第4話 僕誕生
母が父達と合流し、各地を転々と逃亡生活しつつ戦争地域まで赴き復讐対象へ妨害や、奇襲を仕掛けたりしている中、自分たちの元へ訪れた者が居た。
その者は、元々敵国だった帝国からの諜報員だったのだ。
内容は、敵から手に入れた戦利品に関して口を出さず要求せず、言い値の報酬を用意し、その上望めば高い地位を用意することを約束。
その代わりに戦争に帝国側として協力をすること。
そして、諜報員は返事に関しては会談する場所を用意し3日後に行わせて欲しい言い、位置と時間のみを伝え、決して横柄な態度を見せることなく礼儀正しく去っていった。
利用するだけして裏切られるのではないかと心配する者も居た。
しかし決めるのはリーダーの父。
万が一、いや十が一、裏切られた場合、徹底的に生きる事を捨てて全力で仕返しをすると決めた上で協力することに決める。
会談の前日、場所を下調べするとその場所は小高い丘の上となっており、周囲は草花が生い茂っており隠れるのには明らかに向かない場所だった。
それを確認し、丘の麓から少し離れたところで一日過ごし、……そして会談の日。
約束通り、太陽が頂点に差し掛かる頃、総勢28人と少なくなってしまった部隊で会談場所に赴いた。
そこには人数分の椅子が用意しており、待っていた帝国の者と思われる者は3人だけ、見るからに貴族であろう服を着ている者が1人椅子に座っており、その者の護衛と思われる者が2人。
帝国から諜報員が来た時、姿を隠し、他に人間が居ないか見張っていた者も居たのに人数を把握されていた事、それとそもそも帝国側の人間が3人しかいない事に驚きを隠せない者もいた。
しかし、だからと言ってちゃんと座るかは別の話。
父は貴族の対面に座り、他の者は後ろに控えた
貴族っぽい人間がニコニコしながら口を開く。
「よく来てくれた、待っていたよ。君が噂の《爆風》かい?それとも《笑う悪魔》?どっちで呼べばいいかな?」
「おう、あんたら帝国に《爆風》って呼ばれてたなんて話は知ってるが、《笑う悪魔》っつーのはなんだ?」
《笑う悪魔》と呼ばれていたことを知らなかったのだが、それに答えたのは母だった。
「知らなかったのかい?ゴルダス達は戦ってる時、攻撃を食らおうが死のうがずーっと笑ってるのが気味悪くて《笑う悪魔》って呼ばれてたんだよ?」
「なんだと?誰が悪魔だ!せめて天使だろう!この顔を見ろ!素敵な笑顔だろう!!なあ!!」
父は、後ろに居る母に笑顔を見せ、すぐにぐりっと振り向き帝国貴族の方に笑顔を見せた。
「素敵な笑顔には間違いないけど、確かに戦ってる時にずっとその顔で突撃してくると考えると確かに怖いかも」
「ぐぬぬぬぬぬ、思うところはあるがまあいい。俺の名はゴルダス。ゴルダスと呼んでくれ」
「うん、わかった。ゴルダスだね。私の名はアレックスだ。今日は来てくれてありがとう」
アレックスという名に聞き覚えのあった父は、ん?となる。
「ん?アレックス?そりゃあんた……帝国の皇太子と同じ名前じゃねえか」
「そうだよ。私はレギアス帝国第7代皇帝ランゼル・ドラ・レクスノスの息子、アレックス・ドラ・レクスノスと言う。君たちの勧誘は私が望み、父を説得し今回の場を設ける事が出来たのだ」
そういうと、懐から皇帝の玉璽が押された証明書を差し出した。
それを聞いて、みんなは驚き、父は出された証明書を受け取る。
「こりゃあ驚いたな、俺たちなんぞを勧誘するのに、皇太子が直々に勧誘しに来るとはな。それも護衛も二人で……。護衛は見るからに強いのは理解できるが、俺たちを相手にするにはさすがに人数不足が過ぎないか?」
しかし、それを聞いても護衛も表情を変えることはなく、アレックスもにこやかな笑顔を変えず。
「君たちは理由もなく力を振るったりしないだろう?それに相手にするとなれば軍が必要だ。そんな数を連れてきたら会談どころでは無くなってしまうだろう」
「まあ、そりゃそうだ。そんで?本題に入ろうじゃねぇか」
「そうだね、本題に入ろう。こちらが望むことは、君たちの力が欲しい。装備も欲しいものがあれば用意するし、君たちで手に入れた戦利品などを寄越せとも言わない。騎士になりたいのであれば相応の地位を約束する。もちろん戦争の勝利にどれだけ貢献したかによっては領地をもち貴族になることも出来るだろう」
それに対し父は眉をしかめる。
「随分と高く買ってくれてるじゃねぇか。だが、そんな旨い話があるわけねェ。その話にはどんな裏があるんだ?」
父のその発言にアレックスは笑みを深め答える。
「裏なんてないさ、私は君達の恐ろしさを知っているんだ。」
「どういうことだ」
「帝国の皇子・皇女として生まれた者は、必ず戦地へ赴き、戦争を経験しなければならないという習わしがある。もちろんその戦場で死んでしまうと言うことは稀にある。だがそれは、味方による裏切りか、暗殺、待ち伏せや相手の策によるものだった」
一呼吸おいて話を続ける。
「私の兄は戦場で、精鋭に守られていたにも関わらずあっという間に突破され無謀にも立ち向かい殺された。そして私が戦場に立ったときも逃げるのが遅ければ死んでいた。それも、父である皇帝の直属の精鋭部隊の一つを護衛に付けてもらったのにもかかわらずだ。普通ならそんなことはありえない。だがあなた達にはそれが実現出来てしまう程の力がある。戦場であなた達の強さを目にしたとき、最初に感じたのは恐怖だ。」
アレックスはその時の恐怖を想い出したのか手が震え、その手を見つめる。
そして震えが止まったのか、今度は力強い目で父の目を見つめた。
「しかし、その強さが味方になればどれだけ心強いかと考えた。だからこそ、あなた達が公爵の令息を殺し裏切ったと聞いた時は思わず嬉しさに震えたよ。調べれば調べるほど間抜けた事をしたものだと思ったさ、味方を裏切ったのは公爵の令息だったのにもかかわらず、くだらないプライドであなた達を逆賊だと言い張り、歯向かった者を処刑し事実を隠した。だが私にとっては千載一遇のチャンスだ。あなた達を探し続けやっと見つけて接触出来たという訳だ。」
アレックスは立ち上がり、父の目の前まで歩き、手を差し出す。
「私の命に懸けて誓おう、裏はない。ダルガス、あなた達の力が欲しい」
ダルガスは立ち上がり、ニヤリと笑う。
「気に入った。条件はいくつかあるがその話に乗ろう。だが裏切れば俺たち全員の命を懸けてお前を殺す。それでいいな?」
と言いアレックスの手を握る。
それに対しアレックスは満面の笑顔で答える。
「もちろんさ!」
と言い、両手でその手を強く握りしめた。
父達と帝国で交わされた交渉で父が出した条件はいくつかあり。
一つ目、戦争に勝利した暁には小さい村を1つ作り、自分達がそこに住む事。
二つ目、自分達が裏切りの烙印を受けた時に、被害を受けた者とその周囲に対する補償。
三つ目、自分達の罪を償う機会を設けること。
以上を条件として、帝国側はその全てを受け入れた。
父とその仲間を味方とした帝国は快進撃を見せる。
質の帝国、数の王国だったのだが父の部隊が先頭に立ち、帝国の騎士たちや魔法部隊が掩護をし、戦線を次々破壊していき、攻城戦も起きたが、父の大斧を前に門は弾け飛び、父を狙う攻撃を母が身体で受け止め、突っ込んでいく……。
そして、例の公爵を仕留める時、公爵が大切そうに隠していた大きな宝玉のついたペンダントを発見した父は、それを母にプレゼントとして渡し、母は嬉しそうにそのペンダントを受け取り首にかけた。
いくつもの戦闘が終わった中、野営などで一時的に休む時間をもらうと父と母は隙を見ればおせっせをし、お互いを貪っていたが、その際に起きる地響きや、獣のですら出さないような嬌声に周囲の者達は、ドン引きもしくは恐怖し、近寄らなかったそうだ。
帝国は奪った領土の町や村に対して寛容で、大きな変化を与えることもなく、そして税も無駄に多く取られていたりや横領が蔓延っていたことからそれを悲観し、税を大幅に下げ統治をし、そこに住む民の多くはそれを歓迎した。
それを見て各地で領主や貴族に対する反乱が勃発。
貴族から離反者が現れ始め、王国は再起不能まで追い込まれたが王家は最後まで権力を手放す事を嫌がり、我が身可愛さに徹底抗戦の構えをみせ、最終的には自分に忠誠を誓ったはずの騎士たちによって殺され、王国は消滅。
そして、各地で反抗をみせる貴族達の残党狩りが始まる。
その頃からだろうか、母のお腹が大きくなってきており、これを太ったと勘違いした母は己の肉体を苛めに苛め抜いて、肉体を更に強化しつつ戦場にて自分から最前線へ行き戦い続けていた。
残党狩りが終わった頃、仲間の一人のアリーというヒーラーが母のお腹がどんどん大きくなっている事に気付き、母から最近の体調の変化を聞き取り、妊娠している事が発覚。
それを母が父に言うと、大喜びし、用意してもらっていた村へ行くことを上の人間に伝えて大急ぎで荷造りし、村へ向かった。
引っ越しも完了。
出産の際は自分が世話をすると聞かなかった父は、帝国の人間にお願いし助産師から教えを熱心に受けた。
それから数か月後……。
陣痛が起き、準備を整えた。
しかし父が聞いていた話と違い、母は気合いと根性で唸り声をあげ、陣痛から僅か30分足らずで僕を産んだのだが、僕を産むその瞬間、母はペンダントを握り込み、力み過ぎて宝玉が砕け光を放ったらしい。
その日のみんなの喜びようは凄いもので、父と母以外ぶっ倒れるまで酒を飲んだそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます