第2話 母
この世界での母は、親を知らず、とある町の孤児院で育ったらしい。
小さい頃から他人より身体が大きく、誰よりも強い力を持ち、醜い顔をしていると他の子供や、保母さんや町の人からも気持ちが悪いと言われていた。
それでも母は、その力を人の為にと他人の困った姿を見たら率先して助け、手伝っていたようだがそこであったのは容姿の醜さからの迫害。
助けようとすると、襲われそうになったと騒がれ、手伝おうとすると近寄るなと、殴られ、石を投げられた。
そんな母を誰も気遣わず、気味が悪いと保母さんが孤児院から母を追い出したのが9歳の頃。
誰も助けてくれる人が町には居らず、食料をくれる親切な人も居なかった為お腹を空かせた母は町の外に一人で飛び出し、森に向かった。
森に着いた母は意識を朦朧としながら食料を探しながら森の奥へ奥へと進み、そこで目に入ったのが薄緑色の毛を生やした狼。
それも1匹ではなく3匹、基本的に群れで行動するフォレストウルフという魔物。
母がフォレストウルフを認識していた時、同時に相手にも認識され行われたのは命の奪い合い。
母の武器は落ちてた石、勝てるわけのない戦いだった、石を振り回し抵抗するが両手を二匹が嚙みつき引っ張るようにし、残りの一匹が顔に嚙みつこうとしたのだが、その時に命を危機を察してか母が生まれつきもっていたスキルが発現した。
それは、石のように身体を硬化する<ストーンスキン>、もうひとつは正気を失う代わりに絶大な力を手に入れる<狂化>。
次に意識が戻った時には、周囲も体中も血だらけ、笑みを浮かべながら狼の肉を貪っており、着ていた衣服はぼろの布切れのようになっていた。
正気を取り戻した後も肉を食べ、皮を剥いで身に纏いぼろぼろの身体で更に奥へ奥へと足を進めていく……。
それから10年経っても母は森から出ることもなく洞窟に住み魔物を狩り時には強力な魔物と死闘を繰り広げ、冒険者の姿が見えれば身を隠し一人で過ごす。
何度か冒険者を見つかった事があったのだが、母の身長と体格の良さ、そして容貌がまるで魔物のように見えたのか切りかかられたり、弓を撃たれたりした経験から出来る限り姿を見せないようにしたようだ。
更に3年程経った頃、母が獲物を探し散策していると倒れている冒険者の姿が……。
それまでも何度も冒険者が倒れていた姿を見たことがあり、その全ては既に事切れていたがその冒険者は生きていた。
冒険者を寝床まで連れていき、死なないよう必死に治療を施し一命を取り留めた。
その冒険者が目覚めたとき、母は素早く身を隠したが当然気付かれ、姿を現す。
その姿に驚いた冒険者だったが感謝の言葉を言い、母の話を聞いた。
母の話に涙し同情した冒険者は、身体が治るまでその寝床で過ごしていたが、母の強さに驚き、母が町に行き迫害や差別をされず、絶対になめられない方法を授けた。
その方法は母だからこそできる方法であり、出来る限り強力な魔物を狩り、その魔物をその怪力で担ぎ、町に堂々と入る、町に入るのにはもちろん通行料のようなものが必要になるが、その場で魔物の素材を剥ぎ取り渡す。
その後はその足で冒険者ギルドに行きその魔物を手土産代わり冒険者ギルドに登録するというもの。
結局は圧倒的な力を持てば、舐められず恐れられはするだろうが町に居た時のような迫害をされる事はなくなる。
怪我を直した冒険者は、町に戻り母から受け取った金や素材を使い、母に合う装備を整え、周囲の仲の良い冒険者や衛兵に助けてくれた女性に恩を返すために手を貸してほしいと頼みこみ下準備をしてから母の元に戻り装備を渡し、町への道を念の為教えて「町で会えるのを楽しみにしている」と言い別れる……。
それから数日後、水で身体を清潔にし、伸ばしっぱなしだった髪を邪魔ではない程度に切り、装備を着て、昨日森の更に奥にて己の拳で討伐した体長が大人4~5人くらいの大きさのロックドレイクの尻尾を担ぎ町へ向かった。
もちろんそんな馬鹿でかいものを担ぎながら歩けば木が邪魔になるが、それを悉く蹴り倒し進む、途中で冒険者や魔物に見つかるが怖がって近づかないか逃げていった。
数時間経ち街道に出て遠くに見える町へ向かう。
そんなでかいものを担いで歩いてはいるが休憩なしでも疲れていない、だが自分が小さい頃にトラウマを抱えた町に近づくにつれ、表情は険しくなり息は心なしか荒いものになっていたが、遠くに見覚えのある姿がある。
助けた冒険者が心配して念の為に様子を見に来ていたのだ。
問題なければ一度町に引き返すつもりだったが、予想をはるかに超えるデカさの魔物、それも自分では天地がひっくり返っても勝つことはできないロックドレイクを担いで来ている事に驚き母に接触し共に町に向かう。
流石にそのまま町の中に入ることは出来ないと、友人の衛兵にその魔物の見張りを頼み母を冒険者ギルドに連れていき事情を説明し、魔物解体専門のギルド職員と共に町の入口へ向かった。
そこには沢山の野次馬が集まっていたが、母の姿を見ると道を開けていく。
その中には過去に見かけた顔もあったが過去の弱い自分は居ないと無視をし、堂々と胸を張り前を向き真ん中を通る。
その後は、ロックドレイクの素材をギルドに売りそのお金でギルドへ登録を済ませ、1年後にはその町一番の冒険者となる。
そして町一番となった母に指名依頼が国から依頼される。
国を裏切った逆賊……人呼んで《笑う悪魔》と呼ばれる元騎士団の討伐であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます