ががっしりしていて歩行も立ち姿も安定していたからだろう。


僕がやっている訓練内容にも驚愕し、すごく心配してくれた。


勿論僕は大丈夫だと伝えたけど。


皇太子夫婦の娘さんのアイリスちゃんも順調に育っているみたいだけど、やっぱり恥ずかしいのかあまり目が合う事は無く奥さんのソフィアさんに抱っこしてもらっている。


知り合いとは言え、護衛は執事さん一人で一緒の家で過ごしてて安全的にも帝国的にも大丈夫なのか疑問に思ってはいるものの両親が信頼されていると考え、質問しないことにした。


お父さんとアレックスさんは食事が終わると直ぐに外出して仕事をしている。


残ったソフィアさんは護衛の代わりのお母さんと談話をしたり、僕とアイリスちゃんに絵本を読んでくれるのだが、勇者の話やらお姫様の話やらで正直僕には面白くないしつまらないが、アイリスちゃんは興味津々に聞き入り絵本を読み終わると拍手をして「もっと、もっと」とねだっていた。


どうしても体がウズウズして訓練をしたくなった僕はお母さんに「裏庭で訓練する」と伝えて外に出る。


裏庭は高い柵に覆われており、周囲からの目は気にしなくても大丈夫になっているので、短時間で全力の訓練をする為に、訓練用大斧を持ち身体強化を極限まで使い、その上で闇魔法の重力を倒れるギリギリ位まで掛ける。


ここまで来ると足が地面に食い込んできてまともに動けないが、無理矢理体を動かし、大斧を振るう。


横に薙ぎ、返しで逆袈裟で振り、そのまま振り上げ地面に叩き下ろす。


大斧を振り上げた時に手が離れてしまったら重力も相まって大けがをするだろうし、転んでもどこかを大けがする可能性もある。


だからこそ一振り一振り危機感を持って集中して挑めるのだ。




一方その頃、僕は訓練に全力で集中していた為気が付かなかったが、裏庭を見渡せる窓にお母さん、ソフィアさん、アイリスちゃんが一緒になって僕の訓練を見学していた。


今やっている訓練の説明をダッラからソフィアにしたのだが、どう考えても危なく映っていて、ダッラの方を向き

「止めた方がいいんじゃないかしら」

と言ったが。

「アンドレイにとってはこの位はいつも通りの事さ。あたし達が何かを言ったわけじゃないよ、自分から訓練をし始めたのさ。普段ならもっとキツイ訓練してるもんだから、人が増えてから自由に訓練も出来てないからきっと体がなまると思っちゃったんじゃないか?」

訓練している事を聞いていたとは言え、実際に目にしてみると想像を越えた訓練を行っていた。


大斧を振るう度に鈍い音が鳴り、地面に叩きつければ、ドゴンという音と共に地面が少し揺れる。


2歳の子供が出せるようない威力であるわけがない、が実際に目の前で起こってしまっている。


そのことに言葉一つ出せずソフィアはアンドレイの訓練に見入った。


ソフィアに抱かれたアイリスは誰かが武器を振るっている姿は絵本の中でしか見たことがなく、初めて見る訓練風景に興味津々だった。




大斧を無心で振るう、辛くなってきたら教え通りに口に笑みを浮かべ辛さを乗り越え、限界はまだまだ先にあるはずだ、そう自分を信じて振るい続ける。


すると体力よりも先に無理すると気を失う魔力の方が限界に近付いてきてしまったので中断して体力を回復する為に地べたに座り込む。


その時も笑顔を忘れず、今日の訓練も短時間とはいえ充実した訓練をする事が出来たと満足することにした。


その直後に、ドアが開きお母さんとソフィアさんとアイリスちゃんが来て労ってくれた。


特にソフィアさんからは、すんごく心配されたのだがいつもやってることなので安心してもらえるよう笑顔で元気よく

「だいじょうぶ!!」

と伝えた。

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