第21話 生きるという事
その後、5ヶ月?半年?程経つと体の制御が上手く出来るようになり、運動の効率も更にあがり、カイルさんからの指導を受けて打ち込みや、身のこなし方を教えてもらえた。
重力を使っての訓練のお手伝いも段々と魔力量が上がり、周囲の魔力を使う事も息を吸うように行えるようになった結果、参加人数も増やすことが可能になり短時間ではあるが村人全員での訓練が出来るようになった。
2歳にもなると1歳の時とは比べ物にならない程体は大きくなり体力も付き、更に追い込んだ自己訓練を行い、1時間もの間、訓練の手伝いした状態でも魔力を余らせられる事が出来た為、もう少し重力を重くかけることが出来るよと言ってみると村人全員の総意によって更に重力をかけての訓練を行うようになった。
毎日、一日も無駄にせず訓練し続け濃密な日々を送って、少しずつ強く、大きくなる体、増える魔力や操作能力の向上に満足していた。
そんなある日、日々限界まで力を振り絞って訓練をしていて辛そうな顔をしてたのだろう、夕食の時にこう助言された。
「アンドレイは訓練しているときあまりにも苦しくてつらい顔だったり険しい顔をしてしまうだろう?だが、そういう時こそ笑うんだ。笑えばやる気もでるし、気分も明るくなるし、元気になるし、良い事だらけだぜ!別に声に出して笑わなくたっていい、無理してでも顔を笑わせてやりゃあ良いんだ。」
そう言われてぼくはハッとした。
言われてみれば、みんな苦しい訓練をしているはずなのに辛そうな表情や険しい表情をした人は一人も居ない。
最初は皆、真剣な表情をしていても、時間が経つと段々笑みを顔に浮かべていて、それを疑問に思った事もあったが、いつの間にか当たり前のものとなって気にしていなかった。
その言葉に考え込んでいた僕に対しお父さんは続けて
「俺たちは戦う時だって笑うんだぜ、切られて痛い時も笑うし、危機が訪れたって笑うんだ。もちろん死ぬやつも出ちまう事もあるがそれでも笑うんだ。笑って前を向いて進み続けるんだ。アンドレイも気付いてるだろうが、この村の人間は皆戦える。昔は……。いや、さすがにまだ早すぎるな。悪い悪い!ガハハハハ!」
聞いた事のないお父さんの過去を聞けるのかと思い前かがみになって聞こうと思ったら急に話を切り上げられた為、気になってしょうがなかった。
なので
「ぜったいききたい!おねがい!」
と懇願してみせると、両親は顔を見合わせる。
ゴルダスとダッラはアンドレイが喋りだすようになってから一度も何かをお願いされたことはなく、初めて二人がお願いされた事が、自分の過去を知りたい故のお願いだったのだ。
それを思い出しフッと笑いゴルダスはまだ早いとは思いつつも自分の過去を語り、ダッラもまたそれに沿うかのように過去を語りだした。
二人の過去を聞き終えるまで1時間では利かないほどに時間がかかり、僕は軽い気持ちで過去を聞いたのを後悔していた。
そして理解した、何故みんなが辛くなった時に笑っていたのか、強さに胡坐をかかず強くなろうとし続けているかを。
その様子を見た二人は肩をすくめて目を見合わせる。
「おいおい、気にすんな気にすんな。過去の事を後悔したって意味はねぇ、それを反省し、考え、自分の糧として生きていくんだ。それを覚えておいてくれりゃあそれでいい」
「そうだよアンドレイ、今聞いたことをこれから生きていく事の糧とするんだよ。あたしだってゴルダスの仲間を殺してしまった時の事は今でも頭から離れない。それでもあたしを受け入れてくれた皆に感謝の気持ちを忘れた事は無いさ、彼らの分まで生き続けるんだ」
僕を慰めてくれる言葉が染みる、強さの裏にはそれだけの過去があったのだ。
だけどそれを過去のものだと切り捨てず、自分の糧として死んだ者の分まで生きていく……。
ぼくは今聞いた話を糧とする、そして必死に生きそして笑って死んでいった者達の分まで……、僕は俯いてしまった顔を上げ涙を拭き、二人の目を見て精一杯笑ってみせて
「わかった」
と答えた。
苦しい時も悲しい時もどんな時も、笑い、戦い、そして必死に生きていくのだ。
僕の言葉を聞き、様子を見たお父さんとお母さんは満足したかのように頷いた。
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